コミケが地方進出!? 『リゾートコミケ』が内包する問題点
#マンガ #萌え #サブカルチャー
『コミックマーケット』通称『コミケ』をご存じない方は少ないであろう。年に2回、夏と冬に国内最大規模の展示場『東京ビッグサイト』を3日間ずつ計6日間、全館貸し切りで開催され、約50万人が訪れるという世界最大の自費出版物展示即売会である。自費出版物、といってもイベント名から分かるとおりマンガ作品を中心としており、特に多いのは既存の作品のパロディものである。
今年の夏に開催されたコミケには「手榴弾を投げ込む」という脅迫が「2ちゃんねる」上に書き込みされたことにより大量のマスコミが取材へとやってきた。犯人は無事逮捕されたが、その映像素材が各ニュース番組で流れたことでコミケの知名度はさらに上がることとなった。
不幸な出来事もありながら一般名詞になったコミケ。このコミケが一つの呼び込みを開始した。「コミケでまちおこし・コミケットスペシャル5(仮)」。その言葉の下にアオリとして「あなたのまちでコミケットを開いてみませんか?」という言葉も並べられている。簡単に書かれていることを説明すると、普段は東京で開催されているコミケの小型版を地方都市で開催をして町おこしに協力しますよ、というもの。その開催地を募集しようというのだ。
だが、コミケのこうした試みに違和感を覚える者も少なくないという。10年以上前からコミケに通っているという、ある参加者に話を聞いた。
「確かに『リゾートコミケ』と題して沖縄にて開催されたことはあります。しかし、それはコミケ側が会場を選定して開いたもの。一種の『遊び』として沖縄にて開催したんです。コミケってね、遊びなんですよ。面白いからやっている、みんなで楽しんで遊ぼう! というのがコミケなんです。そしてコミケが生まれたのが学生運動の真っ盛りの時代ということもあってか、反体制的な臭いもどこかにある。もちろん、その臭いというのは、立て看板を出したり肩を組んでフォークソングを歌ったりするような類のものではないですが、コミケの発行物には時に反体制的なメッセージが見え隠れしているんですよ」
『遊び』であり『反体制的』であったコミケがここに来て、地方公共団体、第3セクター、観光協会といったところに協力を求め、自分の『遊び』に他人を巻き込もうというのだ。ここに、彼は激しい違和感を覚えるという。
「それにもう一つ、コミケがいままで守り通してきたもの、『表現・言論の自由』が崩壊しないかという危惧もあります。過去に、コミケでも販売されていた無修正の成人向け同人誌が摘発されたことがありました。コミケが直接摘発対象になったのではありませんが、当時開催地として予定していた千葉の『幕張メッセ』はその事件を理由に会場の貸与を拒否したんです。この事件以降、コミケでは無修正の同人誌の頒布は禁止されています。が、法律・条例上問題のないものであるならば頒布を認めている。商業ではできない自由な表現、それがコミケの魅力なんです」
今回、地方開催となれば公共団体が絡んでくることになる。誘致したイベントの中でその公共団体は、成人向け──いわゆるエロ同人誌というものが発布されるという事態を容認できるのであろうか。もちろん、出店されるサークルすべてが成人向けというわけではない。だが、一部存在するのは事実なのだ。
コミケ側は開催地を募集する際に「通常のコミックマーケットと同様の形態・内容で同人誌の頒布が行えることが条件となります」という一文を書き加えて了解を取っているが、その一文で地方公共団体は本の内容に成人向けが含まれているということを了解したということになるのであろうか? そして、そのような本を頒布するイベントを自ら誘致したということも了解しているのであろうか?
同人誌の内容でもう一つ問題があるのはパロディー関連であろう。著作権侵害に関する問題である。これに関しては完全グレーの状態であり、現在も黙認状態が続いている。過去に訴えられたサークルもあるが、背後に暴力団が関係しているかも……と早とちりした警察の勇み足であった。
あくまでもファンの遊びとしての活動である同人誌。同好の士が集まっているから許される遊びがパロディーである。地方自治体開催の場合、その地方の人たちがふらりとやってきて覗く場合もあろう。同好の士ではない人が、パロディー作品がずらりと並べられ、しかも子ども向けアニメのキャラクターが裸になってセックスしている本を見た場合にどのようなことになるのか……。
コミケは色々な遊びを内包して膨らんできた。周りから隔絶された会場内は、参加者にとってはユートピア的なものがあり、みんなでそれを作ることで連帯を感じられるのだという。純粋に同好の士だけの遊びだからこそ、心地いい空間が生まれるのだ。
先代の『コミックマーケット』代表でマンガ評論家の米澤嘉博氏が亡くなり、現在の共同代表制になってからコミケは大きな変革をしようとしているように感じられる。それは大衆化とでもいうべきものか。しかし、大衆化の向こうにあるのは内輪の遊びという場を無くすことでもある。そしてついに、いままで見本誌として回収してきた初回からの同人誌を公共図書館に寄贈しようという話まで出てきている。
なお、開催地すら決定していないのにすでに『コミケットスペシャル5』は開催日程を発表している。2010年3月21日だという。はたして当日、いかなる即売会が開催されるのか。そして、公共団体が望んだ町おこしは成功するのか。見守っていきたいものである。
(原田孝一)
コミックマーケット公式サイト
http://www.comiket.co.jp/
コミケクロニクル。
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