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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 鳥居みゆき 強靭な妄想キャラを支える「比類なき覚悟」
お笑い評論家・ラリー遠田の【この芸人を見よ!】第4回

鳥居みゆき 強靭な妄想キャラを支える「比類なき覚悟」

toriimiyukihappymonday.jpg『鳥居みゆき ハッピーマンデー』/
Victor Entertainment,Inc.

 テレビで見るお笑いと生で見るお笑いには大きな違いがある。寄席や劇場では、芸人はいかなる手段を用いてでも目の前にいる観客を笑わせればそれでいい。下ネタでも毒舌でも客いじりでも何でもあり。観客は笑うためにその場に足を運んでいるのだから、芸人の側がそういう考え方で臨むべきなのは当然のことである。本来お笑いとはそういうものだったはずだ。

 だが、テレビのお笑いは少し事情が違う。テレビは大衆娯楽であり、不特定多数の人間に幅広く発信されるメディアである。だからこそ、芸人が笑いのためにできることにも数多くの制限がある。そんな環境の中で、ほとんどの芸人は確実に笑いを取るために、自分が「普通の人」であることを過剰にアピールしようとする。それが視聴者に安心感や共感をもたらし、笑いを引き出しやすくする効果があるからだ。

 鳥居みゆきは、そんなテレビお笑い界の暗黙のルールを公然と破ってみせた。

 彼女はテレビに出始めた頃から今まで、カメラが回っている場所で明らかな素の自分を見せたことがない。白装束にクマのぬいぐるみを抱え、「ふっふー」と奇声をあげる戦慄の妄想キャラ「まさこ」を常に演じ続けている。そんな鳥居の態度に視聴者は不安を覚え、共演者は恐怖におびえる。それでも鳥居に迷いはない。どんな番組に出ても一心不乱に意味不明な言動を続けて、強引に笑いをさらっていく。

 今のテレビでこういう芸風を貫くのは、技術的にも精神的にも相当困難なことである。単に高度な演技力が必要なだけでなく、自分の笑いに対する確固たる信念と覚悟が求められるからだ。それでも、ディズニーランドの中でミッキーが決して着ぐるみを脱がないように、鳥居はテレビで「まさこ」の仮面を捨てようとしない。結婚発表時に記者に囲まれたあの場面ですら、いつもの調子でかみ合わない応答を続ける彼女には一分の隙もなかった。

 4月に発売されたDVD『ハッピーマンデー』では、そんな鳥居のテレビでは見られないさらにディープな一面を覗き見ることができる。この作品では、ホラー仕立てのショートドラマを軸にして、5本の一人コントが収められている。鳥居が演じる5人のキャラクターに共通するのは、滑稽なまでの妄想癖とトラウマを秘めた狂気。ファミレスでこっくりさんをする女性や自分が妊娠したと思い込んでいる「妄想妊婦」が、自身の心の隙間を埋めるようにぶつぶつとしゃべり続ける。一見すると奇をてらっているようだが、実は一つ一つのセリフがよく練られていて、コントとしての構成もしっかりしている。見応えのある独創的なネタが並ぶ、彼女の本領発揮とも言える傑作DVDである。

 共演者に怖がられても、視聴者に引かれても、鳥居は絶対に自分を崩さない。彼女こそは、ただ貪欲に笑いだけを追い求める、テレビ全盛の世に生まれ落ちた最後の正統派芸人なのかもしれない。
(お笑い評論家/ラリー遠田)

鳥居みゆき ハッピーマンデー

禁断の扉。

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最終更新:2013/02/07 13:05
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