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構成員も警察官も愛読!? 山口組とヤクザ社会がわかる本(後編)

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 一方、山口組をめぐるノンフィクションの中には、純粋なファンのためのムックや実話誌には決して書かれることのない”批判”を記した本もある。

「よく知られているのは、ノンフィクション作家の溝口敦氏と木村勝美氏ですね。溝口氏の場合は厳しい記述が関係者から批判されながらも、作品がコミックになったものもあるし、人気があるようです。溝口氏に限らず、ここ数年はアウトローのノンフィクションを原作にしたコミックが売れています」とA氏は語る。

 溝口氏の著書を原作としたコミックス『血と抗争! 菱の男たち』や四代目竹中正久組長を描いた『荒らぶる獅子』はコンビニでも買える手軽さが受けているようだ(ちなみに「菱」とは山口組を指す。代紋である「山菱」からきている)。そんな溝口氏は、徳間書店に勤務後フリーになり、ヤクザ社会のみならず、食肉業界、パチンコ業界、新興宗教などについて多数の著書を著し、いずれも批判的に検証している。山口組に関しては、自身の記事が原因で関係者から過去3回襲撃や威嚇を受けたとウェブサイトに記しているが、その後も『司忍組長と高山清司若頭の六代目山口組』など精力的に出版を続けているツワモノだ。

 一方の木村氏は、某夕刊紙などを経て『山口組若頭暗殺事件──利権をめぐるウラ社会の暗闘劇』で注目され、射殺された宅見勝若頭の実像に迫った『暗殺までの15328日──五代目山口組・宅見勝若頭の生涯』などを上梓。内容に関しては関係者から批判も出ているというが、進学校出身の青年が山口組のナンバー2に上り詰める過程を追っており、その着眼点は実に興味深い。

 さて、溝口氏や木村氏のような積極的な批判や肯定はせず、比較的ニュートラルに描いているのが作家の猪野健治氏や正延哲士氏、宮崎学氏、大道智史氏などである。

 猪野氏は双葉社などを経て「実話時代」ほか多くのメディアに山口組の歴史などを執筆し、『山口組永続進化論──変貌する4万人軍団のカネ・ヒト・組織力』をはじめ多数の著書がある。同氏の著作に共通してみられる「反差別」の視点には定評があり、まさに重鎮の風格だ。

 正延氏も『伝説のやくざ ボンノ』『最後の博徒──波谷守之の半生』など入念な取材を基に、ヤクザの実像をリアルに描く。『伝説の~』は山口組だけでなく、ヤクザ界のスーパースターといわれたボンノこと菅谷政雄の山口組絶縁処分に迫る。ボンノとは「煩悩」から来た呼び名だというが、人間的魅力にあふれた洒落者で、若い衆のみならず映画俳優などからも慕われていたという。

『最後の~』はボンノの舎弟となった波谷守之の半生を紹介。映画『仁義なき戦い』のモデルである広島抗争に貢献し、博徒としてもその名を馳せていた波谷だったが、対立組織の組長射殺の嫌疑をかけられ、法廷で争う。正延氏は、そんな波谷の無実を確信して、同書を執筆したとされている。

 宮崎氏は、自身がヤクザの息子として育ち、父親の組織が山口組と対立していた経緯などから、さまざまな思いを込めて『近代ヤクザ肯定論──山口組の90年』を書いた。任侠組織が近代の貧困社会におけるセーフティネットとして機能していた時代のことや、昨今の暴対法によりマフィア化して犯罪集団となることへの危惧など、近代ヤクザの状況をシビアに追っている。

 同じく山口組の通史を書いた大道氏の『山口組──激動90年の軌跡〈第1部〉誕生から分裂まで』『山口組──激動90年の軌跡〈第2部〉五代目と六代目の時代』も丁寧に歴史を取材しているので、資料としても貴重だ。

 ちなみにCIA(アメリカ中央情報局)など各国のインテリジェンス機関も日本のアウトロー社会には興味を持っており、「TIME」や「Newsweek」などはよくヤクザの記事を掲載している。また、ヤクザの娘として育った天藤湘子氏の回想録『極道(ヤクザ)な月』(幻冬舎アウトロー文庫)は、その英訳版『YAKUZA MOON』(講談社インターナショナル)が海外メディアに広く紹介され、好評を博しているという。

●ヤクザ報道のタブーとクレームの後始末

 ここまでは山口組の書籍を中心に見てきたが、山口組に限らず、こうした執筆活動やヤクザジャーナリズムにおいて、タブーやご法度はあるのだろうか?

「ヤクザについて書くときはやはり気を使いますが、それは相手が怖いからというわけではありません。報道被害については、誰に対しても同様に配慮していますよ」

 こう語るのは、別の実話誌ライターB氏。

「むしろヤクザ業界のほうが、クレーム対応しやすいかもしれません。事務所に謝りに行って、経緯を説明して訂正記事を出せば、わかってもらえます。裁判をちらつかせてカネを要求したりするのは、むしろシロートですよ。まあ、事務所の応接間に木刀とかがフツーに置いてあって怖かったりしますが(笑)」

 基本的にヤクザ記事に対するクレームは、名前と組織内の地位に関する誤植がほとんど。実話誌の記者たちは、最新の人事情報を常にチェックしているが、それでも漏れがある。

「中でも昇進昇格は重要で、記事になった際、見逃したりしていると大問題です。あとは本名と稼業名を混同したり。もっともこうしたことはヤクザに限らず、有名人や文化人でも同じことですよね」(同)

 そして、意外なようだが、近年の山口組は取り締まりを避けるためか基本的には取材は受けないことになっている。とはいえ実話誌は組員にも人気があるので、傘下組織によっては盃事に報道関係者を入れることも多く、記者や編集者によっては彼らと良好な関係を築いている人も多い。だが、抗争時には厳格な箝口令が敷かれる。

「ヤクザが知り合いの記者に話したことが相手組員や警察に漏れて、トラブルになったり、世間話を装って連絡を取って、できる範囲で記事にすることもあります(笑)。逆に組員から『何か新しい情報はないか?』と聞かれることもありますよ」(同)

 また、ヤクザ記事を扱う実話紙では、「暴力団」という言葉は絶対使わないという。

「”暴力団”はお上が作った警察用語であり、大手メディアはこれを使います。ですが、ヤクザとのつながりで記事を書く実話誌では、決して使うことはありません」(同)

 ヤクザが社会にとって歓迎される存在でないことは確かだが、なぜ彼らが存在するのか、その魅力はどこにあるのか、これらの雑誌や本で探ってみてはいかがだろうか?
(取材・文=三島優/「サイゾー」1月号より)

※構成員人数・参照データ
『警察白書』
http://www.npa.go.jp/hakusyo/h20/honbun/pdf/20p20200.pdf

県警対組織暴力

深作渾身の傑作。

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最終更新:2009/01/06 20:00
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