パナソニックの高級家電『ナノイーイオン』の眉つば度
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パナソニックが開発し、ナイトスチーマーや洗濯機、エアコンなど、さまざまな同社製品に発生機能が搭載されはじめている「ナノイーイオン」。従来の製品と比べてヘアドライヤーが約1万数千円、冷蔵庫(525リットル)が約30万円と割高な価格設定ながら、今秋には発生装置が搭載されたトイレの壁面パネルが発売されるなど、その人気と勢いは今なお上昇中だ。
しかし、その実態については、疑問点も多い。パナソニックによるとナノイーイオンとは、広島大学大学院の奥山喜久夫教授との共同開発によって作り出された、超微細な水滴で包まれたイオン(電子を帯びた原子)であり、同社が「nano technology」と「electric」の頭文字を足し、命名したもの。つまりナノイーイオンとは「科学用語」ではなく、パナソニックによる「マーケティング用語」なのだ。
それだけなら問題はないとしても、「マイナスイオンの約6倍の寿命を持ち、水分量も約1000倍」という効能説明だ。数値だけを見れば画期的なものに聞こえるが、実はマイナスイオン自体が科学者の間で定義が曖昧なものとして、長年指摘され続けている「非科学用語」。06年には東京都の生活文化局が研究者などとともに、マイナスイオン発生器を販売する業者8社の効能データを審査し、「客観的な根拠に基づくものとは思えない」として景品表示法違反を指摘、訂正を求めた前例もあった。つまり、マイナスイオンはお役所にとっても”問題の多い”ものなのである。
このことを踏まえると、ナノイーイオンについても、にわかに胡散臭さを感じてしまうのだが……。マイナスイオンの構造などに詳しい専門家、大阪大学サイバーメディアセンターの菊池誠教授は次のように語る。
「マイナスイオンは、コロナ放電でできた大気イオンから水中のイオンまでを十把一絡げに指す言葉として使われており、あまりに曖昧。正式な科学用語とは言い難いものです。ナノイーに関しては、新規の技術に『ナノイー技術』と名付けるのはいいとしても、発生するのは大気イオンですから、いわばこれまで”マイナスイオン”と呼んでいたものの一種をナノイーイオンという別の非科学用語で呼び変えただけのように思います」
要は「マイナスイオンの○○倍」といいながら、その実態は、効能が疑われているマイナスイオンと同じものなのだ。
さらに注目したいのが、頻繁に商品リリースなどに用いられ、ナノイーイオンに含まれる「高反応成分」なる単語。同社によると、肌に潤いをもたらす効果があるというが、これも科学用語ではなく、フリーラジカルという分子で、皮膚の老化の原因になるとして有名な活性酸素の一種。とすると、「フリーラジカル」「活性酸素」という単語のイメージを嫌って、パナソニックが「高反応成分」なる造語を用いているようにも思えてしまう。
こうしたナノイーイオンの実体について同社に問い合わせてみると、「活性酸素については、人体に影響のないレベルなのでご心配はないかと思います。また、確かにナノイーイオンはコロナ放電で生成されるものなので、マイナスイオンとは同じ括りになるかもしれません。ともあれ、このナノイーは、ナノレベルの極小の水分粒子が発生するので、肌や髪のうるおいが長持ちすると聞いております」との回答。
しかしその水分粒子の小ささについても、前出の菊池教授はこう語っている。
「水の粒子が小さいからといって、それが髪や肌に良い効果を与えることが実証されているとはとても言えません。パナソニックがそれを真面目に検証しようとしているのは認めますが、効果が曖昧なまま商品の宣伝に使い、結果的に消費者が実験台になっているのが問題です。また、パナソニックだけに限ったことではないですが、大手家電メーカーがマイナスイオン商品を大々的に売ったことによって、『あのメーカーが出しているのだから、効果があるのだろう』と消費者に思わせてしまった。その意味では、パナソニックの社会的責任は大きいと思います」
ナノイーイオンのブームに乗って、科学を偽装した「○○イオン」という悪徳商品が、これ以上乱発されなければいいのだが……。
(田中雅大/「サイゾー」12月号より)
だまされない。
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