「ドラマとしてのM-1」を体現した前王者・サンドウィッチマン
#お笑い #DVD #この芸人を見よ! #サンドウィッチマン
漫才日本一を決めるイベント「M-1グランプリ」は、いまや国民的行事となった感がある。昨年末に放送された『M-1グランプリ2008』(テレビ朝日)の視聴率も、関東地区で23.7%(関西地区で35.0%)と過去最高を記録した。M-1がここまで注目を集めるようになった最大の要因は、緊張感を高める演出の数々が世間に少しずつ受け入れられるようになってきた、ということだろう。プロ・アマ問わず参加者を募って優勝者1組にだけ賞金1000万円が与えられるという大会のシステム、大御所芸人ばかりを揃えた超豪華な審査員のメンツ、漫才ネタ披露の前にその芸人の来歴をたどる「あおりVTR」など、M-1にはお笑いをドラマとして見せるための演出が随所に施されている。
そんな「ドラマとしてのM-1」の盛り上がりが最高潮に達したのは、2年前のことだ。このときには、敗者復活戦から勝ち上がったサンドウィッチマンが、並み居る強豪をごぼう抜きにして見事に優勝を飾った。この劇的な展開に、日本中が感動と興奮に包まれた。
サンドウィッチマンの優勝が人々の記憶に深く刻まれているのは、彼らが単に敗者復活で勝ち上がったからではない。2007年当時、彼らの名はコアなお笑いファン以外にはほとんど知られていなかった。そして、そのあまりに泥臭くてテレビ映えしないルックスが、こぎれいな身なりのキングコングやトータルテンボスといった他の芸人と好対照となり、視聴者に大きなインパクトを与えたのである。あだ名の天才・有吉弘行は、やくざな風貌の伊達みきおを「田舎のポン引き」、とぼけた雰囲気の富澤たけしを「哀しきモンスター」と命名した。サンドウィッチマンというコンビに対する世間のイメージを的確に表現した見事なあだ名である。
彼らがM-1決勝の舞台に上がったとき、「こいつら、これから何を始める気だ?」という期待感が会場を包んだ。そんな雰囲気の中で、しっかりした面白いネタを披露したからこそ、そのギャップに人々が心を動かされたのである。
もちろん、彼らが優勝した直接の原因は、確かな技術で良質の漫才ネタを演じて爆笑を取ったからだ。サンドウィッチマンの2人は、M-1で優勝する前から『エンタの神様』(日本テレビ)に出演しており、そこでテレビ的なお笑いの作り方を徹底的にたたき込まれた。そのエッセンスは、「とにかくわかりやすく」ということ。彼らはもともと、オーソドックスなネタの中に、突き抜けた下ネタやブラックな笑いを織り交ぜることを得意としていた。だが、それらの要素を抑えた方が、わかりやすくて万人ウケするネタになる、ということをここで学んだのだ。
そんな彼らの芸の神髄は、M-1グランプリ優勝後に初めて行われた単独ライブの模様を収録したDVD『サンドウィッチマンライブ2008 新宿与太郎行進曲』を見るとよくわかる。壁から顔面だけを突き出した富澤がホテルの受付を演じる「ラヴホテル」、伊達が病人の格好をしてボケ役を務める「怪我した男」など、不気味な雰囲気を残しつつも、わかりやすくてキャッチーなサンドウィッチマンの世界観が表現されている。M-1優勝後も衰えない彼らのネタ制作への意欲を確認できる一作だ。
(お笑い評論家/ラリー遠田)
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●連載「この芸人を見よ!」INDEX
【第14回】小島よしお 「キング・オブ・一発屋」のキャラクター戦略
【第13回】U字工事 M-1決勝出場「北関東の星」が急成長を遂げた理由
【第12回】江頭2:50 空気を読んで無茶をやる「笑いの求道者」
【第11回】バナナマン 実力派を変革に導いた「ブサイク顔面芸」の衝撃
【第10回】山本高広 「偶像は死んだ」ものまね芸人の破壊力
【第09回】東京03 三者三様のキャラクターが描き出す「日常のリアル」
【第08回】ジャルジャル 「コント冬の時代」に生れ落ちた寵児
【第07回】爆笑問題・太田光 誤解を恐れない「なんちゃってインテリ」
【第06回】世界のナベアツ 「アホを突き詰める」究極のオリジナリティ
【第05回】伊集院光 ラジオキングが磨き上げた「空気を形にする力」
【第04回】鳥居みゆき 強靭な妄想キャラを支える「比類なき覚悟」
【第03回】くりぃむしちゅー有田哲平 が見せる「引き芸の境地」
【第02回】オリエンタルラジオ 「華やかな挫折の先に」
【第01回】有吉弘行 が手にした「毒舌の免罪符」
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