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お笑い評論家・ラリー遠田の【この芸人を見よ!】第9回

東京03 三者三様のキャラクターが描き出す「日常のリアル」

toukyou03.jpg第7回東京03単独ライブ「スモール」/
ビクターエンタテインメント

 私たちの日常には、ボケやツッコミといった役割分担は存在しない。必要に応じて冗談を言ってボケたり、相手の言ったことに対してツッコミを入れたりすることはある。だが、その役割はあくまで流動的であり、漫才のようにずっとボケ続けたりずっとツッコみ続けたりするような人は現実にはあまりいない。

 だからこそ、お笑いネタを演じる際にも、あえて役割分担をしない、という試みが行われることがある。そうすることでシチュエーションがより現実に近くなり、リアリティが生まれるからだ。

 東京03のコントも、基本的にはそういうふうに作られている。彼らのコントには「現実で起こりそうなことしか起こらない」という大きな特徴がある。実際にはあり得ないようなとんでもない出来事が起こったりはしない。初めに小さな事件があり、そこにすれ違い、勘違い、葛藤が生まれるというのが典型的なパターンだ。そのような人間の心の機微が丹念に描かれ、じわじわと深い笑いが生まれる。

 東京03の3人には決まった役割分担というものがない。彼らはボケやツッコミといったお笑いとしての役割で分かれているのではなく、キャラクターで分かれている。

 豊本明長が落ち着いた調子でちょっとした事件を持ち込む。角田晃広がそれに対して過剰に慌てふためく。そんな状況を見て、飯塚悟志は声を張り上げて状況を進行させる。豊本がつぶやき、角田が戸惑い、飯塚が叫ぶ。特定のボケ役やツッコミ役がいるわけではなく、「おとなしい人」「あわてやすい人」「うるさい人」というキャラクターだけが決まっているのだ。

 そしてこれはまさに、私たちが普段過ごしている現実の状況にそっくりだ。日常生活では、ボケやツッコミといった役割に縛られた人間はほとんどいない。ただ、少しずつ性格や人格の異なる人間が共存していて、そのズレがちょっとしたいざこざを生む。東京03は、コントという形で日常に潜む小さな歪みに光を当てているのだ。

 先日リリースされたDVD『第7回東京03単独ライブ「スモール」』には、東京03が2008年5月に行った単独ライブの模様が収録されている。

 ベテラン教師が、突然学校に訪ねてきた昔の教え子の名前を思い出せずに困り果てる「卒業生」、福引に当たったことを自慢していたら、別の人間にもっとすごい話をされて一気に話題をさらわれてしまう「火曜日の朝」など、日常のひとこまを切り取ったような良質のシチュエーションコントが並んでいる。

 彼らのコントは1本あたりの時間が長いため、『爆笑レッドカーペット』(フジテレビ)のような今流行りの短時間のネタ番組には不向きである。だが、3人で「日常に潜む小さな歪み」にこだわり続ける彼らの芸は、もっと評価されてもいいのではないかと思う。
(お笑い評論家/ラリー遠田)

●「この芸人を見よ!」書籍化のお知らせ

日刊サイゾーで連載されている、お笑い評論家・ラリー遠田の「この芸人を見よ!」が本になります。ビートたけし、明石家さんま、タモリら大御所から、オリエンタル・ラジオ、はんにゃ、ジャルジャルなどの超若手まで、鋭い批評眼と深すぎる”お笑い愛”で綴られたコラムを全編加筆修正。さらに、「ゼロ年代のお笑い史」を総決算したり、今年で9回目を迎える「M-1グランプリ」の進化を徹底的に分析したりと、盛りだくさんの内容になります。発売は2009年11月下旬予定。ご期待ください。

第7回東京03単独ライブ「スモール」

上質のコントを。

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●連載「この芸人を見よ!」INDEX
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最終更新:2013/02/07 13:04
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