“King of Tokyo”アマラオが語る『王の矜持、戦う意味』(後編)
#映画 #サッカー
前編はこちらから。
──アマラオさんが来日した92年の翌年Jリーグが開幕しますが、当時どのように日本のトップリーグをご覧になっていましたか?
アマラオ「トップリーグとはいっても、一部の外国人選手を除けば今までアマチュアだった選手がほとんどなのですから、それほどサッカーの内容はレベルが高いとは思いませんでした。今では、もちろん素晴らしいプレイを見ることができますけどね。でも当時は、東京ガスのチームとJリーグのクラブの差なんて、ほとんど無いと感じていましたから、クラブには『上でやれる実力があるのに、どうして上でやらないんだ』といつも言っていました。実力の差はほとんどないのに、Jリーグばかりにスポットライトが当たって、一方で私たちはメディアに取り上げられることなんてほとんどない。やはり、フラストレーションが溜まりましたね。当時、私は江戸川の方に住んでいて、そこから電車で練習場に通っていましたが、誰も私のことなんて知らないので声をかけられることもありませんでしたよ。ただ、その後東京ガスがプロチーム『FC東京』になってトップリーグに昇格すると状況は一変しました。行く先々で声をかけられサインを求められたりするようになったので、やっていることはつい一ヶ月前と何も変わらないのに、と戸惑いましたよ」
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──92年に来日して、それから6年もの間アマチュアのクラブでプレイを続けられたわけですが、何がモチベーションになっていたのでしょうか。
アマラオ「私はレンタル移籍で日本に来ていましたから、年末にはブラジルに帰って所属先のクラブで給料を受け取るのですが、年末にブラジルに帰ったら日本には戻らないつもりでした。ただ、そのときクラブの会長が東京ガスから『アマラオはどうしてる』という連絡が毎日のように来るという話をされたんです。私は『もう、あんなアマチュアクラブじゃやっていけない』と会長に言いましたが、『お前の気持ちはわかったが、ここでもう一度選手としてやっていける保障なんてないぞ』と言われてしまいました。もし、サラリーをもらえなくなったら家族を養うことが出来なくなってしまいます。だから、私のモチベーションは家族のため、最初はただそれだけでした。ただ、来日して5年目くらいには、クラブでやりたいこと、やるべきことというものが自分にもわかったので、もう帰りたいとは思わなくなりましたね」
──映画の冒頭で、「自分は戦うことで成長してきた。そして戦うことで仲間たちも一緒に成長する。サッカーはそこが素晴らしい」ということをおっしゃっていますが、その頃にその実感が芽生えてきたということですか?
アマラオ「その通りです。戦う意味を、そのころやっと感じられるようになったんですね。だからこそ日本に残ったし、残りたいと思えたんです。選手はもちろんクラブの関係者も含めたみんなをファミリーだと感じられるようになりました。もちろん結果がついてきたというのも一つあります。次第にいい選手が入ってくるようになってチームが強くなったというのもありましたし、天皇杯ではトップリーグのクラブにも勝つことが出来た」
──やはり、勝つことは大きなモチベーションになりますか?
アマラオ「そうですね。サッカーは勝つだけが全てではありませんし、負けることから学ぶこともありますが、勝てる力があるからこそ負けたときに悔しい気持ちが生まれるのだと思います。当時の東京ガスというチームが連敗のとても少ないチームだったのも、クラブのみんなが敗戦から学ぶことができる強い向上心を持っていたからだと思いますね」
──そうやってチームの団結心を高めていったんですね。
アマラオ「ブラジルでは、一度ファミリーだという感覚を持ったら積極的に気持ちを表していきますが、日本人は心がつながっていてもあまり表には出さないので正直に言えば最初はわからなかったところもあるのです。しかし、いつしか皆が私を信頼してくれているということがわかった。それは、私が仲間を信頼できるようになったからでもあるし、私自身が成長したからなのです。昔のチームメイトに当時の話を聞くと、みんな『来日した当時のアマラオはひどかった』と口を揃えて言いますが、それはプレイを含めて仲間を信じることができずにやっていたということなのでしょう。ブラジルにいた頃はベテランも若手もお互いをリスペクトし合っていましたし、チームに一体感もありましたが、それと同じことが、やっと日本の東京ガスというチームでも出来るようになったのです。
私は高い意識を持って自分たちのサッカーを目指すことができるチームというものが良いチームだと思っています。ホームだからとかアウェーだからとかでスタイルを変えることなく、自分たちのサッカーをやるんだという統一した強い意志を持てるチームというのが理想です。それを踏まえたうえで選手はチームでの自らの役割を、責任を持って果たす。クラブはそれを全面的にサポートする。サポーターは常に選手と一緒にいてくれて、いいゲームをしたときは一緒に喜び、つらい時には鼓舞してくれる。FC東京というクラブが出来たころは、そんな風に一致団結した雰囲気がありました」
──そういう意味では、当時のチームはかなりアマラオさんの理想に近かったのでしょうか?
