世界を裏で操っているのは誰だ?(前編)
#金融 #佐藤優
給料は出ているのですか?」(副島)、「基本給の6割
くらいは出ています。当時の外務大臣の川口順子さ
んから『あなたが外務省に出てくると信用失墜になる
から、出ないように』と、辞令をもらっています(笑)」(佐藤)
サブプライム問題に端を発する世界的な株安は日本経済をもろに直撃しているが、これに対応するはずの次期大統領有力候補・オバマ氏は、実はロックフェラーに操られて、さらに市場を破壊しようとしている!?
注目の米大統領選から世界の経済情勢、北方領土問題の解決が急がれる日ロ関係までを、意外にも初対面だという、インテリジェンスのプロフェッショナル副島隆彦と佐藤優の2人が見通す。
佐藤(以下、佐) アメリカの民主党大統領候補選に関し、副島さんが2007年4月時点で、「バラク・オバマ氏が民主党大統領候補となる」と決め打ちしたことには驚きました。日本で一番早い予測だったのではないかと思います。しかも、なおかつ「私には見えるのです」とおっしゃっていた。これはすごいですね。それこそが、現実の情勢を正確に見通すという「インテリジェンス能力」です。副島先生の今回の的確な予測は、他の人がいろいろと留保をつける中で、非常に突出していました。
副島(以下、副) 私には、バラク・オバマが民主党大統領候補に選ばれるということが、4年前からわかっていました。ディヴィッド・ロックフェラー(ロックフェラー家当主/93歳)がそう決めて、彼を抜擢したからです。彼らニューヨークの金融財界人の意向が大きく働いて、「これでいくぞ」と4年前に決められた。大統領選挙といっても、そうした金融財界の親分衆が「今度は誰を立てるか」によって決まります。これからの8年間は、共和党ではなくて、今度は民主党にやらせる、というのが彼らの筋書きです。わかりやすいでしょ。アメリカのデモクラシー(民主政治)なんて形だけなんです。ヒラリー・クリントン候補が今年6月まで撤退しなかったのは、背後でネオコン派とイスラエル・ロビーが必死に支援していたから。結局、それらの勢力の争いだったわけです。11月4日に実施される大統領選挙の本選挙でも、共和党のジョン・マケイン上院議員が当選することはないと予測します。
佐 では、オバマが大統領に選ばれたら今後のアメリカはどうなるでしょうか?
副 細かい理由はここでは説明しきれないので、私の著作などを読んでいただきたいのですが、アメリカ経済はこれからリセッション(景気後退)、そして大不況に突入します。貧困層による暴動も起こるでしょう。そのときの貧民の多くは有色人種です。暴動を阻止するのに最も効果を発揮するのは、オバマの肌の色ということになります。黒人大統領が飢えた人々に向かって、平静と団結を呼びかけることになる。オバマが大統領になったら何をやるかというと、まず大規模な公共事業をやるでしょう。ニューヨークの金融財界人たちも賛成しています。オバマ政権は財政出動をし、減税を行い、景気浮揚策を取ります。「ドルの切り下げ」宣言もやるし、福祉政策も強化します。
また、サブプライムではない健全な住宅ローンであるプライムローンを払えなくなった人たちが、差し押さえを受けるのを阻止するために、5兆ドル(500兆円)ぐらいの巨額の公的資金をつぎ込むでしょう。いや、さらにこの4倍を出すかもしれない。
そうすると、連邦政府は巨額の借金をさらに積み増していくことになります。国家の借金証書である米国債をものすごい勢いで発行します。それをFRB(米連邦準備制度理事会)が引き受けます。FRBがドルを刷って、アメリカ財務省に与える。これを次々に破綻する大銀行群の救済に回したり、公共事業や福祉政策を行うと、ドルがものすごい勢いで市中に増えます。その結果、ドルの価値は大きく下落し、1ドルが30円くらいまで落ち込む。ニューヨークのダウは、1万ドルを割って7000ドル台まで下落していくでしょう。
今のベン・バーナンキFRB議長はその日のために計画的に選ばれた人物です。彼はヘリコプター・ベンと呼ばれている。ヘリコプターからドルのお札を撒き散らかすかのように、いざという時のためにドルを大放出する通貨政策を実行するとみられているからです。そうした中で私の予測では、12年には、アメリカの大銀行や証券・保険会社が30ほども潰れて、IMF体制、つまり金・ドル本位体制は終結します。
佐 私は、オバマが大統領になった場合、ヨーロッパにおける受け止めに関心を持っています。アメリカでは、黒人が大統領になることについては、一応、過去にあった抵抗感がなくなったと言ってよいと思います。しかし、ヨーロッパは、冷戦終結後、むしろ過去に回帰している面がある。特にユダヤ・キリスト教の一神教、ギリシア古典哲学、ローマ法という3つの伝統による「コルプス・クリスチアヌム(ラテン語で、キリスト教共同体を意味する)」という文化システムが甦っています。
これは基本的に白人の文化です。ナチズムは人種理論を基礎に、ドイツ人を中心とする「アーリア人種」による世界支配を追求しました。ナチズムに対する反省から、ヨーロッパで人種主義は克服されたということになっていますが、実際は、ヨーロッパの白人には、有色人種に対する差別意識は今も根強く残っています。アメリカに黒人大統領が出現すると、ヨーロッパの人種主義が再び頭をもたげてくる可能性を私は危惧しています。
ドルの大暴落で、世界は大恐慌に突入する?
