ロングインタビュー 康本雅子の『2つの顔』に迫る!
#インタビュー #ダンス
今年流行語大賞を受賞したエドはるみのギャグといえば”グゥ~”。小さな子どもや母親層に圧倒的な支持を集め、特にフジテレビの『体操の時間』に放送された「グーグー体操」は、小児を中心に爆発的な人気を呼んだ。
この「グーグー体操」を振り付けしているのが、振付師の康本雅子さん。Mr.Childrenの「箒星」や一青窈の「指切り」のPV、ケツメイシのコンサートなど、振付師として数多くの仕事をこなす彼女、実は自ら舞台に立ち熱狂的なステージを作り上げるコンテンポラリーダンサーでもあるのだ。
超メジャーシーンで活躍する振付師と、コアなファンに絶対的な支持を受ける気鋭のダンサー。そんな『2つの顔』を持った康本雅子さんに話を聞いた。
──まずは、「グーグー体操」の振付けはどういった経緯で?
「はじめは(エドが所属する)吉本興業の人から、誰かいませんか? ということで偶然来た仕事だったんですけど、何で私の所に来るんだろうっていう感じでしたね。振付も一番最初に持って行ったものから、かなり簡単なアレンジになって、こんな簡単でいいのか? と微妙な葛藤がありつつ」
その後の”グゥ~”の人気爆発は言わずもがな。流行語の裏には、こんな振付家の葛藤もあったのだ。様々な人の思惑が入り乱れるであろう、メジャーシーンの作品。それもPVともなれば、要求されることは様々だろう。
──一青窈さんの「指切り」は、いわゆる「コンテンポラリーダンス」に近い印象でした。
「一青窈さんの場合なんかは、本人から『コンテンポラリーダンスで』というオーダーがあり、本人が分かってるというのがすごくやりやすかったですね。本人のダンスはミュージシャンということで簡単にしているのですが、窈さん自身すごく勘の良い方なので、ちょっとの練習ですぐに踊れるようになりましたね」
──逆にMr.Childrenの「箒星」なんかは、コンテンポラリーダンスというよりもミュージカルと言ったほうがいいような踊りですね。
「いわゆる王道の振付けですね。そういったミュージカル的な振付けは松尾スズキさんの舞台や映画などで要求されているので。大舞台では小技を効かせるダンスよりも、王道をやった方が栄えますからね」
──振付けをするときは、具体的にはどういう風に創作するんでしょうか?
「音楽を聴いて、感覚的にぱっと思いつくものが多いですね。歌詞だったり、メロディだったりフォーカスする部分はその時によりますが。歌詞は聞きすぎるとうざくなるので、意味をくみ取りつつ、あまり説明をしすぎない、みたいな」
──コンテンポラリーダンサーと聞くと、訳の分からないことを語られるイメージが強いのですが。「体内の光がどうのこうの」みたいな。
「そういうのは全くないですね。昔、『体の内部を感じているか?』みたいなことを言われたりしましたけど。いや『内部』とか分かんないですから、私(笑)」
中学生の頃にダンス部に所属して、踊り始めたという彼女。一見すると器用に仕事をこなしているように見えるが、若い頃は、今でいう”外こもり”のような状態だったという。
「大学を中退して、海外放浪に出ていたんです。アジア各国やアフリカ、オーストラリアなんかに滞在していました。踊りの修行とかそういう目的意識を持っているわけではなく、海外に行って、お金がなくなったら日本に戻ってきて、少しお金を貯めてまた海外に出発するっていう。そんな生活が2年くらいだったかなあ」
──その頃の経験が、今のダンスに活かされている?
「いや、本当に遊んでいただけなんで(笑)」
──海外放浪が終わって、「ダンサーになろう」という決意が生まれたのでしょうか?
「”なろう”っていうポジティブな気持ちじゃなかったですね。散々遊んで帰ってきたらもう23歳で、資格も特技もなにもなくて。ただ、好きなことを仕事にしようと思っていたから、『ダンスしかないのかな……』と消去法で選んだという感じですね。それまで頑張るっていうことをしてこなかったので」
──(笑)
「だから『一回くらい真面目にやってみよう』と。バイトしながら、たまに来るバックダンサーとか、ステージダンサーとかの仕事を引き受けて。ただ、それもやって行くうちにフラストレーションが溜まってきて、それで、絶対にお金にはならないけど、『自分のために』っていうコンセプトでコンテンポラリーダンスの作品を創りはじめたのがきっかけです」
その後、コンテンポラリーダンスの様々な賞を獲得し、2008年に行なわれた単独公演は満員御礼。では、そのコンテンポラリーダンスというのはどういうジャンルなのか?
「うーん、最近ではコンテンポラリーダンスも多様化しているので。コンドルズ(NHK『サラリーマンNEO』などに出演するダンス集団)も、Perfumeのダンスもコンテンポラリーだし。ただ、一般的には、決してジャンルとして万人の人が見て楽しめるっていう類いのものじゃないですよね。私自身で言うと、みんなに分かりやすいものっていう気持ちはないんだけど。ただ、やっぱり多くの人に見てもらいたいっていう気持ちがありますね」
──最近ではCMの創作をしてみたい、ということをお聞きしたんですが。
「CMでダンスが使われることはあるけれど、ほとんどダンサーがいて、踊っているっていうだけのものばかりじゃないですか。そういうものじゃなくて、編集自体がダンスになっているっていうか……。どういう商品でもいいですよね、保険とか手堅い所でも」
──それは映像作品ではなく、CMなんですか?
「CMがいいですね。スポンサーがいて、それを活かすためにやってるっていうのがいいんです。仕事で振付けをするっていうことは、何かしら制限がありますよね。PVの振付けもそうですが、制限があって初めて考えられることってたくさんあって、それが自分の作品創作にも活かされてますね」
残念ながら、現在ダンサーとしての活動は休業中で、舞台の出演などはしばらく予定していないという彼女。「コンテンポラリーダンス」というあまり馴染みのない世界だが、彼女のメジャーシーンでの活躍とともに注目を浴びつつある。未見の方は、ぜひ休業開けの彼女のステージに足を運んでみてはいかがだろうか。
※取材・文/萩原雄太(かもめマシーン)
●やすもと・まさこ
1976年、東京都出身。トヨタコレオグラフィーアワードなど、数々の受賞歴がある。また、Mr.Children、一青窈、ゆずなどをはじめとする著名ミュージシャンのプロモーションビデオ・コンサートの振付、松尾スズキの舞台への振付、ファッションショーなどの出演なども行なう。NHK『トップランナー』にも出演するなど、現在注目のダンサー/振付家。
ぐぅ~。
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