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【緊急対談】革命のヴァイブス!!

「ゲバラ!」スティーヴン・ソダーバーグ×窪塚洋介

kubosoda.jpg江森康之/撮影

 チェ・ゲバラ──ジョン・レノンは彼を「あの頃、世界で一番カッコいい男だった」と評し、マラドーナは彼をモチーフにしたタトゥーを己の体に刻み込んだ。では、窪塚洋介ならば、ゲバラと聞いて、いったいどんな言葉を発するのだろうか?

 戦いと正義のシンボルであるチェ・ゲバラの半生を描いた映画が公開されるとの話を聞きつけ、監督・ソダーバーグと窪塚洋介の緊急対談を行った。

【窪塚洋介(以下、窪)】 はじめまして。いきなりですが、俺、昔、ゲイの警官の役で女装したら、あなたが撮った『エリン・ブロコビッチ』(00年)に出てたジュリア・ロバーツに似てるって言われたことがあって。

【ソダーバーグ(以下、ソ)】 アハハハ! 確かに似てるかもね。その写真見てみたいな(笑)。

【窪】 今度送りますよ!! あなたの最新作『チェ 28歳の革命』『チェ 39歳 別れの手紙』、見させてもらいました。最初はゲバラの映画って聞いて、もっとハリウッド的なエンターテインメント作品なのかと思ってたけど、いい意味で裏切られましたね。すごくドキュメンタリスティックで、気がついたら「あれ、もう終わり?」ってくらい真摯に革命に向き合った作品で驚きました。

【ソ】 そうなんだよ。この作品を作るに当たって、チェ・ゲバラの人生を誤ったドラマにだけはしたくなかった。それと、彼の人生について僕が価値判断をするっていうことだけは避けたかった。この映画を見て、観客それぞれが自分の頭で考えられるような作品にしたつもりだよ。

【窪】 史実通りで、ほぼドキュメンタリー。見る人間に委ねてますよね。

【ソ】 だから、オーディエンスの反応は本当にさまざまで面白いよ。反応の仕方で、その人がどんな考えで、どんな立ち位置にいるかってことが手に取るようにわかる。「チェのプロモーション映画みたいだ」って怒る人もいれば、「チェに対して視線が冷たすぎる。もっとやさしく撮ってほしかった」っていう人もいる。ちょうど2週間前にマイアミで上映したんだけど、みんなすごい怒ってたよ(笑)。あそこはキューバ難民が多いから。

【窪】 なるほど(笑)。

【ソ】 一番興味深かったのが、アーティストたちの反応かな。彼らはチェの人生を自分のものとして、内面化している。つまり、革命を起こすということと、作品を作ることっていうのは似てるんだ。その苦労も、犠牲も、喜びもね。作り終わると、またイチから次の革命や作品に向かうところもそうなのかもしれない。

【窪】 作品自体は、何年くらいかけて撮ったんですか?

【ソ】 2作合わせて39日。

【窪】 えーっ!?(笑) 自主映画みたい。

【ソ】 早撮りなんだ(笑)。よく記者に「撮影中に主演のベニチオ(・デル・トロ)と何を話してたんですか」って訊かれるんだけど、話すどころの騒ぎじゃない。そんな時間は全然なかったんだよ。

●世界平和を願うよりも まずは家内安全

【窪】 あと、細部がすごく良かったですね。革命という、すごく大きなことが起きているのに、カメラはいたって冷静にそのシーンをとらえている、みたいな。一方で、たとえば、日本では事件のニュースをドラマ仕立てにして報道するような番組が多いんですよ。そういうもんに嫌気が差して、10年ぐらい民放のテレビを見ていない。どんどんドラマチックにしないと視聴者が反応しなくなってるという状況が嫌ですね。

【ソ】 僕もまったくそう思うよ。人生というのは大きな瞬間によってできているって考えがちだけど、本当はとても小さい瞬間の積み重ねなんだよね。それがチェを作る時の僕のアプローチだった。小さくて、微妙なシーンの積み重ねで革命を描きたかったんだ。

 ところで逆に聞きたいんだけど、日本では若い人たちはチェについてどういうふうに教えられてるの?

