不条理アイドル映画を完成させた佐藤佐吉が語る「映画の神様」
#アイドル #映画 #インタビュー #邦画
この顔にピン! ときた人は、かなりの映画通だ。コワモテ顔のこの男性の名は、佐藤佐吉。三池崇史監督の代表作『殺し屋1』『極道恐怖劇場 牛頭(ごず)』の脚本家であり、浅野忠信&哀川翔W主演作『東京ゾンビ』で監督デビューも果たしている。大味なシネコン向け映画にうんざりしている人たちが「彼なら日本映画界に爆弾を仕掛けてくれるのでは」と期待を寄せている要注意人物なのだ。
佐藤佐吉監督の監督第2作となるのが、ジョージ朝倉原作コミックを独自の解釈で映像化した『平凡ポンチ』。映画の神様から見放されている自主映画界の元鬼才・真島アキ(佐藤佐吉)と巨乳願望の美少女・ミカ(秋山莉奈)が殺人事件からの逃避行を繰り広げ、なおかつ映画を撮り続けるシュールなロードムービーだ。「映画って何?」という深淵なテーマを内包しつつ、”オシリーナ”秋山莉奈主演のアイドル映画としても楽しめる作品である。わずか11日間というハードな撮影期間ながら刺激的な作品に仕上げた佐吉監督に、いろいろと不躾な質問を浴びせた。
──劇中で映画の製作費が300万円、脚本料が5万円と、非常に具体的な数字が出てきますが、これって実体験を反映したものですか?
「反映っていうより、実際の数字に近いものですよ。脚本料なんて、もらえればいい方。映画の企画がぽしゃっちゃって、脚本料が払われなかったことが2回ほどあるし、プロットだけ書かされてノーギャラなんて多々ありますから。厳しい世界なんですよ(苦笑)」
──生々しいですねぇ。本作は監督デビュー作『東京ゾンビ』より、脚本提供作『殺し屋1』や『牛頭』に近いテイストを感じました。
「そうですね、『殺し屋1』のラストは理屈じゃないんですが、必然的にああいうラストになったんです。でも、どちらかと言うと『平凡ポンチ』は『牛頭』に近いかも知れない。『牛頭』はいい意味でいい加減につくったんです(笑)。三池監督から『ヤクザホラーをつくりたいから、考えてくれ』と頼まれたんですよ。それで、どんな状況だったらヤクザはビビるか考えて、ヤクザの情婦の股間から人の声が聞こえてくるとかアイデアを怖い順に20個並べたら、何となく物語ができた(笑)。今回は『牛頭』以上にいい加減につくりましたね。原作の中からストーリーに関係なく、自分が面白いと思ったシーンだけ勘で選んで脚本にしたんです。今回、ようやく分かったことがあって、自分ごときが『映画とは何か?』なんて考えながら映画をつくっても大したことないなと。自分は何も考えず、自分の中にいるもう1人の無意識の自分に書かせたんです」
──何だかスピリチュアル系な話になってきましたね。佐吉監督は、映画の神様は存在すると思いますか?
「すると思いますよ。最近のヒットしている映画というのは、本来の映画の持っているパワーは封印して、別の仕掛けでそれなりの作品にしていると思うんですよ。でも、本当の映画には、とんでもない天使と悪魔が潜んでいるもんなんです。こっちがその気になれば、モンスターは目を覚ますんです。今回は予算もスケジュールも厳しいことを逆手にとって、好き勝手に無茶な映画をつくったんですが、ただならぬモンスターの存在を感じました。撮影が始まってからも『あぁ、ダメだ。悪魔がやってくる』という悲惨な状況に陥りかけ、そこで一か八かの勝負に出ると必ず天使が微笑んでくれたんです。劇中に出てくる”巨乳の里”なんて撮影直前にロケ先がNGになったのに、代用のロケ地が今までで最高の場所でした。最初こそ『映画の神様なんていやしない。だったら、オレひとりでやってやる』という覚悟で挑んだものの、結果的にはスタッフの方々の尽力のおかげで映画の神様が振り向いてくれたような気がします」
と巨乳アイドル・ヒナ(森下悠里)が
凄まじいバトルを演じるが、佐藤佐吉
監督は巨乳と貧乳のどちらが好みなの
か? 「オレは野に咲く花のような控
えめな胸が好きですね(笑)。でも、
そう言いながらも男って、街で巨乳と
すれ違ったら振り返ってしまうもの。
ジョージ朝倉さんの原作は、男の建前
と本音の違いを見事に突いた作品だと
思いますよ」
──貧乳美少女ミカ役の秋山莉奈、巨乳アイドル・ヒナ役の森下悠里らグラビアアイドルたちが、こちらの想像以上のぶっ飛び演技を見せてくれています。新しいタイプのアイドル映画の誕生じゃないですか。
「往年の角川映画はよく観ていましたが、特にアイドル映画を意識したわけじゃないんですけどね。グラビアで人気の2人がよくボクの映画に出てくれたと思います。2人とも脚本を読んだ上でOKしてくれたわけですよ。森下さんは胸を思いっきり揉まれる役なのに(笑)。秋山さんも現場でのボクの意味不明な演出に戸惑ったと思いますが、ボクの期待以上にミカになりきってくれた。ボクのとんでもない演出に対して、それ以上に強力なモーターがガガガッー!! と作動してた感じでした」
──映画の神様を呼び寄せるほど熱気のある現場だったようですね。劇中でいろんな名作映画の題名が出てきますが、佐吉監督が「この監督には神様が降りている」と感じた映画はありますか?
