秋葉原事件は必然!? トヨタ社員が憤る人材の使い捨て(後編)
#企業 #座談会 #トヨタ
●起こるべくして怒った秋葉原通り魔殺傷事件
──ところでトヨタといえば、金にものを言わせた広告戦略が有名ですが、広告出稿料は、実に年間100億円以上。昨年11月には奥田氏が(自ら座長を務める有識者会議「厚生労働行政の在り方に関する懇談会」の席で)「厚労省叩きは異常な話。マスコミに報復してやろうか。スポンサーを降りるとか」と発言をして、大きな波紋を呼びました。「マスコミのトヨタタブー」というのはいまだ根強いでしょうが、最近では、派遣や期間従業員切りなどが大々的に取り上げられるなど、トヨタをめぐる報道に変化が訪れているように思います。現場の方々は、これらをどのように見ていますか?
【A】 確かに最近は、業績不振などネガティブなニュースがたくさん報道されています。しかし、経営陣はそれらをあえて容認しているところもあると思う。というのも、「業績不振による派遣切り」という報道が出ると、世間は「そこまでトヨタの経営は厳しいのか」と取ってしまう。結果、世間の同情を買うことにつながり、リストラや解雇の容認を助長することになってしまう。
【C】 しかし、本当に危険なのはリストラ後ですよ。これからさらに失業者が増え、犯罪や自殺者も増えるはずです。私の場合は、たまたま友人のところに居候することができたけど、会社に解雇されて仕事も住まいも失った人は少なくありません。
【D】 路頭に迷っているのは日本人だけではない。これまでトヨタ子会社や系列会社ではブラジル人や中国人、ベトナム人など、たくさんの外国人労働者を受け入れてきた。彼らの多くは、母国のブローカーを通じて来日し、工場では実習生という名目で迎え入れられるため、時給は数百円。派遣社員よりもずっとひどい待遇です。私が知っている人の中には、こうした厳しい状況の中でも、母国にいる家族を養うために仕送りを続けている人も少なくありませんでした。したがって、当然彼らの手元には貯金がない。会社を解雇されて、「もう日本には用はない、でも帰国できない……」という外国人労働者は本当に多い。そんな彼らが犯罪に手を染める可能性は、極めて高いと思います。
【C】 昨年6月に起こった秋葉原通り魔殺傷事件の加藤智大容疑者が、トヨタ系列会社・関東自動車工業の派遣社員として働いていたのは有名な話。彼の犯行動機のひとつは、”派遣社員として働くことの不安”というものでした。彼の凶行は、決して許されるものではありません。しかし、非正規労働者として働いていた者からすれば、彼がどれほど自分自身の将来を悲観していたのかは想像に難くありません。今後も企業が非正規労働者のクビ切りを続ければ、第二、第三の秋葉原通り魔事件も続いてしまう。
──こうした”トヨタ・ショック”は、地元行政にも飛び火しているようですね。トヨタ本社がある豊田市は、これまで同社が納める莫大な税金のおかげで日本一潤っている超優良な地方自治体といわれていました。実際、08年度の法人市民税の収入は約440億円でしたが、それが今年度は9割減になる見通しです。
【A】 私はトヨタの社員寮近くで暮らしているんだけど、会社をリストラ解雇されて、仕事も住居も失った人たちが豊田市から1人、2人……と、日を追うごとに消えているのは実感する。
【C】 以前は寮の空き部屋がなく、突貫の仕切りを設置して、一部屋に数人を収容したこともあったんですけどね。どうせ社員寮は空室だらけなんだから、解雇後もしばらくは、せめて住まいだけでも提供してくれたらいいのに。
【A】 トヨタの不況は、会社や工場にいるよりも、社員寮の付近にあるお店を見たほうがわかりやすいのかもしれない。賑わっていた周辺の定食屋やコンビニ、パチンコ店もいまではすっかり閑古鳥が鳴いて、町はゴーストタウン化、地域住民としては不気味な感じですよ。
●グローバリゼーションが招いた営業赤字の転落
──これまでトヨタで働く非正規労働者のクビ切りの実態を中心に話を進めてきましたが、正社員に対するリストラなどの動きはありますか? 昨年12月に行われた記者会見の席で木下光男副社長は「国内の正社員の雇用に手をつけることは考えていない」と明言しています。
