『誰も守ってくれない』に見るフジテレビ映画の今年の傾向
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1月22日、米アカデミー賞のノミネート作品が発表され、『おくりびと』が外国語映画部門に選ばれた。同賞への日本映画のノミネートは『たそがれ清兵衛』以来4年ぶり、通算12作品目だ。『おくりびと』は昨年9月のモントリオール世界映画祭(カナダ)でも最優秀作品賞にあたるグランプリを獲得しているが、同じモントリオール映画祭で最優秀脚本賞を受賞した『誰も守ってくれない』が、24日より国内で封切られている。
本作は、『踊る大捜査線』の脚本家として知られる君塚良一の監督・脚本作で、製作を担当したのはフジテレビの名物プロデューサー、亀山千広。『踊る大捜査線』チームの新作だが、”容疑者家族の保護”という斬新なテーマを取り上げた硬派な内容で、『踊る大捜査線』とは一味違う本格的な社会派刑事ドラマとして評判も高い。
ある日、18歳の兄が殺人事件の容疑者として逮捕されたことで、15歳の中学生・沙織(志田未来)は、突然”殺人容疑者の妹”になってしまい、世間から容赦ない制裁を受ける。映画によれば、こうしたケースで加害者の家族が現実に耐え切れずに自殺してしまう例もあり、警察は非公式にだが加害者の家族を保護することがあるという(死なれてしまっては事情聴取などに支障をきたすから)。
劇中では、彼女を保護する任を受けた中年刑事の勝浦(佐藤浩市)と沙織が、マスコミの過剰なバッシングやネット上の見えない悪意にさらされ、苦しみながら生きる姿を描いている。近年、ハリウッド映画でもよく使われている、手持ちカメラによるドキュメンタリータッチの撮影手法を積極的に取り入れた点も、リアリティの演出に一役買っており、スリリングな展開とあわせて画面に引き込まれる。
ちなみに本作は、『踊る大捜査線』製作陣による新作ということで、フジテレビが製作出資した映画だが、同局が今年手がける映画のラインナップがなかなか興味深い。
1997年にミニシアター系でスマッシュヒットしたドイツ映画を『鉄コン筋クリート』のマイケル・アリアス監督がリメイクする『ヘブンズ・ドア』(2月7日公開)、ハワイの小さな町を舞台に人の出会いや成長をゆったりと描く『ホノカアボーイ』(3月14日公開)、日本映画界きっての名カメラマン・木村大作がキャリア50年目にして監督デビューを飾り、200日以上に渡る壮大なロケを慣行した大作『劔岳 点の記』(6月20日公開)、今年で生誕100周年の太宰治の小説を名匠・根岸吉太郎監督が映画化する『ヴィヨンの妻~桜桃とタンポポ~』(秋公開)などだ。
人気ドラマをそのまま映画化したり、自局のディレクターを監督として起用するなど、テレビ局ならではの、よくも悪くもお手軽な手法でヒット作を生んできたのは事実だが、今年のラインナップは、内容や作家性のバラエティに富んでいる。
それら先陣を切って公開された『誰も守ってくれない』もまた、メジャー映画としては社会性も高く、誰もが沙織になってしまう可能性を秘めているという現実をつきつけられ、自分だったらどうするか、どうあるべきかを考えさせられる1作だ。『おくりびと』同様、海外で高い評価を受けた日本映画というものを、この機会に観てみてはいかがだろうか。(eiga.com編集部・浅香義明)
『誰も守ってくれない』
『おくりびと』
『ヘブンズ・ドア』
『ホノカアボーイ』
『劔岳 点の記』
『ヴィヨンの妻~桜桃とタンポポ~』
一方、こちらの現場では。
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