シニア層に映画熱!? 数字に表れぬ『おくりびと』のヒットぶり
#映画 #邦画
松竹の『おくりびと』(滝田洋二郎監督)が絶好調だ。公開2週目のランキングでは、上位陣が軒並み順位を下げる中、5位から順位を1つ上げて4位に浮上している。たかだか5位から4位になったぐらいで「絶好調」なのかと違和感を覚える方も多いと思うので、その背景を少し説明してみたい。
公開から9日間を経て、『おくりびと』の累計興収は8億2500万円強。これは『おくりびと』と同じ日に公開され、2週連続2位に居座る『パコと魔法の絵本』(中島哲也監督)と遜色のない数字である。
この2作品の、公開後3日間(9月13日~15日)の成績と、公開後9日間(9月13日~21日)の成績を比較してみよう。(動員の100人以下、興収の100万円以下は切り捨て)
『パコと魔法の絵本』
公開後3日間 動員38万2700人、興収4億6700万円
公開後9日間 動員71万0700人、興収8億7400万円
『おくりびと』
公開後3日間 動員29万0400人、興収3億4800万円
公開後9日間 動員71万3100人、興収8億2500万円
『パコ』は、公開後3日間で『おくりびと』より1億2000万円ほど高い興収を挙げているのだが、公開から9日目の時点ではその差は約5000万円まで縮まっている。しかも累計の動員数では、公開後3日間時点で9万人の差があったのを逆転して、何と『おくりびと』が『パコ』を上回っている。
これはどういうことだろうか? 毎週発表されるランキングの順位だけでは、見えない部分である。
『おくりびと』は『パコ』に比べ、平日の稼働率が断然高いのである。『平日の稼働率が高い』イコール、シニア層が平日の日中に見に行っているということ。(ここでは、夫婦50割引が適用となる50歳以上を『シニア』と表現)。平日の成績は、興行通信社が配信する国内ランキングの順位には反映されないので、一般的には『パコ』が『おくりびと』よりヒットしているように見える。だが、実際には『おくりびと』を見た人の数は、『パコ』を見た人より多いのだ。
ここで改めて、週末(9月20日~21日)の国内ランキングを見て欲しい。
1『ウォンテッド』
2『パコと魔法の絵本』
3『20世紀少年』
4『おくりびと』
5『崖の上のポニョ』
6『大決戦!超ウルトラ8兄弟』
7『ハンコック』
8『デトロイト・メタル・シティ』
9『次郎長三国志』
10『セックス・アンド・ザ・シティ』
例えば、あなたが今、母親(あるいは父親)に映画のチケットをプレゼントするとして、この10本の中から選べと言われたらどれを選ぶか? それほど選択肢は多くないだろう。コミック原作、TVドラマの映画化といった企画が全盛の中、シニアの方々が惹かれる映画はあまりに少ない。
もともと『おくりびと』がシニア向けの企画であったとは思えないが、結果としてシニア層が多く稼働したことにより、興行が一回りも二回りも太くなっているのだ。
配給の松竹は、興収目標を20億円から30億円に上方修正し、追加の広告も準備しているという。
今年の松竹のヒット作は、『母べえ』20億円、『犬と私の10の約束』15億円、『ゲゲゲの鬼太郎/千年呪い歌』13.5億円といったところなので、この『おくりびと』がそれらを上回って今年のベストとなりそうだ。
若者の映画離れがますます加速する今、シニア層に確実に訴求できる映画が、これからもっと盛んに作られるかも知れない。この週末は『最後の初恋』(リチャード・ギア、ダイアン・レイン主演)の成績に注目してみたい。
(eiga.com編集長・駒井尚文)
作品の詳細は以下より。
『パコと魔法の絵本』
『おくりびと』
滝田監督、前作『バッテリー』も好評でした。
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