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お笑い評論家・ラリー遠田の【この芸人を見よ!】第22回

「星を継ぐ者」古臭さを武器に変えた浅草最強の新世代 ナイツ

naitsu21.jpg「21世紀大ナイツ展」ビクター
エンタテインメント

 漫才の祭典『M-1グランプリ』は、出場した芸人の運命を大きく変えてしまうことがある。昨年末の大会では、優勝したNON STYLEがほぼ無名の状態から一躍有名になり、準優勝のオードリーもこの日から一気に人気が爆発していった。

 そんな中で、3位に終わったナイツは、良くも悪くも終始マイペースを保っていて、M-1の前後でもさほど世間の評価は変わらなかったように見える。

 彼らがM-1で見せた漫才スタイルは、通称「ヤホー漫才」と呼ばれている。ボケの塙宣之がインターネットの「ヤホー」で調べた知識を披露したいと切り出すと、ツッコミの土屋伸之が「ヤフーだろ」とすかさず訂正する。そこから塙は間違いに間違いを重ねて、際限なくボケを繰り返していく。単なる言葉遊びのような言い間違いだけにとどまらず、急に下ネタが入ったりあり得ない間違え方をしてみせたりと、緩急自在の構成で隙のない漫才に仕上げている。

 彼らが「ヤホー漫才」を確立するまでには、長い苦労の道のりがあった。2月に発売されたDVD『ナイツ単独ライブ「21世紀大ナイツ展」』を見ると、その進化の過程がよくわかる。これは、昨年8月に行われたナイツの単独ライブを収録したもの。このライブでは、ナイツが自分たちの歴史を振り返り、各時代ごとにやっていたネタをそのまま披露している。正統派のコントから始まり、時事ネタ漫才、野球漫才など試行錯誤を繰り返しながら、彼らは最後に「ヤホー漫才」にたどり着いた。ナイツのネタの歴史が一望できる興味深い内容になっている。

 また、最近の彼らは漫才師としてだけでなく、テレビタレントとしても快進撃を続けている。彼らの売りは、今どきの若手としては珍しい生粋の浅草芸人である、ということだ。ナイツは浅草の演芸場を拠点に活動を続けて、寄席をメインに年間500回以上も舞台に立っている。また、塙は社団法人漫才協会の理事を務めていて、名実ともに浅草演芸界をリードする存在となっている。

 彼らはトーク番組に出ると、世間では知られていない浅草の先輩芸人たちのエピソードを披露して笑いを取っている。テレビお笑い界では未開の地であった浅草演芸界の人物やエピソードを面白おかしく紹介することで、ナイツは他の誰にも真似できない独自のポジションに立つことができた。

 ナイツの若手芸人らしからぬ真面目さ、垢抜けなさ、ネタの古臭さなどが、浅草を売りにすることで全てメリットに転じる。真面目で垢抜けない雰囲気が、浅草を拠点に活動しているということに妙なリアリティを生むからだ。

 萩本欽一、ビートたけしなど、浅草からテレビに進出して売れていった大物芸人は何人か存在する。だが、浅草出身であることを自覚的にネタにしてここまで有名になったのはナイツが初めてだろう。浅草がテレビバラエティの世界から完全に取り残された時代だからこそ、ナイツが異彩を放つことができた。テレビお笑い界と浅草演芸界という2つの世界を股に掛けて活躍を続けているナイツは、唯一無二の地位を確立した新世代の浅草芸人である。
(お笑い評論家/ラリー遠田)

●「この芸人を見よ!」書籍化のお知らせ

日刊サイゾーで連載されている、お笑い評論家・ラリー遠田の「この芸人を見よ!」が本になります。ビートたけし、明石家さんま、タモリら大御所から、オリエンタル・ラジオ、はんにゃ、ジャルジャルなどの超若手まで、鋭い批評眼と深すぎる”お笑い愛”で綴られたコラムを全編加筆修正。さらに、「ゼロ年代のお笑い史」を総決算したり、今年で9回目を迎える「M-1グランプリ」の進化を徹底的に分析したりと、盛りだくさんの内容になります。発売は2009年11月下旬予定。ご期待ください。

ナイツ単独ライブ「21世紀大ナイツ展」 [DVD]

ドキュメントでもある。

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●連載「この芸人を見よ!」INDEX
【第21回】立川談志 孤高の家元が歩み続ける「死にぞこないの夢」の中
【第20回】バカリズム 業界内も絶賛する「フォーマット」としての革新性
【第19回】劇団ひとり 結婚会見に垣間見た芸人の「フェイクとリアル」
【第18回】オードリー 挫折の末に磨き上げた「春日」その比類なき存在
【第17回】千原兄弟 東京進出13年目 「真のブレイク」とは
【第16回】狩野英孝 「レッドカーペットの申し子」の進化するスベリキャラ
【第15回】サンドウィッチマン 「ドラマとしてのM-1」を体現した前王者
【第14回】小島よしお 「キング・オブ・一発屋」のキャラクター戦略
【第13回】U字工事 M-1決勝出場「北関東の星」が急成長を遂げた理由
【第12回】江頭2:50 空気を読んで無茶をやる「笑いの求道者」
【第11回】バナナマン 実力派を変革に導いた「ブサイク顔面芸」の衝撃
【第10回】山本高広 「偶像は死んだ」ものまね芸人の破壊力
【第09回】東京03 三者三様のキャラクターが描き出す「日常のリアル」
【第08回】ジャルジャル 「コント冬の時代」に生れ落ちた寵児
【第07回】爆笑問題・太田光 誤解を恐れない「なんちゃってインテリ」
【第06回】世界のナベアツ 「アホを突き詰める」究極のオリジナリティ
【第05回】伊集院光 ラジオキングが磨き上げた「空気を形にする力」
【第04回】鳥居みゆき 強靭な妄想キャラを支える「比類なき覚悟」
【第03回】くりぃむしちゅー有田哲平 が見せる「引き芸の境地」
【第02回】オリエンタルラジオ 「華やかな挫折の先に」
【第01回】有吉弘行 が手にした「毒舌の免罪符」

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最終更新:2013/02/07 12:59
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