「日本映画でなら、長谷川和彦監督の『青春の殺人者』と『太陽を盗んだ男』でしょうね。あの2本には確実に映画の神様が降りていると思います。実は今のボクがいるのは、ゴジさん(長谷川監督の愛称)のお陰なんです。ボクが30歳過ぎに脚本家として真剣に勝負しようとしていた頃、ゴジさんは長年企画を温めていた『連合赤軍』の前に1本何かつくっておこうということで、ボクがコンクールで入選した脚本を参考までに読んでくれたんです。その脚本に関してはゴジさんは面白いと評価してくれたけど、そこからゴジさんの企画のために大急ぎで書き上げた脚本はケチョンケチョンにけなされ、口論になって帰ったんです。憧れの監督だっただけに落ち込みましたが、部屋に帰ってみたら、ボクが心の師匠と崇めているベテラン脚本家の丸山昇一さんからも手紙で脚本をぼろくそにけなされて……。その日は3月13日でしたが、忘れられない記念日になりました。ちょうど大阪から映画に関わる仕事がしたいと家出同然で出て来たのも同じ日だったんです。映画の世界は諦めるか、それともここをどん底としてはい上がるか決めどころでした。そこで、やっぱりはい上がってやろうと褌を締め直したんです。ボクが言うのも差し出がましいけど、ゴジさんには絶対新作を撮ってもらいたいですよ」
──素晴らしいお話をしていただいた後で恐縮ですが、佐吉監督に一度聞いてみたかった質問があるんです。佐吉監督って、道を歩いていて職務質問とかされませんか?
「あぁ、何度かありますよ。でも自分としては期待はずれな人間なんじゃないかと思ってますけどね。『殺し屋1』とか観た海外の人たちは、ボクのことをさぞかしSやMに詳しく、ヤクザ社会についても造詣が深いと期待されているようなんです。マネキンを主人公にした『オー!マイキー』なんかも書いているから、『お薬とかされているんでしょ? どんなお薬をされているんですか?』とか尋ねられるんです(苦笑)。でもボクは酒も煙草もやらないし、見た目は別にしてフツーの性格なもので申し訳ないんです。ふだんの自分ってつまらない男だなぁと思うんですが、いざ脚本を書くときは『あれ、オレってこんな内容を書いたっけ?』と思うことがあるんです。無意識で書いている自分のほうが、ふだんの自分よりよっぽど優秀なんです。今回は、そういう意味で自分の中にいる、もうひとりの佐藤佐吉の監督デビュー作と言えますね」
シネコン向け映画からは抜け落ちている実に様々なものが、『平凡ポンチ』にはぎっしりと詰まっているのだ。佐藤佐吉監督の”非凡さ”をどっぷり堪能してほしい。
(長野辰次)
『平凡ポンチ』
原作/ジョージ朝倉 脚本・監督・出演/佐藤佐吉 出演/秋山莉奈 森下悠里 小西遼生 柄本佑 吉行由実 森下能幸 岩田ゆい 哀川翔 配給/エスピーオー
11月22日(土)よりシネマート六本木、シネマート新宿ほか公開
http://www.heibonponch.com/
さとう・さきち
1964年大阪府出身。キネマ旬報の編集の傍ら、サンダンス映画祭in JAPANの作品選びを手掛ける。その後、脚本家として『金髪の草原』(99)、『殺し屋1』(01)、『極道恐怖劇場 牛頭』(03)、ショートドラマ『オー!マイキー』(テレビ東京系)ほか数多くの作品に参加。花くまゆうさく原作の『東京ゾンビ』(05)で監督デビュー。『キル・ビル』(03)、『アフタースクール』(08)などでは個性派俳優として活躍する。自主映画発掘人としても活動中。
才能が爆発している。
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