M-1決勝出場「北関東の星」U字工事が急成長を遂げた理由
#お笑い #DVD #この芸人を見よ!
「M-1グランプリ」とは基本的に、その日の漫才の出来だけで勝負が決まる短期決戦の舞台である。だがそれと同時に、長い目で見て、1年間でどれだけ漫才師として成長することができたかが問われている、という側面もある。
例えば、今回上位に輝いたNON STYLE、オードリー、ナイツの3組はいずれも、昨年のM-1準決勝や敗者復活戦でも十分質の高いネタを見せていながら、今年1年でそれをさらに数段進化させて決勝の舞台で活躍することができた。もちろん、成長率そのものが審査の基準となるわけではないが、結果的に1年の間に技を磨き、一皮むけたコンビが決勝の舞台に上がることになる。
その意味で、今年最も急成長を遂げた芸人として、U字工事の名前が挙げられるだろう。彼らはもともと、昨年までのM-1でも5年連続準決勝進出を果たすなど、その実力は業界内で高く評価されていた。だが、M-1で決勝に上がるための核となるような「勝負ネタ」を確立できていない感じがあった。
そんな彼らが殻を破るきっかけになった出来事がある。それは、一緒にライブを開催するほど親しい付き合いのある芸人仲間サンドウィッチマンのM-1優勝だ。『日刊サイゾー』のインタビュー取材(記事参照)で、サンドウィッチマンの伊達みきお氏はこう語っていた。
伊達「それ(U字工事決勝進出の知らせ)を聞いたとき、ものすごい興奮しましたね。自分のことのようにうれしかったです。彼らは去年、僕らの優勝がすごく刺激になったみたいですよ。僕らが行けるなら自分たちも行けるんじゃないか、ってことで、相当意識が高まっていたんじゃないですかね」
サンドが行けるなら、俺たちも行ける。昨年のサンドウィッチマンの優勝は、小さい事務所に所属する芸人たちに大きな希望をもたらした。それを最も強く感じていたのが、サンドウィッチマンと親交の深いU字工事の2人だったのだろう。
そして、彼らの思いは実った。栃木生まれの2人が、北関東のローカルな話題で口論をする、という設定の漫才で新境地を切り開き、見事に決勝進出を果たした。優勝こそ逃したものの、決勝の舞台でも落ち着いた調子でいつもの栃木弁漫才を演じて、安定した笑いを取っていた。
今年10月にリリースされたDVD『北関東ナンバーワン!』には、5月に行われたU字工事初の単独ライブの模様が収められている。ここでは、単にローカル色の強い栃木ネタの漫才を披露するだけでなく、田舎者の父子が都会に住む長男に映像でメッセージを送るという設定のコント「ビデオレター」、栃木県の企業や商品を露骨に宣伝する「スポンサー漫才」、つたない東京弁で彼らがしゃべり続ける「東京弁漫才」など、自分たちの持ち味を生かした多彩なネタを見せている。
「栃木」や「茨城」といったローカルな話題を誰にでもわかりやすく見せることも、方言を自然に聞かせることも、技術的にはそれほど簡単なことではない。よく練られた質の高いネタをこなしながら、必死でやっている感じに見えないのは彼らの大きな強みでもある。M-1決勝の舞台にもしっかり爪痕を残し、彼らは名実ともに「北関東ナンバーワン」の漫才師になったのである。
(お笑い評論家/ラリー遠田)
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●連載「この芸人を見よ!」INDEX
【第12回】江頭2:50 空気を読んで無茶をやる「笑いの求道者」
【第11回】バナナマン 実力派を変革に導いた「ブサイク顔面芸」の衝撃
【第10回】山本高広 「偶像は死んだ」ものまね芸人の破壊力
【第09回】東京03 三者三様のキャラクターが描き出す「日常のリアル」
【第08回】ジャルジャル 「コント冬の時代」に生れ落ちた寵児
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