【B】 今のところ、正社員の雇用は守られているようです。トヨタ北海道やトヨタ九州で働く正社員を長期出張という形で、愛知県内の工場などで受け入れ、その結果、派遣社員や期間従業員が切られたりしていますが……。給料もカットということもないですし、冬のボーナスも例年通り支給されましたよ。正社員に対するリストラはこれからでしょう。これまで東京ドームで開催される都市対抗野球にトヨタ野球部が出場する際は、無料バスの利用や名古屋~東京間の往復新幹線チケットを6000円で購入(通常は2万円程度)できたんだけど、それが来年からは廃止になるようですね。
【A】 工場では最近、保護具の交換を渋るようになっている。保護具は、工場で働く労働者の命を守る大切なもの。従業員の命よりもコスト削減のほうが大事ということなのでしょう(苦笑)。
また、私が働いている工場では、昨年11月に3度、12月に2度ほど生産ラインをストップすることがありましたが、そのときは一日中みんなで清掃をしていましたよ。そういえば、元町工場の仕事納めは例年通りの12月25日でしたが、レクサスやランドクルーザーなどの高級車を生産するトヨタ国内最大規模の田原工場は同月22日で年内は終了。景気の悪化で高級車の売れ行きが不調なんですが、これは工場にも直接影響を及ぼしています。
【B】 仕事がないので上司から有給休暇を勧められる正社員も少なくありません。私の周りでも年末年始にかけて、3週間余りの休みを取った人がいますからね。
【A】 あと、トヨタでは家族や親戚、知人などに自動車購入の斡旋をすると、報奨金が支給されるのですが、これまで1台あたり3000円でした。それが、昨年12月から2万円に跳ね上がった。会社としては1台でも多く車を売りたいということでしょうが、あまりに短絡的すぎるというか……。
──一部のマスコミ報道によると、トヨタでは今年春に渡辺捷昭社長が退任し、創業一族の豊田章男副社長が昇格すると伝えられています。この人事が実現すると、豊田家から社長が誕生するのは実に14年ぶりとなりますが、創業一族への「大政奉還」に対する現場の反応はいかがでしょうか?
【B】 豊田章男副社長は、以前からずっと次の社長候補と言われ続けてきたからね。経営的には非常に厳しい時期に就任することになるけど、人減らしのリストラが功を奏して、おそらく来年は、今回のような営業赤字になることもないはず。会社がイケイケドンドンの時期に就任して、経営を傾かせてしまったと批判を浴びる心配もない。タイミング的には良い時期じゃないかな。でも、今の時代、「大政奉還」によって会社が一枚岩になるとは考えられない。また、トヨタでは1月より財務部を復活させましたが、これは「09年も本業の自動車販売では苦戦するだろう」という経営陣の危機感の表れ。”冬の時期”に抜け目なくしっかりと資金管理を強化する戦略は、トヨタらしいですけどね。
【A】 しかし、今のトヨタを取り巻く状況では、どんな有能な経営者がいても会社の自助努力だけで立て直すことは不可能でしょう。近年のトヨタの躍進を支えてきたのが北米市場であることは紛れもない事実ですが、あまりにも海外市場への依存率が高すぎる。「円高が1円進むと、対ドルで年間400億円の利益が飛ぶ」といわれていますが、結局のところは米国の経済回復を待つしかないという他力本願な状況。こうした為替変動に大きく振り回される企業経営は、いわば〝マネーゲームのようなもの。私は決して健全であるとは思えません。もちろん、会社の資金を守ることも、グローバル戦略による拡大路線も大切です。しかし、それよりも復活のためには、未来のために人材育成に力を入れ、国内での生産ー販売ルートを盤石なものにするなど、これまで培ってきた”ものづくり”の原点に立ち戻ることが大事なのではないでしょうか。
(構成=大崎量平/「サイゾー」2月号より)
あなたの知らないトヨタ―利益1兆円のもとで何がおきているのか
知りたい。
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