急変するコンビニコミックの隠れヒット『任侠マンガ』の世界
#マンガ #裏社会
ここ1~2年、コンビニの本棚で、実在のヤクザを主人公にした任侠マンガがやたらと目に入る。『覇道ヤクザ伝 山口組三代目 田岡一雄』『死闘ヤクザ伝 山口組直参柳川組 柳川次郎』などなど……超一流の侠客の生涯を描いたものが多い。
このジャンルの先駆的なマンガが、竹書房から発行されている「実録ピカレスクシリーズ」。5年前から刊行が始まると、年間24冊ペースで発売。現在、総数は100冊以上にも上る。
しかし、これらの作品群はコンビニ売りの廉価版のため、いまだに”読み捨て”というイメージが根強く、さらに特殊な内容だけに、いわゆる一般的なマンガ好きからは、注目されることが少ない。したがって、その売り上げや制作事情などの実態がなかなか見えてこないというのが現状だ。そこで、同シリーズを担当している竹書房・制作局取締役局次長の宇佐美和徳氏に話を聞いた(ちなみに宇佐美氏は、能條純一の『哭きの竜』や福本伸行の『アカギ』を手がけた編集者でもある)。
「シリーズ刊行当初、『表紙にヤクザ本人の顔写真があり、イメージが悪い』という理由で、取次から『コンビニには置けない』と反発を食らいました。でもウチとしては『これはヤクザマンガじゃなくて、あくまでも歴史上の人物を主人公にしたドキュメントマンガ』という理由で粘り強く交渉したわけです。戦国武将のマンガがあって、なんでヤクザはダメなんだ? と」
確かに、実在した人物の生きざまを描いた一代記と銘打てば、「歴史人物マンガ」である。これはすばらしい発想の転換! でも、本職の方をマンガ化するわけですから、いろいろと気苦労も多いのでは?
「制作方法は、ノンフィクションや小説をマンガ化するパターンと脚本を新たに描き下ろして作るパターンの2つがあります。小説などベースがある場合、マンガとしては作りやすいのですが、『この場面で殴られたときは、血が飛び散っていなかった』など、原作から創造した文字と絵のイメージの違いなどについて細かいクレームが関係者から届くこともあるので、絵にする際には慎重を期しています。描き下ろしの場合は、新聞や雑誌報道などの数少ない資料や、引退した方々に取材をした上で、作っています。ただ、これ以上、制作過程を具体的に言ってしまうと、マンガ制作に影響が出てくるので言えません……」
引退したとはいえ、本職の方に直接会ってマンガ化の許可をもらうのは、怖くないんですか?
「当社には実話誌が2誌あり、その編集部の協力を得て作っているので、話がトントン拍子に進むことのほうが多いですよ。発行部数は、1冊平均で4~6万部ほどです。今までで一番売れたのは、昨年出た『王道ヤクザ伝 山口組六代目 司忍』。初刷7万3000部で4回増刷、合計10万部以上売れました」
一方、同シリーズを集めているマンガ収集家にしてライターの大西祥平氏は、その魅力をこう語る。
「一言でいえば、ヤクザマンガは大河ドラマ。最初は、男のロマンを描いたものにすぎないのかなって思うのですが、作品をいくつか読み進めていくと、『あれ? この場面はどこかで見たぞ』とフラッシュバックするシーンが必ず出てくるんです。つまり、実録モノゆえに、主人公となるヤクザの視点によって、同じ場面でもすべてが違って見えてくる。これが楽しいんです。昭和から平成にかけてのヤクザ史を縦軸に、男たちの人生がクロスしていく。これは、かつて少年マンガにハマった大人たちが望んでいた”ヒーローマンガ”の世界そのものですよ」
出版不況が続き、いまいち覇気に欠けるメジャーマンガシーンにカチ込みをかけるように、続々と刊行されるヤクザマンガ。独自の世界を切り開き、それを貫き通す、という意味において、これこそ”マンガの極北”といえるのかもしれない。
(金明昱/「サイゾー」11月号より)
人気ナンバーワンの司忍。
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