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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 「レッドカーペットの申し子」狩野英孝の進化するスベリキャラ
お笑い評論家・ラリー遠田の【この芸人を見よ!】第16回

「レッドカーペットの申し子」狩野英孝の進化するスベリキャラ

kanoueikou.jpg『狩野英孝 ファーストライブ Ciel』
ビクターエンタテインメント

  『爆笑レッドカーペット』(フジテレビ)という番組は、テレビお笑い芸の歴史を変えた。芸人1組あたりの持ち時間を極限まで切り詰めることで、番組のテンポが良くなり、そこに出られる若手芸人の頭数も増えて、お笑いシーン全体が盛り上がりを見せた。他局ではこの番組の演出を堂々とパクった企画も多数現れ、『レッドカーペット』から始まったショートネタブームはすっかり一時代を築いた感がある。

『レッドカーペット』で人気に火が付く芸人には、大きく分けて2つの種類がある。視聴者が1分程度のネタを見て、「1分じゃ物足りない。もっと見てみたい!」と思うタイプと、「1分でじゅうぶん」と思うタイプだ。芸の引き出しが多くて器用な腕のある芸人は、短いネタでは物足りないと感じさせる。だが、一方では、1分だからこそ輝けるというタイプの芸人もいて、この層を掘り起こしたことが『レッドカーペット』という番組の隠れた功績なのだ。

 長い時間はもたないが、1分なら何とか大丈夫。冷静に眺めると痛々しく思えるが、1分なら流し見ていられる。そんなタイプの芸人が、この番組をきっかけに続々と売れていった。狩野英孝はその典型である。

 白スーツにロン毛の自己陶酔ホストキャラで、「ラーメン、つけ麺、僕イケメン」「スタッフー」といったお決まりのフレーズをネタに盛り込む。ハンサムでもブサイクでもない中途半端なルックスが見事にハマっている。みんなに嫌われてもおかしくない芸風のはずなのに、世間の評価はそこまで悪くはない。どこか愛嬌(あいきょう)があって憎めない彼のネタは、ちょうどいい感じで聞き流されている。狩野はまさに、『レッドカーペット』という番組から生まれた「赤じゅうたんの申し子」である。

 さらに、芸人としての彼の才能はここにとどまらなかった。最近では、『ロンドンハーツ』『アメトーーク』(いずれもテレビ朝日)を初めとしたバラエティ番組で、いじられキャラとしても不動の地位を確立している。悪口を言われたりドッキリを仕掛けられたりしたときの素のリアクションが秀逸で、狩野が何か言うたびに笑いが起こる。ネタは面白いが小さくまとまってしまう芸人も多い中で、ダメキャラとしてここまで急速に頭角を現してきた芸人も珍しい。

 柳原可奈子、はんにゃ、ジャルジャルといった実力派の若手芸人たちが練りに練ったコント芸を競い合う『ザ・スリーシアター』(フジテレビ)でも、狩野だけは「スベリキャラ」として特異な地位を占めている。この番組における狩野の存在は、ザ・ドリフターズにおける高木ブーの役割に近い。高木ブーがいるからこそ、志村けんや加藤茶が輝く。狩野はこの番組で、他の芸人の持ち味を生かすためにあえて捨て石になり、和気あいあいとした空気をかもし出すのに貢献しているのかもしれない。

 DVD『狩野英孝 ファーストライブ Ciel』は、昨年8月に行われた初の単独ライブの模様を収録したもの。DVDのパッケージを開けると、ポーズを決めた彼のブロマイドが封入されている。さらに、DVDの特典映像として、彼の自作ソング『Angel』のPVまで収められている。ウザい。本当にウザい。作品そのものを通して、どこまでも「ウザおもしろい」キャラを極める狩野は向かうところ敵なしだ。赤じゅうたんの申し子は、ダメキャラを前面に押し出しながらさらに進化を続けている。
(お笑い評論家/ラリー遠田)

●「この芸人を見よ!」書籍化のお知らせ

日刊サイゾーで連載されている、お笑い評論家・ラリー遠田の「この芸人を見よ!」が本になります。ビートたけし、明石家さんま、タモリら大御所から、オリエンタル・ラジオ、はんにゃ、ジャルジャルなどの超若手まで、鋭い批評眼と深すぎる”お笑い愛”で綴られたコラムを全編加筆修正。さらに、「ゼロ年代のお笑い史」を総決算したり、今年で9回目を迎える「M-1グランプリ」の進化を徹底的に分析したりと、盛りだくさんの内容になります。発売は2009年11月下旬予定。ご期待ください。

狩野英孝 ファーストライブ Ciel

@新宿シアターモリエール。

amazon_associate_logo.jpg

●連載「この芸人を見よ!」INDEX
【第15回】サンドウィッチマン 「ドラマとしてのM-1」を体現した前王者
【第14回】小島よしお 「キング・オブ・一発屋」のキャラクター戦略
【第13回】U字工事 M-1決勝出場「北関東の星」が急成長を遂げた理由
【第12回】江頭2:50 空気を読んで無茶をやる「笑いの求道者」
【第11回】バナナマン 実力派を変革に導いた「ブサイク顔面芸」の衝撃
【第10回】山本高広 「偶像は死んだ」ものまね芸人の破壊力
【第09回】東京03 三者三様のキャラクターが描き出す「日常のリアル」
【第08回】ジャルジャル 「コント冬の時代」に生れ落ちた寵児
【第07回】爆笑問題・太田光 誤解を恐れない「なんちゃってインテリ」
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【第05回】伊集院光 ラジオキングが磨き上げた「空気を形にする力」
【第04回】鳥居みゆき 強靭な妄想キャラを支える「比類なき覚悟」
【第03回】くりぃむしちゅー有田哲平 が見せる「引き芸の境地」
【第02回】オリエンタルラジオ 「華やかな挫折の先に」
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最終更新:2013/02/07 13:01
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