四面楚歌で壊滅寸前!? エロ本生き残りの条件(後編)
#アダルト #企業 #雑誌 #出版 #性
「記事の見出しやキャッチコピーに、それほど力を入れなくなりましたね。中身を見られないと、見出しに力を入れても意味はないですからね」(同)
編集者がそうした細かいこだわりに注力などしていられない事情もある。以前に比べて編集者の仕事量が、はるかに増えているのだ。それは、前述した付録DVDの制作作業である。
さらに、DVD付きになっても、制作費は据え置きの場合がほとんどだ。当然編集者は、なんとかしてDVDの制作費をひねり出さなければならない。誌面用のグラビアを撮るついでにメイキング映像を撮影する、企画モデルのハメ撮り動画を撮影するついでに誌面用の写真も撮るなどといった誌面とDVDの連動によって制作費を抑えることなど、いまや常套手段である。
「まず、DVDありきの編集方法に変えました。最初にDVDを作り、その後に本誌を作る。最初は編集者として抵抗もありましたよ。AV作るために出版社に入ったんじゃないと。編集者としては残念ではありますが、エロ本も今は、付録DVDの中身が勝負の時代なんです」(アダルト雑誌副編集長)
●AVの広報誌化するエロ本 失われるコンテンツ制作力
しかし、売り上げ不振などで制作費がさらに絞られるようになると、経費のかかる撮り下ろしページの制作は難しくなってくる。そこで生まれたのが、AVメーカーから素材を借りてくるという手法だ。もともと、毎月AVメーカーから大量に提供されるサンプルムービー(予告編)を入れることは、付録DVDの基本だった。
しかし1年ほど前から、その種のAV素材に完全に頼り切った雑誌が目立ってきた。その象徴的な存在が、「プレステージ本」と呼ばれる雑誌である。
ここでいう「プレステージ」とは、近年最も勢いがいいといわれている中堅AVメーカーのこと。「Tokyo流儀」や「WATER POLE」といった人気シリーズを多数抱えており、こうしたシリーズを特集するような形で作られた雑誌が「プレステージ本」。付属DVDのみならず、誌面の写真でさえも、AVの画像で埋め尽くされているのである。
「一冊まるごとプレステージ」(ダイアプレス)、「Tokyo流儀DVD MAX」(三和出版)と、誌名にも同社の名前やその人気シリーズ名が掲げられている。もともとは撮り下ろし中心の雑誌だったのがプレステージ本にリニューアルした例もある。今やその数は、10誌以上に上っているのである。
借り物の動画と写真で1冊作ってしまうのだから、制作費は抑えられ、しかも売り上げは好調。このためプレステージ本は利益率も高く、不振にあえぐ出版社にとってはありがたい存在だ。出演モデルのルックスにこだわり、カラミ中心でわかりやすい内容の同社AV作品は、雑誌との相性が良かった。
「うちとしては、パブリシティの一環だと考えています。コンビニの棚にプレステージの名前の付いた雑誌が並んでいれば、売れているメーカーなんだなとユーザーに認識してもらえる」(プレステージ広報・小野たかひろ氏)
最近では、「S級素人」など他AVメーカーの作品を使用した同種の雑誌も多く出版されている。さらに、ひとつのAV作品をまるまる収録する雑誌さえ出てきた。しかも、その付録DVDは、ハードケースに封入され雑誌に挟み込まれている。こうなるともはや、雑誌なのかDVD作品なのかさえ判然としない。誌面は、DVDの包み紙にすぎないという気もしてくるのである。
自社で撮影をしないため、仕事で生のハダカを見たことがない編集者も少なくないという。一見撮り下ろしのグラビアに見えても、そのほとんどがAVメーカーから提供された写真なのだ。その上、前述した通り、読み応えのある読み物記事を誌面で展開することも難しくなってきている。つまり、エロ本の編集者から、コンテンツを作る能力が失われつつあるのだ。
多メディア時代において出版社の武器となるのは、まさにこの「コンテンツ」を持っていることだ。他分野においては、雑誌という形態を離れ、携帯電話などでの配信に活路を見いだそうとしている出版社もある。そこで重要になるのが、コンテンツを持っていること、そしてそれを作れることだ。しかし、その唯一の武器さえ失われようとしているのが、現在のエロ本業界なのである。
AVメーカーから提供された素材を商品にするのが仕事だと思っている編集者ばかりになりつつある昨今。アダルト系出版社が、AVメーカーの広報部という存在になってしまう日も、そう遠くはないのかもしれない。
(文=安田理央/「サイゾー」3月号より)
名作。
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