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五輪のためなら地震も利用!? 中国政府のメディア統制術(後編)

Jingjing.jpgアイドルアスリートの頂点に立つ郭晶晶(写真提
供/朝倉浩之)

前編はこちら

中国の浅尾美和?
郭晶晶は“メディアの玩具”

 最近、報道合戦の最大の犠牲者となっているのが、“飛び込みの女王”郭晶晶だろう。郭は、国際的にもトップレベルの中国飛び込み代表のリーダー格で、ルックスの良さも手伝い、“アイドルアスリート”として絶大な人気を誇っている。私生活においても、香港の大富豪との交際が報じられたり、自らのブログでビキニ写真を公開したりと、芸能人顔負けの話題を常に振りまいてきた。


 5月半ば、その郭について「妊娠、そして国家代表引退へ」とする海外発のニュースが突如として流れた。「金メダル獲得が確実視されている国家のヒロインが、大会直前に妊娠し引退する」という大スキャンダルに、新聞からネットまでありとあらゆるメディアが飛びついた。果ては国際水泳連盟の公式ウェブまで、このニュースを転載し、日本の大手メディアでもこれを引用する形で報道された。出所不明のニュースにもかかわらず、いつの間にか記事は、あたかも“事実”のように、ひとり歩きしていった。後日、まったくのデマだったことが明らかになると、今度は“誤報を流した犯人探し”が始まって、「日本をはじめ、外国メディアが無責任に報道したのが原因」という結論に落ち着き、騒動は急速に幕引きとなった。

 ちなみに、郭は以前、試合後の記者会見で横柄な態度を見せたり、ライバル選手をデブ呼ばわりして、メディアの総スカンを食らっていたことでも知られる。また、それ以外にも、恋人に宛てた熱愛メールの内容が暴露されたり、北京五輪後にフィアンセと住む予定の大邸宅が写真つきで報道されたりと、ゴシップは枚挙に暇がない。それだけ“価値のある”キャラクターなのだろうが、良くも悪くも、彼女は、まさに「メディアの玩具」と化してしまっている。

 ある中国スポーツ紙の記者は「北京五輪で注目されているアスリートのネタは今、真実だろうとデマだろうと、何を書いても売れる」と現状を語る。というのも、日本の社員記者とは異なり、中国の新聞記者はフリーランス的な部分があり、記事が紙面に採用されて初めて“歩合制”で給料となる。そういった背景もあることにより、とりあえず一番書きやすく、注目を引きやすい郭が文字通り、記者の飯のタネとなっているというわけだ。

 このような、「なんでも記事にしよう」という過激なパワーに満ちあふれた報道によって、国民のスポーツに対する関心を高めているのは事実だが、もう一方では、中国スポーツ全体の発展を妨げ、確実に足を引っ張っている面も少なからずある。中国スポーツメディアは、その両面をはたして自覚しているのかどうか、甚だ疑問である。

四川大地震を利用して
報道統制をはかる中国政府

 さて、これほどまでに過熱するスポーツ報道をさらに勢いづかせたのが、実は5月半ばに起きた四川大地震だった。日本でも報道されている通り、地震によって数多くの尊い命が奪われ、膨大な数の家屋が倒壊し、街全体が消えてしまったという土地もある。この“中国建国以来最大”ともいわれる災害は、中国人の心に大きなショックを与えた。

 災害直後、北京の日刊紙のベテラン中国人記者と話したとき、「この地震は北京五輪にとって、追い風になるかもしれない」と意味深なことを言った。彼の分析はこうだ。

「まずは、これまでチベット問題をはじめ、さまざまな形で起きていた世界中からの“中国バッシング”が地震によって、急変するかもしれません。つまり、“非難”が“同情”へと変わり、国際的な雰囲気がよくなるはずです。併せて、これまで北京五輪の蚊帳の外で無関心だった北京在住以外の国民も『がんばれ、四川』という大合唱の下に愛国心がさらに高まり、五輪に向けて一致団結しようという機運が盛り上がるのではないでしょうか」

