「工場に萌えるということ」先駆者2人が語る工場鑑賞の美学
#サブカルチャー #工場
ここ数年、静かなブームとなっている「工場鑑賞」という趣味の分野。学術的に研究するわけでもなく、工業製品の製作過程を学ぶでもなく、ただ”建築物”としてのプラントやコンビナートを眺めるというマニアな世界は徐々に同好の士を増やし、『タモリ倶楽部』(テレビ朝日)で紹介されるころには、ネットを中心に、その美しさに魅せられた者たちが集い始めていた。
そんな中、07年3月に「工場写真集&観光ガイドブック」として刊行された『工場萌え』(東京書籍)は、写真集が売れない時代にもかかわらず堅実に部数を伸ばし、この20日には続編となる『工場萌えF』が発売される。
前作に続き、写真を担当したのは”工場ブログ”「工場萌えな日々」を運営する石井哲。そしてガイド部の文章は「住宅都市整理公団」総裁であり団地マニアとしても知られる大山顕が担当。今回はおふたりに、その深すぎる”工場萌え”の世界を語ってもらった。
(写真集に収録されている工場写真の一部をこちらで大公開中!)
──そもそも、お2人が工場に行き着いたきっかけというのは?
石井 僕はそんなに早くはないのですけれど、高校ぐらいの頃に映画が好きでよく観ていたんですよ。例えば『ブレードランナー』や『ロボコップ』等の娯楽性が強いSF映画なのですが、そういった映画には必ずと言っていいほど工場が出てくるんですね。それも結構重要なシーンで。それで、実際にある工場を見に行けば、あの独特な情景をリアルで体感できるのかなと思ったんですよね。
大山 確かに工場が格好良く描かれていますよね。というか、充分早いじゃないですか(笑)。
石井 いえいえ。まあ、20数年前になるわけですが(笑)。
大山 僕の場合は、生まれ育った場所が準工業地帯だったので、子供の頃の遊び場が倉庫とか工事現場だったりしたんです。だから、石井さんとは少し違って懐かしさを感じさせるものだったみたいですね。ちゃんとしたきっかけということで言えば大学の頃で、当時、僕は都市計画系の勉強をしていたのですが、卒業研究のテーマに悩んでいて先生に相談したら、「お前は何が好きなんだ? 好きなことをやればいいじゃないか」と言われたんです。それで、そのときなんとなく「工場が好き」って答えていたんですよ。それから、工場の写真とかを撮るようになって、足を運んでいるうちに自分でも「ああ、僕って工場好きだったんだ」って。
石井 自覚してなかったんですね。
大山 そう。すごく当たり前というか、自然なものだと思っていたから、面白いとかいう視点はなかったんですよ。それが、12年くらい前ですね。当時は日本の製鉄がどん底で、僕がよく写真を撮りに行っていた製鉄所も半分スクラップみたいな状態だったんですが、それを日本では何で残せないのかというテーマで卒業研究をやったんです。
石井 今回の『工場萌えF』にドイツのフェルクリンゲンの製鉄所跡を収録していますが、まさにそれと同じテーマですね。
──工場の魅力って、一言で表すのは難しいとは思いますが何でしょうか。
石井 まあ、工場を間近にすると素直に驚いてテンションは上がりますよね。日常にはないスケールと造形を持つ建造物ですから。
大山 そうですね。特に興味のない人たちにとっては工場ってひとくくりだと思うんですけど、好きな人にはそれぞれ好きな工場であったり、工場の中で好きな部分とかがあったりするんですよね。
石井 それは、例えば溶鉱炉の形の場合もあるし、立ち込める煙だったり入り組んだパイプだったり、それら全体が醸し出す雰囲気でもあるんですよね。
──特に惹かれるポイントみたいなものはあったりしますか?