佐 最近騒がれている「スタグフレーション(不況とインフレの同時進行)」到来の可能性についてはどう思いますか?
副 私は、「スタグフレーション(stagflation)」という言葉をあまり使いません。「スタグネーション(stagnation)」、つまり「停滞する景気=デフレ(不況)なのに、そのままインフレにもなる」という言葉を使いたい。デフレ、不景気なのに物価が上がる。それはなぜなのかと問い詰めても、経済学者たちには答えられない。ノーベル賞クラスの経済学者たちにも解けないということがわかりました。スタグフレーションに陥る理由についての私の見解は、「お札とか国債(債券)とかの紙切れを刷り過ぎるから」です。すべての問題はドルの過剰流動性に起因している。先ほど言ったように、お札と国債の過剰発行によって、米ドルはやがて大暴落する。そのときに、金融財界人たちは、金融工学という高級な数学理論を巨大に膨らませて、強欲と拝金によって大儲けしようとする。レイシオ【註1】の思想を全開にするわけですね。
佐 最初から、実体的な裏付けを欠いたところで数値モデルにしているために、今のアメリカ市場経済はひとつの宗教のようなものになったわけですね。
副 そうです。そもそもは、保守派経済学者であるミルトン・フリードマン【註2】が金融の先物市場の理論に仕立て上げて、デリバティブという金融商品を取引する市場をつくったのです。その市場の総本山が、シカゴ・マーカンタイル取引所であり、そこを率いるレオ・メラメッドというフリードマンの弟子が、巨大な世界的金融バブルの元凶です。そうした市場では、「想定元本」とか「予想収益率」「期待利益率」などといったもので取引します。しかし、それらは実需ではない仮想の数字(金額)で、この取引は、全速力で後ろ向きに走っているようなもの。過ぎ去っていく後方の景色はきれいに見えるので、それらはすべてうまく説明できます。しかし、これから前方で何が起こるかわかりません。
それが「想定元本」や「期待利益率」です。見えない景色を、世界を動かせる政治力と高等数学によって描こうというのですから、市場の実態は八百長だらけの賭場と一緒です。これでは、つんのめって大恐慌に突入する。
佐 わかります。インテリジェンスの世界でも、どの政権の安定度がどのくらいかという分析を行うとき、専門家が心象風景に基づいた数字を入れてきます。その上、最後のところはその道の「神様」といわれる専門家たちが、談合で適当な数字を入れて決めますから(笑)。理屈では、政治や市場を説明できません。それは、政治も市場も人間の行為によって成り立つ領域だからです。
副 そんなものは本来の、公平で透明な市場でもなんでもありません。それでも、今のままアメリカのロックフェラー家や欧州のロスチャイルド家などの国際金融資本家たちが、オバマ大統領を巧妙に動かしていくと思います。ドルがどうなろうと、彼らだけは数学的に答えを導き出しているわけです。
(後編につづく/構成・吉野勝美 写真・天野憲仁/「サイゾー」9月号より)
【註1】レイシオ
レイシオ(=ラチオ/ratio)とは、もともとは「分割すること、分けること、比例配分する」という意味。ユダヤ思想の根本にあるのは「ラチオ(合理)」と「リーズン(理性)」で、つきつめると強欲と拝金であるという副島が解明した理論。
【註2】ミルトン・フリードマン
1912~ 2006年。ニューヨーク生まれの経済学者。20世紀後半の保守派経済学者の代表的存在。ケインズに対抗し、貨幣数量説であるマネタリズムを甦らせ、今日の経済に多大な影響を与えた。アメリカのレーガノミックス(レーガン政権)やイギリスのサッチャー政権の経済政策の理論的支柱となった。小泉純一郎政権の構造改革にも、大きな影響を与えた。
●佐藤優(さとう・まさる)
1960年東京都生まれ。85年外務省入省。外務省元主任分析官。情報分析のプロとしてロシア外交の最前線で活躍。現在、起訴休職中。情報化時代に対応するための独自のインテリジェンス論を説く。
●副島隆彦(そえじま・たかひこ)
1953年福岡市生まれ。常葉学園大学教授。副島国家戦略研究所主宰。サブプライム危機をはじめ、現在進行しつつある世界経済の大変動を早くから予測。日本の持つべき国家戦略について提言し続けている。
第59回毎日出版文化賞特別賞受賞作。
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