“ままならないかわいさ”『高架下建築』の魅力が詰まった写真集
#サブカルチャー #写真集
普段見る何気ない風景も、視点を変えると見えてくるものがある。写真集『高架下建築』(洋泉社)は、そんなアタマの隅をつついてくれるような一冊だ。
高架とは、主に鉄道や高速道路に用いられる、地上に連続して架けられた橋のこと。その高架下にある住居、商店、倉庫などの建物を総称して”高架下建築”と呼ぶ。それらは高架の高さにぴったりと合わせて設計されるため、同じ向き、均一な高さで並べて建てられている。
本書では、大阪中津から、山手線沿線、東京の下町などの”高架下建築”が数多く紹介されている。それらのエリアごとに特徴ある高架下建築を収め、ページを手繰るとまるで高架沿いを歩いているかのような気分になってくる。
本書の文章と撮影を手がけたのは、『工場萌え』シリーズや『団地の見究』(ともに東京書籍)、『ジャンクション』(メディアファクトリー)などで知られ、”ドボク・エンタテインメント”を提唱する大山顕氏。同氏は、”高架下建築”の魅力を「建築としてままならない」ことだと語る。
「高架そのものは、鉄道のために最適化されていて、その下に入る建築のことを考えて設計されているわけではありません。高さが微妙だったり、間口も普通の建築ではなかなかないような微妙な大きさだったりします。普通の建築とは異なる”ままならなさ”を抱えているのに、ファサード(建築物の正面の外観)はあくまで”普通の家のフリ”をするのが、かわいらしく、いじらしいんですよ」(大山氏)
たしかに高架を屋根に据え置いたその下に立ち並ぶ建物は、「一階建てにしては天井が高すぎるけど、二階建てにするには低」く、無理やり詰め込まれたような感じさえする。だが個々の建物をよく観察してみれば、色合い鮮やかだったり、スタイリッシュだったりと、けっして均質な建物になることなく立ち並んでいるのである。
その、制限のある建築物としての面白さや、その中で見られるちょっとヘンなところ、それが大山氏の言う”かわいらしさ”なのだろう。
現在、千住大橋エリアのように、老朽化が進み絶滅に瀕している高架下建築も少なくないという。大山氏は、「現在はまだかなり古いままの状態のものが残っていますが、早晩こういうものはなくなって、こぎれいなものに置き換えられるでしょう」と語りながらも、悲観はしていない様子だ。
「過密した大都市において、まさに駅近物件と言える高架下は利用されずにはおかれないので、高架下建築の存在そのものはなくならないと思います。ただ、ずいぶん雰囲気は変わるでしょうが。ぼくは古くても新しくても”ままならない”点は高架下建築である限り変わらないので、どちらも面白く見ていきます」(同)
どんなに建築物が近代化していっても”高架下建築”は”高架の下にある”という絶対に逃れられぬ制限がある。その”ままならなさ”を”かわいい”と感じられたら、世界が少し違って見えるかもしれない。
(文=平野遼)
●”めくるめく高架下建築の世界へ!”大山顕スライド&トークショー
2009年3月5日(木)19:00~(開場18:30)
会場……8階喫茶
料金……¥1000(1ドリンク付)
定員……40名
詳しくはこちらまで。
●おおやま・けん
公営団地を紹介するWEBサイト「住宅都市整理公団」総裁。団地や工場のほかにもジャンクション、水道管、螺旋階段、高架下建築、地下鉄ホーム、駅のパイプ群など幅広い鑑賞趣味を持つ”ドボク・エンタテインメント”の提唱者。NHK BS『熱中時間』などテレビ出演多数。
高架下建築協会
http://blog.livedoor.jp/elarch/
ドボクの世界へ。
【関連記事】 「工場に萌えるということ」先駆者2人が語る工場鑑賞の美学
【関連記事】 “ガッカリ観光地”になる!? 廃墟の王様『軍艦島』の未来
【関連記事】 空飛ぶガマ!? がっかりを楽しむB級スポット『ガマ洞窟』
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事