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北芝健の「いわんや悪人においてをや」vol.02

小泉毅単独犯説にメス 元厚生事務次官宅連続襲撃事件の闇

shibaken01-01.jpg逮捕後、どこか安堵の表情を浮かべていたように
見える小泉毅容疑者(週刊文春12月4日号より)

「犯罪者である彼あるいは彼女にも我々同様に人生があり、そして罪を犯した理由が必ずある。その理由を解明することはまた、被害者のためにもなるのでは?」こんな考えを胸に、犯罪学者で元警視庁刑事・北芝健が、現代日本の犯罪と、それを取り巻く社会の関係を鋭く考察!

 刑事という人種は、職務において人を観察することが非常に多い。そのため自然と、人の顔や仕草を見ているだけで心理状態がわかるようなスキルが身につくものだ。いわば元刑事の習い性というやつなのだが、私は、移送中の”彼”の表情を見たとき、ふてぶてしさの中に、どこか安堵感のようなものを見出した。

 今年、11月に発生した元厚生次官宅連続襲撃事件は、当初は年金テロだと騒がれたが、今では実行犯・小泉毅容疑者の個人的な復讐という底の浅い事件として片付いてしまった感がある。しかし、それは事実なのだろうか。そんな不信感を今も持っている方は少なくないと思う。私の周囲の警察関係者の中にも、今も疑念を抱いている人間は多い。それは今回の犯行が、単独犯というにはあまりにも不自然な点が多いからである。

 具体的に不自然な点を挙げてみよう。まずは、ある鑑識関係者からの情報によれば、小泉容疑者が逃走する際に、逃走車に助手席から乗った可能性があるという。普通に考えて、自分が運転する車に助手席から乗る人はいない。したがって、運転席に誰か別の人間がいたのではないか、という話は、警察関係者の間で当初からひそかに囁かれている。

 また、彼は犯行後、車内で衣服を着替えたと供述しているが、単独犯の場合、犯行時に浴びた返り血のついた服を着替えるのは、逃走が遅れる原因になり、非常にリスキーだ。加えて言うと、私は実際にさいたま市の犯行現場を確認したが、犯行の行われたとされる夕方と同時刻でも視界はきいた。そんな時間に返り血のついた服を着て車まで走って逃走した場合、途中で誰かに目撃されて通報され、緊急配備ですぐに引っかかる可能性がある。しかし、彼は誰にも気づかれることもなく、自宅まで帰り着いている。主要幹線道路にはNシステム(自動車ナンバー自動読取装置)というカメラが設置されているが、これにも引っかかっていない。Nシステムの設置場所を知った上で行動していたとするならば、小泉容疑者はかなり綿密な計画を立てて行動していたことになる。事実、彼は逮捕後「10年前から計画を練っていた」と供述している。

 だが、いくら10年の月日をかけて練られた綿密な計画による犯行だとしても、彼がそれをひとりですべて行ったと断定するのは、いささか尚早なのではないか。彼の犯行は、ヒッター(殺し屋)としての仕事の質が高すぎる。逃走経路の件はもちろん、殺害方法や犯行前に身辺整理をあらかじめ済ませるなど入念な準備がなされており、いくら10年計画の犯行だとしてもド素人が行えるものなのかということに純粋に疑問が残る。そこで、協力者あるいは裏で糸を引いている人物がいるのではないかという疑念が浮かぶのだ。

 そもそも、彼が自ら語っている犯行動機「34年前に飼い犬を殺されて云々」という話は犯行動機としてリアリティがあるだろうか。確かに諸外国には、数十年前の恨みを晴らすために殺人を犯すという事件も少なくないし、兄弟同然に育った犬だというのならありえないメンタリティではないと思う。ただ、保健所から元厚生次官につながるというのは思考として飛躍しすぎだろう。「原爆を落としたのは誰だ? オッペンハイマーだ!」このぐらいの飛躍がある。

 では、真の動機は何なのか。そこで、彼が数百万の借金をしていた事実が浮かび上がってくる。借金と闇社会のつながりを考えればすぐに、彼が「犯行を行えば借金チャラ&プラス報酬」という条件を何者かに提示されていたという状況が、容易に想定できる。かつてオウム真理教の村井秀夫が刺殺された際、実行犯だった徐という人物も親が作った1億円近い借金をチャラにしてもらったといわれているが、それと同様のパターンである。

 今後、これらの疑念に応えるような新事実は裁判において明らかにされる可能性がある。そのときに大どんでん返しが起き、真実が明らかになるかもしれない。私も被害者のためにもそう願っているが、しかしそれも難しいと思う。そう思う根拠は、小泉容疑者が自首したからである。

 小泉容疑者は、そもそもなぜ自首したのか。それは、彼の生命が危険にさらされる、つまり自身が消される可能性を感じ、自らを守るためだったからではないか。そして自首した現在も真相を隠し続けているのだとしたら、それは真相を話すことによって誰かに危害が及ぶのを恐れているからではないかと考えられるのだ。その誰かとは、彼の父親に他ならない。

 彼は父親に学費を出してもらって佐賀大学に入学したが、その期待に背き、自ら大学を中退した。そのことが彼にとって長きにわたって、父親への負い目となっていたのだろう。クレーマーのような行動や今回供述している犯行動機など、彼の性格が粘着気質であることは明らかだ。その性格上、父親に長年恩義を返せずにいることは、借りを作ったままになっているようで彼には堪え難く、忸怩たる思いであったろうことは十分に考えられる。そこで今回、2件目の犯行に失敗した時点で、自身がパクられた後のことを考慮し、父親への借りを返す”精算”の手段として、自首を選んだのではないだろうか。

 小泉容疑者は、自首する前に父親に手紙を送っている。そこには彼の12月17日現在までの供述と同様に、愛犬の仇を討つために犯行に及んだといった内容が書かれていたが、その手紙によって父親の存在は警察及びマスコミ、世間に注目されることとなった。つまり、警察を含めた地域コミュニティが、彼の父親に対して何らかの注意を向けることになった。そうなれば、ヒッターとして利用した後、彼を消そうとした背後の団体も手を出せなくなる。そうすることで、小泉容疑者は父親に危害が及ぶ可能性を回避したのではないかと思えるのだ。

 以上は、あくまで私の私的な見解にすぎない。彼の表情に見て取れたかすかな安堵感のようなものが、父親を守ったという感情からきたものなのか、それともただ犯行をやり遂げた達成感からなのかはわからない。ただ、被害者や残された遺族のためにも、真相が明らかにされることを私は願っている。
(談・北芝健/構成・テルイコウスケ)

shibakenprf.jpg●きたしば・けん
犯罪学者として教壇に立つ傍ら、「学術社団日本安全保障・危機管理学会」顧問として活動。1990年に得度し、密教僧侶の資格を獲得。資格のある僧侶として、葬式を仕切った経験もある。早稲田大学卒。元警視庁刑事。伝統空手六段。近著に、『続・警察裏物語』(バジリコ)などがある。

続・警察裏物語-27万人の巨大組織、警察のお仕事と素顔の警察官たち

人間だもの、警官だって!

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最終更新:2008/12/23 08:00
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