石井 やっぱり、工場って格好良くしようと意識して外観がデザインされたわけじゃないのに魅力的なところが面白いんですけれど、逆に、こうじゃなきゃダメだみたいなハッキリしたものはないんですよね。
大山 そうですよね。もちろん単純に形が好きとかもあるんですけど、彼女や奥さんのどこが好きかって聞かれてもなかなか答えられないのと一緒でね。はっきり、工場のここが好きというのはなかなか難しい。
石井 あと、これは写真だけでは伝わらないのですけれど、工場の音だったり、匂いだったり、工場が起こす振動だったりも楽しみの一つですね。知り合いの工場好きな方の中には、工業地帯に着くと各々の工場の匂いでその日の風向きが分かったりする人もいます。「ああ、花王の匂いだ」とか言って、ふけっていますよ(笑)。
大山 やっぱり工場自体の存在感を楽しんでるんですよね。人に伝えるのに、やむなく写真と文章という手段を使っているだけであって、工場の魅力はフォルムだけにあるわけじゃないんですよ。僕が石井さんって素晴らしいなって思ったのもそこで、写真を見てほしいからではなくて、工場に足を運んでもらうために写真を撮っている。今回の『工場萌えF』が、ただの工場写真集ではなくガイドブックなのも、現場で工場を体験してほしいと思っているからです。
石井 どんなに、上手く写真が撮れても、やっぱり現場の雰囲気にはかなわないですからね。
大山 音で言うと、工場の動作音なんですかね。低音でずっと音がしてて、ときどきガシャンって鳴るみたいなね。そうゆう音って普通に生活していたら聞けないじゃないですか。やっぱり日常にはないものが味わえる場所だからこそ魅力があるんですよね。実際に、足を運んでみて初めて「自分は工場が好きだったんだ」って気がつく人も少なくないと思いますよ。
──おふたりの活動を通じて、実際に工場が好きになった人は増えていると思いますが、鑑賞する上でのマナーも大切ですよね。
石井 工場って実際に行ってみると、公道と私道の区別がつきづらかったりもしますし、ふらっと足を踏み入れると危険な場所も少なくありません。常識の範囲で考えて工場側の人たちに迷惑をかけそうな行動は極力避けてほしいですよね。
大山 今回、『工場萌えF』で紹介させてもらったスポットは、比較的安全で工場の方にも迷惑がかからないところを選ぶようにしました。工場を観に行かれる方々も、しっかりとそのへんを自覚している人が多くて、今まで特に問題らしい問題は起きていませんし。結果として工場側の人たちからも理解を得られているし、ありがたいことだと感じてくれている企業の声も聞きます。工場観賞は、お互いの信頼関係で成り立っているということは忘れないでほしいですね。
石井 最近は、工場を観るツアーみたいなものもありますし、観光資源としての工場というのが日本でも改めて真剣に考えられ始めているのはうれしい変化です。
大山 海外にはベッヒャー夫妻みたいな工場をモチーフに撮っていた写真家が昔からいたので、工場は観賞するものでもあるというコンセンサスが日本よりも古くからあります。だからこそ、フェルクリンゲン製鉄所が世界遺産に登録もされるんですよ。
石井 そういった意味では、世界と日本ではまだまだ意識に差があります。例えば北九州の東田(第一高炉跡広場)なんかにあるのは、100年以上前のものだけど、当時のものがペンキでピカピカになっちゃってます。それってもったいないなって思うんですよね。
大山 今後、そういった意識が高まってくれれば嬉しいですよね。
──では、最後に『工場萌えF』の見所を教えてください。
石井 前回より大幅に収録写真が増えましたので、どの工場のどんな姿がより好きなのかを各々みなさんが楽しみながら判断するきっかけにしてもらえるとうれしいですね。それに、やっぱり世界遺産に指定されているドイツ・フェルクリンゲン製鉄所の詳細な紹介は見ていただきたいです。
大山 あとはガイドブックとしての機能を充実させたことと、工場にある施設の機能に関しての簡単な説明も加えたので、機能美という観点からより深い楽しみ方が出来るようになっていると思います。ぜひこの本を持って工場に足を運んでください。
(取材・文=テルイコウスケ)
●おおやま・けん
公営団地を紹介するWEBサイト「住宅都市整理公団」総裁。団地や工場のほかにもジャンクション、水道管、螺旋階段、高架下建築、地下鉄ホーム、駅のパイプ群など幅広い鑑賞趣味を持つ。写真集『ジャンクション』、著書『団地の見究』ほか。
http://danchidanchi.com/
●いしい・てつ
ブログ「工場萌えな日々」管理人。ネット上における工場鑑賞趣味の先駆者的存在。自ら撮影した写真を公開するだけでなく、イベントやツアーを主催するなど工場鑑賞の普及に余念がない。DVD『工場萌えな日々』ほか。
http://d.hatena.ne.jp/wami/
●『工場萌えF』(東京書籍)
工場ブームを生んだ『工場萌え』が、よりマニアックに、少し大判に、そして、突然グローバルになって、続編登場。ドイツの世界遺産となった工場「フェルクリンゲン製鉄所」を激写。前作では取り上げられなかった日本各地、とりわけ西日本の工場スポットを大幅増量。製鉄所・化学プラント・セメント工場などの萌えポイントもくわしく解説。工場マニアのここ数年の深化にあわせた、より深い情報満載の第二弾。
圧巻です。
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