「人間を甘く見ている」巨匠・出崎統が”萌え”を斬る!(後編)
#テレビ #アニメ #フジテレビ #インタビュー
──これまでも原作がある作品を映像化する際に問題があったことはありますか。
【出崎統】『ベルサイユのばら』をやったときに原作ファンから、先生の原作をこんなにするなんてひどい、というお電話はありましたよ。何年か前、ちばてつや先生にお会いしたときに「ぼくはマンガでしたけど、出崎さんには出てきたばかりのアニメーションのなかで『あしたのジョー』の世界を広げていっていただいて、いっしょに作りましたよね」と仰っていただいて驚きました。昔はそういう認識だったんですよね。
──そこに時代の変化を感じますか?
【出崎】その変化は、いいことではないと思う。アニメーションとしての誇りを持ちたい。たとえヘタでもね、決して何かに追従してやっているのではない、自分たちの仕事をしているというかたちでいたい。人気マンガを映像化しました。このセリフはちがうじゃねえかと言われる。ぼくはそういう仕事はできないなと思います。
──いま、違和感をおぼえることはありますか。
【出崎】『CLANNAD』をやっているときに、この子(ヒロイン)なんで死ぬの? って訊いたんです。そうしたら「ゲーム上死なないとね、泣けないんですよ」って答えられた。一見シリアスなんだけどさ、オレから見るとちゃんとした根っこがないんだよね。現象としてそういうのをやれば客は泣く、それがわかっているだけで。だから映画にするときは、どうして死ぬのか、少なくとも心の流れだけはきちんと作っていこう、と。で、その死に対して、ちゃんとそれを感じる人間を登場させようとした。それは当たり前。当たり前のドラマを作っただけなんです。「ここで死なないとゲームとしてマズイんですよね」。それは、視聴率だけよければいいや、というのと似ている。「とりあえず殺せば泣くんだよね」というのは、人間を甘く見ている。甘く見ているし、でもそれで通用する部分があるっていう世の中はなんかヘンだよね。とってもヘンだよね。
──ところで、ずっとコンビを組んでいる杉野昭夫さんとの関係は不変のものですか。
【出崎】いやらしいものはないよ(笑)。ヘンなやつだと、オレは思ってる。ずーっと。1年に1回しか口をきかなかったこともある。同じ会社をやってるんですよ。でも、2年ぶりだね杉野ちゃん、とかね(笑)。そんなもんですよ。でもそれは、アイツがきちんと仕事をやっているから。仕事をしていることさえわかって、病気でなければそれで安心してやっていられる。もしあいつがピンチになった時に何ができるか。オレはなにかできるぞ、って思ってるだけ。
──おふたりは仕事と趣味を分けない生き方を実践されているようですね。
【出崎】それはそうですよ。毎週1本ずつ、アフレコ飛ぶか、という状況で絵コンテを描いていて、すごく厳しい状況だけど、どこか嬉しい部分があるんだよね。もうやめたい、とか、なんにも出てこねえぜとかって思いながら、なんとかなっていくときに、なんかこうポン、と越える、オレこんなのできちゃったよ、という体験が、いまだにあるんです。生きててよかったなと思える瞬間がある。それができなくなったら、どのくらい辛いのかわからない。物を作ってる人はみんなそうだと思う。ほかのことは何もできなくてね。趣味に走る時間がない。だけどしょうがないと思う。
──そういうワーカーホリックな人生をすばらしいと思うし、たくさん労働するのは、好きな仕事だから全然かまわないと思うんです。ただアニメーション業界の職場環境について、今後改善していかなければならないこともあると思うんですが、出崎さんからみてのご意見は。
【出崎】ぼくも全部を知っているわけじゃないから、迂闊なことは言えない。でも昔は虫プロにしたって東映にしたって、人をちゃんと育てていたよね。ちゃんと給料を払って、育てる時間を持った。会社が、組織がね。それがないでしょ、いま。虫プロの第何期生という身分は、それはとても力になるし、誇りでもある。習ってはいるけれどもぼくたちはプロなんだという状況で覚えていくことと、ぼくたち学生ですという状況で覚えていくこととでは、体験の質が、重さが、全然違う。そこを業界がどう考えてんだろうな、って。それは課題ですよね。
──いまアニメがデジタル化して機械技術的には進歩したけど、アニメーションそのものの質が上がっているかどうかというところについてはいかがですか?
【出崎】いやいや、決して上がってないと思う。だってもう自然現象を描ける人がいないんだから。この海の感じどうすんの、この川の流れどうすんの。実写より綺麗な絵を作ろうよと言ったときに、いまはもうCGを使っちゃうけどね。自然現象は、学問とは言わないけれども、少なくとも力学を常識的にわかってないと出来ない。昔はみんなそれを一所懸命勉強したんだよ。
(取材・文=後藤勝【ヘッドルーム】)
●『源氏物語千年紀 Genji』
フジテレビ”ノイタミナ”ほかにて1月15日深夜24時45分より放送開始
30分×全11話(予定)
原作:紫式部「源氏物語」
監督・脚本:出崎統
シリーズ構成・脚本:金春智子
キャラクターデザイン・総作画監督:杉野昭夫
音楽監督:鈴木清司
美術監督:河野次郎
アニメーション制作:トムス・エンタテインメント /手塚プロダクション
放送局: フジテレビ/関西テレビ/東海テレビ/テレビ西日本/新潟総合テレビ/高知さんさんテレビ/テレビ熊本
『源氏物語千年紀 Genji』公式サイト http://genji-anime.com/
●でざき・おさむ
1943年11月18日生、東京都出身。アニメ監督、脚本家、演出家。
63年に虫プロダクション入社。以降、『あしたのジョー』『エースをねらえ!』『ベルサイユのばら』『元祖天才バカボン』『ガンバの冒険』など数多くの名作を手がけ、日本アニメ界の第一人者となる。「止め絵」や「繰り返しショット」など出崎によって生み出された独特の演出法は、アニメ演出の分野に今なお多大な影響を与え続けている。
まったく面白い。
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