「記事書くから広告を!」企業に媚びる大マスコミの悲哀(前編)
#企業 #経済 #座談会 #不況
未曾有の不況の最前線で取材をし、記事を書いている新聞・雑誌各社の経済記者たち。大企業を苦境に陥れる不景気という名の黒い影は、それを報じる側のマスコミ各社にも及びつつあるようで──。
[座談会出席者]
A……全国紙経済部記者
B……全国紙経済部デスク
C……経済誌記者
A 昨年は経済記者にとっては、ホントに忙しい1年でしたね。
B 昨年9月末に米証券大手のリーマン・ブラザーズが破綻してからは、アメリカ系を中心とした外資系金融機関の経営状況が一気に厳しくなった。
A でもこれまでは、好景気をいいことに、どこの外資系金融機関も結構あくどい商売をやっていましたからね。10月末にソフトバンクが、保有するCDO【註:債務担保証券。社債などで構成される資産を担保にした証券で、企業の資金調達などにも使われる】によって、最大で750億円もの損失が生じる可能性があるって発表しましたよね。
C ソフトバンクの経営危機が取り沙汰されていた時期だったので、私も注目していました。
A あのCDOの問題についてはソフトバンクは被害者だったみたいで、同社社員は「ゴールドマンにハメられた」って怒ってましたよ。06年にソフトバンクが資金調達について米証券最大手のゴールドマン・サックスに相談した時に、「CDOを活用すれば、低コストで資金を得られる」って熱心に勧めてきたんだそうです。でもその際に、損失が出る可能性については十分に説明してなかったみたいで、相場の急激な悪化で巨額の損失が出ることがわかった時点では、すでに後の祭りだったとか。
C 似たような取引で、08年3月に武富士が300億円の損失を出したことがあったけど、あれも米系のメリルリンチ日本証券が提案した案件でしたね。外食大手のサイゼリヤがデリバティブ取引で150億円という損失を出したのも、仏系のBNPパリバ証券が取引相手だったし、確かにどれもこれも外資系だ(笑)。
B 1~2年前に取材先の国内大手証券会社の社員と話していた時に、「外資系の若い奴らは、一見すると利益が出そうなおいしい提案で、俺たちの昔からの取引相手をごっそり奪っていく。でも、実際にはリスクの大きい商品だから、買った企業は近いうちに痛い目を見る。そうなってしまった時、外資系は日本から撤退してしまえばいいけど、俺たちはそんなことはできるわけもない」なんて言っていたのを思い出すよ。でも実際、六本木界隈でブイブイいわせていた外資系の若い奴らの待遇も、かなり悪くなったみたいだな。
C 知り合いの外資系金融機関の社員に聞いたんですけど、10月に突然上司に呼ばれて、「今年度の年間経費が半額になったから、よろしく」と言われたって嘆いてた。
A 一気に半額か! でも、それも天罰じゃない? これまでがイケイケすぎたんだから(笑)。
C その知人は、その時点ですでに年間経費の半分くらいを消化していたから、要するにその時点で使える経費がゼロになったということなんです。でももっと悲惨だったのは、同じ部内に年間経費をすでに半分以上使ってしまっている奴がいて、そいつはオーバーした分をボーナスから引かれたっていうから、まったく目も当てられないですよ。
A まぁ、首を切られないだけマシなんでしょうけど……。
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A でも、今回の金融危機による景気の悪化は、本当にヤバいくらい深刻ですね。
B 何しろ、「100年に一度の金融危機」っていうぐらいだからな。俺も年末に何度か銀座に飲みに行ったけど、いつもなら歩くだけでも苦労するクリスマス前だったにもかかわらず、街にあまりにも人が少なくてびっくりしたよ。よく行くクラブのホステスたちも必死で、ちょっとでも客を増やすために、ミニスカートやキャミソールを着たりして、肌の露出をやたら多くしてたな。
C それは、思わぬ不況の恩恵ですね(笑)。でも、不景気だなんだっていったって、Bさんはちゃんと遊んでたんですねえ。さすが大新聞社のデスク様だなあ。
B おい、そこは突っ込むところじゃないだろ(苦笑)。でも今回の危機は、国内発のバブル崩壊なんかとはまったく違って欧米発のニュースだから、取材もなかなか大変だよな。日本で夜回りをしてても仕方がないから、カネがある日経や朝日は、ワシントンやニューヨーク、ロンドンなど欧米の主要都市に、特派員として経済部員を大量に送り込んでいるみたいだ。
A 確かに、記者クラブで他紙の記者が「来週からニューヨークの支局に応援に行くことになったんで」なんて、聞いてもいないのに目を輝かせてわざわざ報告してきたことが何度もありましたよ。私はそもそも、英語がろくに話せないからあまり関係ないですけどね……。
B お前はまだ若いんだから、勉強しろよ! でも、そういう大手新聞社の記者たちも、せっかく海外に行ったはいいものの、現地でネタ元が作れないどころか、英語も満足に話せない記者も少なくないみたいだな。ひたすら共同通信や時事通信の配信記事を参考にして原稿を書いているだけで、日本に残っている同僚記者からは、「現地で書いても日本で書いても、ほとんど同じじゃねえか」なんて、揶揄する声もあるみたいだ。
A そんなんでいいんなら、私も行ってみたいもんですよ(笑)。
B まあ、それは半分冗談にしても、情報源が海外だと、確かにどうやったって日本では取材しようがないのも事実だ。例えば、経営不安に陥ったAIG傘下で売りに出されているアリコが、中国の政府系ファンドに買収されるらしいというニュースが11月にあっただろ?
A 確か、日経のスクープでしたよね。デスクから朝早くに電話がかかってきてたたき起こされたから、よ~く覚えています(苦笑)。
B あ、俺も同じようなことを部下にしたなあ(笑)。まあ、それはおいといてさ。あの件で、ある新聞社の記者が事実関係を調べようとしたらしいんだけど、裏を取ろうにも、取材したAIGの日本法人は、「すべてニューヨークの本社で決めています」って言って何も知らない。じゃあ、というわけで、買収した側の中国の政府系ファンドに当たろうにも、日本事務所もない。というわけで、困り切ったんだそうだ。でも、デスクからは「夕刊までにさっさと裏を取れ」っていう電話が繰り返しあったらしくてさ。困り果てた末に、なんと中国大使館に駆け込んだらしいんだよな(笑)。
C マジですか!
(後編につづく/構成=隅田哲太/「サイゾー」2月号より)
元リーマン幹部の著。
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