177人のママを撮った写真家・山田なおこの「現代スナック論」
#サブカルチャー #写真集
どこの街の片隅にも、小さな明かりを灯しているスナック。
スナックは、疲れたサラリーマンの宿り木として日本の高度経済成長を支え続けてきた。しかし時代は21世紀。今や若者にとってスナックは、コントや刑事ドラマで見るだけの場所になってしまった。その小さな明かりは、路地裏からも姿を消しつつある。
そんなスナックの「ママ」177人のポートレートを集めた写真集『スナック』が話題を呼んでいる。いったい、スナックとはどのような場所なのか。そして、スナックの持つ魅力とは何なのか? 著者であり、現役でスナックに勤務する写真家・山田なおこさんに話を聞いた。
──まず、なぜ「スナック」を写真集のテーマにしようと考えたのでしょうか?
「最初は写真集のテーマとは考えてなかったんです。自分が今までやったことないアルバイトをやってみようと思い、スナックでアルバイトを始め、そこで知り合ったママが、今まで会ったことのないような素敵な女性だったんです。男性的な強さを持ちながら、女性の優しさを持ち合わせていて、すごくかっこよく思えたんですね。それでいろんなママに会ってみたいと思ったのがきっかけです」
──もともとお酒とかお喋りが好きだったんですか?
「お酒は好きだったんですけど、人と話すのはすごく苦手で。人の多い所もダメだから、最初はカウンターの中で洗いものばかりしてたら怒られて。でも常連の方たちが優しく迎えてくれたので、そこからなんとなく喋れるようになっていきました」
北は北海道から南は沖縄まで、文字通り「日本全国津々浦々」のスナックのママ177人を収録したこの『スナック』。制作には実に10年もの歳月を費やしたというが……。
──このテーマで出版しようという理解のある出版社はなかなかなさそうですね(笑)。
「そうですね(笑)、リトルモアさんは勇気ある決断をしてくれて(笑)」
リトルモア「今すぐにどうっていうことではなくて、本は10年、20年、30年とずっと残っていくものですから。時間が経った時に絶対にすごい本になるんじゃないかと思うので」
”スナックのママ”というテーマもさることながら、写真の内容も充実した仕上がりになっている。177人のママのポートレートのそれぞれからは、その生き様や生きてきた証が立ち上ってくるようだ。
──”スナックのママ”というのはどういう人が多いんでしょうか?
「一概には言えないんですけど、キテレツな人は少なくて、ちゃんと常識があり母性が強い人が多いですね。ちゃんとお客さんの話を聞いてあげて、とても優しいです」
──若い人には、なかなかスナックに行ったことがある人は少ないんですが。
「都会の人は特にそうですよね。地方の、カラオケもキャバクラもないような所だと、スナックで歌ったり、寄り合いを開いたりするんですが。昔のように上司が部下を連れて来ることもなくなり、若い人は仲間内で居酒屋に行ってしまうことが多いみたいですね」
──人と繋がる、という意味でもスナックは大切な場所ですよね。
「ママがちゃんと叱ってくれるのもスナックの魅力です。『ママ聞いてよ~』と愚痴をこぼしていても『それはあんたが悪い!』みたいなお叱りを受けたりしますから。チェーン店じゃ絶対にそんなことはないでしょ」
──現在でもスナックに勤務しているんですか?
「学芸大学の『司』という店で週3日働いています」
──山田さんも叱るんですか?
「叱ってはいないつもりですけど……、『はっきり言うね』とは言われます(笑)」
──スナックに勤務して培われたことはどんなことでしょうか?
「世の中にはいろんな人がいる、ということですかね。だから人をナメちゃいけないし、誠意を持って対応しなきゃダメ。外見とか職業とか、そういう分かりやすい要素で人を判断せずに、誠意を持って人を見なきゃいけないと思うようになりました」
──日刊サイゾーの読者は、あまりスナックに馴染みがないと思うんですが、スナックの魅力を一言で現すとすれば?
「いや、もうとりあえず行ってみてください(笑)」
──ちょっと入るのに勇気がいるんですが……。
「スナックは全然怖い場所じゃないですよ。人間関係の濃い空間で、時にはそれが面倒なことがあるかもしれませんが。けれども、自分のことを知らない人の間でお酒を飲んでいると、自分のことがすごく分かるし、自分のことを教えられるんです。ママからだけじゃなく、他のお客さんからも思いがけない言葉が返ってきたり。だから、若い人も居心地のいいチェーン系居酒屋ばっかりじゃなくて、たまにはスナックでも遊んでください」
(取材・文=萩原雄太[かもめマシーン])
●山田なおこ
1965年福岡県生まれ。89~91年、六本木スタジオ勤務。その後、アシスタントを経て、96年にフリーランスとなる。97年より都内のスナックでアルバイトをしながら、各地のスナックで撮影。
“昭和の遺産”なんて呼ばないで。
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