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スポーツ中継を殺す「放送の独占」と「過剰演出」(前編)

yasuo_kurashiki.jpgスカパー!のサッカー実況でお馴染みの
倉敷氏に聞いた「テレビ」と「スポーツ」
の理想的な関係とは……?

 五輪競技、サッカー、野球……これらのスポーツ中継は、もはや躁病的な“お祭り状態”と化している。あまりにうるさすぎて「ミュートで映像だけ」という視聴者も多い。そこで、実況アナとして評価が高い倉敷保雄氏に、スポーツをめぐるテレビ事情を伺った。

──競技と関係のないタレントが起用されたり、選手に安っぽいキャッチフレーズをつけたりと、スポーツ中継・スポーツ番組のバラエティ化が加速していますね。

倉敷 まず、問題点として挙げられるのは、テレビ局が自社制作をする形ではなくなっている点ですね。大きなお金が発生すると、それを制作会社に投げ、その制作会社がまた下に落とす。最終的には予算がギリギリになり、たいしたものを作れなくなる。上にお伺いを立てれば、スポンサーの縛りが厳しく、自由な番組作りができなくなる。そうなると、てっとり早く低予算で作るために、「装飾品のようなタレント」や「飾り言葉」で取り繕うことになりますよね。

──実際、地上波のスポーツ番組には多くの制作会社が絡んでますよね。

倉敷 中には、スポーツ番組の制作経験がない会社なのに、スポーツものを制作している会社もある。しかも、テレビ局のプロデューサーが制作会社の人に「お前の番組に出してくれ」と前後の番組に出演しているタレントを強引に登場させる。元々、スポーツ中継の場合、放映権が高いので、それに見合った視聴率で元を取りたいという意識が出てきます。だから、タレントで数字を稼ごうとするんじゃないでしょうか。ただ、タレントが入ることが必ずしもダメだとは思いません。『世界陸上』(TBS)の織田裕二さんだって最初はミスマッチに見えても(97年からメインキャスター)、今や欠かせないキャラクターになった。もちろん好き嫌いはあるかとは思いますが、いろいろな可能性があるし、タレント起用だからといって、即座に否定するのも違うんじゃないかなとは思います。

──となると、何が一番の問題になってきますか?

倉敷 まずは「放送の独占化」ですね。高額な放映権を買うと1局独占中継でやりたがるでしょう。すると、他局がその競技のスポーツニュースを配信しなくなるわけです。競技は行われているのに、ほかの局はまったく報道しないなんて、スポーツとしておかしいでしょう? しかも独占したテレビ局の中だけで閉塞しようとするから、“内輪のお祭り騒ぎ”になってしまう。たとえば、ある局にK−1の放映権があるとします。すると、その局のアナウンサーは一生懸命に格闘技の勉強をするわけです。新人アナも将来のために勉強するし、取材にも行く。継続は力なりで、アナウンサーと選手とのコミュニケーションも徐々に取れてきて、格闘技への理解度も上がってきます。ところが、しばらく経つと、放映の権利がパッと別の局に移動してしまうことがあるから、せっかく育ってきたアナウンサーは、一切K−1の実況ができなくなる。これは不幸ですよ。権利を買った局にしたって、またゼロからスタートするわけです。これではスポーツ中継に関わるアナウンサーもディレクターも育たないですよ。

「スター選手=高試聴率」という制作側の思い込み

──ほかに問題点はありますか?

倉敷 「演出」も大きな問題点です。サッカーW杯の中継でテレビ朝日が「絶対に負けられない戦い」というフレーズを連呼して視聴率を取った。そういった演出自体はいいけれど、他の局までがそのマネをしてしまう。その悪影響がモロに06年トリノ五輪に出てしまいましたよね。各テレビ局が高い権利を買った競技で、メダルなんか取れない可能性が高いのに「この選手がメダルを取る!」なんてフレーズが数多く飛び交って“ウソツキ中継”をやっちゃった。本来、スポーツというのは、「足が速い」というだけで感動的なはずなんです。日本人選手がダメだとしても、織田裕二さんみたいに「スゲー!!」と驚いて感動できるものなんです。にもかかわらず、日本人選手というスポットだけに注目して、結局、誰が勝ったのかわからない中継をしてしまうのは、スポーツ中継、スポーツ文化そのものの退廃ですよ。卓球の愛ちゃんでも、ゴルフの上田桃子さんでも、どんな競技でも日本人が頑張ってプレーするのはもちろん応援しますよ。でも結局、「優勝したのは誰ですか?」ということがサッパリわからない。「日本人のスター選手」を冠にポンと据えれば、視聴率が取れると思っているテレビ局の制作側の考え方が間違っていると思います。

──「放送の独占化」と「演出」の問題点を解決する方法としては、どのようなものが考えられますか?

倉敷 極端な話、全局が同じ競技、同じ試合の放映権を買ってみるのはどうでしょうか。サッカーの「日本対ブラジル」という試合があったら、同時に全局で放送してみるんです。そのときに、はじめてスポーツ中継の質が問われてくる。視聴者にとっては、どの局の中継が良いのか、一目瞭然になりますよね。

──では、倉敷さんのご専門でいらっしゃるサッカーの話ですが、現在の日本代表の過剰演出ともいえる傾向をどう思いますか?

倉敷 かつては、日本代表の試合は、NHKと民放が同じ試合を放映するという形をとっていたので、視聴者にとっては、選択肢が2つあった。今は必ずしもそうではなくなった。民放とNHKの2つで中継してもらえれば、視聴者も二手に分かれるとは思います。

後編に続く「サイゾー」7月号より/構成・河治良幸)

倉敷保雄(くらしき・やすお)
1961年、大阪府生まれ。SKY PerfecTV!やJ SPORTSでサッカー中継の実況アナウンサーとして活躍。ラジオ福島アナウンサー兼プロデューサー、文化放送記者を経てフリーアナウンサーに。愛称はポルトガル語で「名手」を意味する「クラッキ」と苗字の「倉敷」とをかけた「クラッキー」。著書に『実況席より愛をこめて』(徳間書店)、山本浩氏(NHK)との対談集『実況席のサッカー論』(出版芸術社)。

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最終更新:2013/02/12 11:23
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