世界のナベアツ「アホを突き詰める」究極のオリジナリティ
#お笑い #この芸人を見よ!
お笑いのネタを考えるときには、誰にでもわかることを題材にしなければいけない。テレビや舞台で披露するお笑い芸が、基本的に不特定多数の人間を相手にするものである以上、年齢や性別を問わず誰でも知っているようなことをテーマに選ぶことが不可欠なのである。
だからこそ、お笑いネタの題材には一定のパターンができてしまう。コントの設定なら、先生と生徒、医者と患者、店員と客など。漫才で取り上げる話題なら、最近のニュース等の時事ネタ、デートの行き先、ファミレスの接客など。芸人たちはそんなありきたりの題材を上手く調理して、「どこかで見たことある」と言われないような独創的なネタをひねり出さなくてはいけない。
だから、ネタ作りにおいていちばん高度なのは、誰でも知っているけれど誰もやっていなかったような題材を見つけ出して、そこから独自のネタを新たに生み出すことである。世界のナベアツが芸人として突出しているのはその点だ。
先入観抜きに今一度、彼の「3の倍数と3がつく数字のときだけアホになる」というネタをじっくり見直してみてほしい。今ではすっかり有名になってしまったが、これを一から考え出したのは驚異的なことである。数を数える、という子供でもわかるようなことを題材にして、ほんの少しだけひねりを加えて強力なお笑いネタとしてまとめあげているのだ。わかりやすくてオリジナリティがあるという点で、笑いのお手本のような見事なネタである。
世界のナベアツこと渡辺あつむはもともと、ジャリズムというコンビとして90年代半ばに関西の若手お笑い界でカリスマ的な人気を博していた。当時から、子供っぽいアホらしい発想を徹底的に突き詰めるネタ作りには定評があり、コント職人としての評価も高かった。
その後、ジャリズムは東京進出を果たすもブレイクできず、1998年にはいったんコンビを解散してしまう。渡辺は放送作家となり、裏方としてお笑い界に関わっていくことになる。作家としては『めちゃ2イケてるッ!』(フジテレビ)を初めとする数多くの人気バラエティ番組を手がけた。
この作家として活動した期間を経て、もともと一流のコント職人だった渡辺は、大衆ウケする笑いの作り方を学んでさらに一回り大きく成長した。3の倍数と3がつく数字でアホになるネタは、そんな彼が芸歴17年の果てにたどり着いた究極の発明品なのだ。
世界のナベアツ初の単独DVD『オモローのナベアツ』は、彼が全力でアホになりきって数々のパフォーマンスを披露する力作。代表作の「3の倍数」シリーズ以外にも、かっこいいウンコの仕方を教える「トイレの達人」、九九を唱えながら刑事ドラマのワンシーンを演じる「九の段熱演」など、ナベアツにしかできない珠玉のネタの数々が収録されている。
アホも突き詰めれば芸になる。一流の知性派コント職人である渡辺が最後にたどり着いたのは、「振り切ったアホがいちばん面白い」という悟りの境地だったのだ。
(お笑い評論家/ラリー遠田)
3!
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