 そして今、国際的な雰囲気はともかくとして、国内の雰囲気は確実にそうなりつつある。具体的に言えば、次のような現象が挙げられる。まず、地震後、若者たちを中心にボランティアの希望者が殺到した。そして、「アイ・ラブ中国」と書かれた愛国的なTシャツが飛ぶように売れ、ファッション感覚で着る人たちを街で見かけるようにまでなった。今、中国は若者を中心に、きわめてライトに愛国心を表明することがトレンドとなっており、五輪に向けた“心の一体感”が盛り上がりつつあるというわけだ。

 加えて、アスリートたちもその流れに乗った。5月末、五輪メインスタジアム“鳥の巣”で陸上の五輪テスト大会が行われた。アテネ五輪110mハードル金メダリストの劉翔も、110m障害に出場した。当初はフィールドの感覚をつかむために、初日の予選だけを顔見せ程度に走るだけ、と見られていたが、結局は予選から決勝まで、3日間連続でファンの前に姿を現した。これは「四川省の子どもたちと約束したから」とも報道されている。レース後のインタビューでは「僕は常に四川の人たちとともにある」という被災者へのメッセージが必ず付け加えられ、最終日には、「四川省のために五輪で金メダルを取る」とまで誓い、場内の、いや中国全土からの拍手喝采を浴びた。

 劉翔だけでなく、前述の郭もバスケットボール代表選手の姚明も、みなチャリティ活動に多くの時間を割いて、多額の義援金を拠出し、被災地への激励メッセージを発し続けた。さらに元金メダリストである「国家の英雄」たちが地震直後から次々と被災地入りし、現地の子どもたちを励ますシーンが、連日テレビで長時間にわたって映し出された。

 五輪に出場するアスリートたちが行った復興支援、応援メッセージといったパフォーマンスを、中国の人たちは称賛をもって受け止め、今回の北京五輪に「未曾有の災害から立ち上がる祖国」という再出発の意味を重ねようとしている。

 こうした一連の動きの中で、スポーツメディアの果たした役割は大きい。中国の企業家や芸能人たちも同じように多額の義援金を被災地に寄付したものの、何よりもまず、アスリートたちの活動が特にテレビ画面や紙面で大きく扱われていた。これは明らかに意図的な報道であり、「四川の悲劇」を北京五輪の雰囲気作りに結び付けようという、中国政府によるメディアコントロールが明白にあったのは間違いないだろう。           

 冒頭で、スポーツメディアは“政府の舌”とは一口には言えない部分があると述べたが、やはり、明らかに政治的な背景を含んだ意図的な報道も当然ある。

「“中国人民が一体となって迎える北京五輪”に向け、四川大地震を中国政府が“利用”したと言えます。6月半ばには、国内の各国営メディアに対して、政府が今後の報道方針を示しました。まず四川大地震については、『今後は復興状況や被災者の生活改善などポジティブな部分に重点を置いて報道するように』との軌道修正の指示。その次には、『“地震一辺倒の報道”から北京五輪報道へ速やかにシフトせよ』という報道のコントロールがありました」(北京・テレビ関係者)

 地震発生後、2カ月近くがたった今も、被害の全容が見えていない状況だが、「もうそろそろ地震はいいから、早く五輪の盛り上げへ」ということだ。大胆かつ過激な報道を続けてきた中国のスポーツメディア。五輪本番、これまでにない過激な報道合戦が展開されるのは間違いないだろう。世界各国での聖火リレー騒動、チベット問題、そして四川大地震。中国に関するトラブルが続発している。今年冬には、中国南部が大雪被害に見舞われたから、この上半期は中国にとって、まさに「厄年」といえよう。

 ただ、私が中国で取材を続けて感じるのは、言葉は悪いが、中国の「転んでもただでは起きない強さ」である。これらの中国にとって、徹底的にネガティブなはずの出来事さえも、ことごとく彼らは北京五輪の成功に繋げようとしている。
(朝倉浩之/「サイゾー」8月号より)

最終更新:2008/08/04 21:10
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