【窪】 革命のシンボルって感じかな。でも多くの若い人は、彼の人生については、深くは知らないんじゃないかな。

【ソ】 彼はヒーローだとは思われていないの?

【窪】 うーん、体制だったり権力に対する反抗の象徴として捉えている人が多いと思う。逆にアメリカでは、どうなんですか?

【ソ】 アメリカでも表面的な関心しか持ってなかったりするんだ。熱狂的な信仰者もいるけど、共産主義者ってことだけで拒否反応を起こす人も少なくない。でも今、若い人たちの間では、チェをもっと知りたいっていう欲求が高まってるんだよね。

【窪】 それって日本もそうなんだけど、なんつーかこう、閉塞的な雰囲気が蔓延してるから、みんなそれを破壊したがってるんじゃないかって思う。オバマが出てきて黒人たちが「ウォー!」ってなってるのとか見てるとすごいそれを感じますね。

【ソ】 そう! だからこのタイミングっていうのは、僕にとってはとてもラッキーだったんだ。

【窪】 そう考えると、戦争があるから逆に平和があるっていうか、圧制がなかったら、チェみたいな存在は生まれてこなかっただろうし、胸を打つ物語も生まれなかったと思うんですよ。タオの陰陽のマーク(太極図)みたいに、いいことの中にも悪いことがあり、悪いことの中にもいいことはある、みたいなね。

【ソ】 その通り。チェという人間は、彼が変革を起こそうとした社会が生んだ人物だったと僕も思う。そこに歴史の皮肉があるよね。

【窪】 東京でもよくピースパレードとかやってるんですけど、逆に言えば、あれをやっているうちは戦争があるっていう証明になってしまう。でも、それって俺の場合も同じことで、権力だったりマスコミがいるから、逆に燃えてきてそれが生きるパワーになる。敵がパワーをくれる。あと、昔は世界平和を願っていたけど、最近は、それならまず家内安全だろって思ってるんです。自分のファミリーを守るっていうヴァイブスを少しずつでも伝播させていけば、それがやがて世界中に広まって平和になるんじゃないかって思うようになって。

【ソ】 チェは、そういうことを実践した人間だった。でもそれは、とても困難なことで、彼も道半ばで倒れてしまうんだけど……。

(続きは「サイゾー」2月号で/構成・鈴木ユーリ)

●『チェ 28歳の革命』『チェ 39歳 別れの手紙』
医者として南米を旅しながら貧者を助けようとしていたチェ・ゲバラが、フィデル・カストロとの出会いによって自らの人生の矛先を変える。それは、独裁国家キューバで革命を起こすという、あまりに無謀な闘いであった。”20世紀最大のカリスマ”の熱く美しい39年を描く「生と死」を体験する超大作。『トラフィック』でアカデミー賞監督賞&助演男優賞を受賞したスティーヴン・ソダーバーグとベニチオ・デル・トロが再びタッグを組み、チェ・ゲバラのドラマティックな生きざまを、2部作・総上映時間4時間25分で描ききった。
監督/スティーヴン・ソダーバーグ 出演/ベニチオ・デル・トロほか 1月10日より『チェ 28歳の革命』、1月31日より『チェ 39歳 別れの手紙』が、日劇PLEXほかにてロードショー

●スティーヴン・ソダーバーグ
1963年、アメリカ・ジョージア州生まれ。89年に『セックスと嘘とビデオテープ』で監督デビューし、サンダンス映画祭観客賞とカンヌ映画祭のパルムドールを受賞。その後も『オーシャンズ11』など、ヒット作を連発し巨匠の仲間入りを果たした。00年には『エリン・ブロコビッチ』と『トラフィック』でアカデミー監督賞にダブル・ノミネートされ、後者で受賞。

●くぼづか・ようすけ
1979年、神奈川県生まれ。95年にデビュー。その後、ドラマ『池袋ウエストゲートパーク』(TBS)や映画『GO』『ICHI』『まぼろしの邪馬台国』など多くの作品に出演し、活躍。太宰治の小説を映画化した『パンドラの匣』が09年秋公開予定。俳優業と並行して、レゲエ・ディージェイ「卍LINE」としても年間100本近いライブをこなしている。

エリン・ブロコビッチ

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最終更新:2009/01/18 15:00
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