アマラオ「戦術という意味でいえば、私はシンプルなプレイでボールをゴールに入れるというのが理想です。たとえばチェンジサイドというものがありますが、いくらサイドを変えるパスを出しても、ゴールに結びつかないのならばやる必要は無いと思います。これはドリブルでもポジショニングでも同じです。ゴールに向かったプレイでなければ意味がないプレイです。目的を持って、それに向かっていかにシンプルにプレイするのかということが大切なのだと思います」
──アマラオさんは、JFLのアルテ高崎で監督(兼選手)をされた経験がありますが、また監督をやりたいという気持ちというのはありますか?
アマラオ「はい、将来はJリーグで監督をやってみたいと思っています。まあ、私がいい監督か悪い監督かはわかりませんが、先ほど話したようにチームに個性があって目的に向かって一丸となれるようなチームをつくりたいですね。ワン・フォー・オールの精神を持った本当のファミリーのようなチームです。ただ、まだ私自身が監督になる準備ができているとはいえません。選手としてならば20年の経験がありますが、コーチとしての経験はまだまだです。そこは、これから少しずつ積み重ねていかなければならないと思っています」
──では、最後にファンの方にメッセージを。
アマラオ「私がプロのサッカー選手になれたのは、夢を信じて努力したからだと思います。また、日本に来てサッカーを通じ、こんなにも素晴らしい経験をすることができました。様々な出会いがあり、友情を育み、お互いに成長していく。これは、サッカー選手でなくても同じだと思いますが、『KING OF TOKYO O FILME』を通じて、みなさんに夢と仲間を信じて努力することの大切さが伝われば嬉しく思います」
(取材・テルイコウスケ)
●アマラオ Amaral
1966年10月16日、ブラジル・サンパウロ郊外のピラシカーバ生まれ。本名ワグネル・ペレイラ・カルドーゾ(Wagner Pereira Cardozo)。
87年、サンパウロ州の3部に所属していたコメルシアンと初のプロ契約。カッピバリアーノ、イトゥアーノで活躍した後、92年にブラジルの名門パルメイラスにレンタル移籍。怪我のリハビリ中に、アマチュアチームであった東京ガスサッカー部から勧誘を受け来日。
98年、JFL通算100ゴールを突破。99年、チームがプロ化し、来日8年目にしてプロリーグへの参戦を果たす。03年シーズン終了後に多くのサポーターに惜しまれながらFC東京を退団。その後、下部リーグに所属し、07年4月に現役引退を正式表明。
常にチームの勝利を目指すプレーが、多くのサポーターの心を惹きつける。特にFC東京のサポーターからは、キング・オブ・トーキョーの名で愛され、今なお味の素スタジアムでFC東京が試合をする際には、『KING OF TOKYO AMARAL』の巨大な横断幕がゴール裏に掲げられる。
●『KING OF TOKYO O FILME』
出演:アマラオ、ケリー、川淵 三郎、村林 裕、原 博実、ラモス瑠偉(友情出演)
スタッフ:監督・編集 太田 綾花 原作:植田朝日 プロデューサー 木村 尚司
2008年/カラー/104分/日本語・ポルトガル/日本語字幕・ポルトガル語字幕/ステレオ
配給:スリー・ジー・コミュニケーションズ/宣伝:ビー・ビー・ビー/協力:日本サッカー協会、東京フットボールクラブ、湘南ベルマーレ、ベガルタ仙台、アルテ高崎 /後援:ブラジル大使館/外務省認定 日伯交流年認定事業/製作:ティー・オーエンタテインメント
©T.O Entertainment,Inc. 2008
■公開
10/11(土)より、渋谷シネパレス
10/18(土)より、吉祥寺バウスシアター
10/25(土)より、TOHOシネマズ府中ほかにてレイトショー
■URL
http://www.kingoftokyo.com/
●プレゼントの詳細
日刊サイゾーでは映画『KING OF TOKYO O FILME』の劇場鑑賞券とアマラオサイン入りプレスキットをセットにして、5名様にプレゼントさせていただきます。ご応募の〆切は10月3日(金)23時59分とさせていただきます。なお、当選の発表は商品の発送をもってかえさせていただきます。
この人もまた、FC東京の歴史です。
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