五輪のためなら地震も利用!? 中国政府のメディア統制術(前編)
#中国 #北京五輪
――チベット問題、世界各国での聖火リレー騒動、そして四川大地震。五輪を控えた中国をめぐって数々のトラブルが続発した。ただ、これらネガティブなはずの出来事さえも、同国政府は、ことごとく北京五輪の成功に結び付けようとしているという――。北京在住日本人ジャーナリストが中国の内幕をレポート!!――
中国の報道機関といえば、「プロパガンダ記事」「共産党の旗振り役」といったイメージが、日本では一般的だろう。だがしかし、それはあくまでも一側面にすぎず、スポーツ報道となると決して“政府の舌”とは一口には言えない部分がある。中国スポーツメディアの報道姿勢はとても活発で、その内容は「カオス状態」、「なんでもあり」と言えるほど、すごい世界が繰り広げられている。
筆者の住む北京のスポーツメディアとしては、サッカーとバスケットボールをメインに骨のある報道を続ける総合スポーツ紙「体壇周報」を筆頭に、国家体育総局発行の「中国体育報」、速報性で定評のある「競報」、そして各人気スポーツに特化した専門紙が数え切れないほどある。
また、テレビは中国中央テレビ(CCTV)と地元の北京テレビが「オリンピックチャンネル」を設け、一日中、国内外の五輪関連のスポーツ中継、ニュースを発信し続けている。そしてラジオも中国国際放送、中国人民ラジオがそれぞれ24時間、五輪情報を流し続けているという具合だ。さらに、一般の総合紙に目を向けると、五輪を前に、スポーツ面もますます充実してきていて、見開きで2~4ページの特集が、毎日のように組まれている。
「ご想像の通り、中国は政治の領域における報道規制が非常に厳しく、思い通りの取材ができるような状況ではありません。だから、各メディアとも有能な記者は、スポーツ分野に集まっており、政治的な問題の鬱憤を晴らしているような雰囲気さえあるんです」(北京地元記者)
そして、報道される中身は、非常に“面白い”。あえて、“面白い”と書いた理由としては、それらが決して、純粋なスポーツ記事というわけではないからだ。もちろん、各競技の試合結果やデータ、分析なども豊富ではあるが、代表チームの内紛や芸能記事顔負けの刺激的でスキャンダラスな話題に、とりわけ視聴者や読者の注目が集まっている。日本のスポーツ記者なら、たとえ知っていても表沙汰にはできない“スポーツにまつわる裏事情”が、いとも簡単にセンセーショナルに取り扱われてしまうのである。中国人記者の取材のやり方も独特なもので、日本ではなかなかお目にかかることができないような映像や写真を目にすることがある。ワイドショーやスポーツ新聞などをはじめとする日本のメディアや報道陣も、かつては強引な取材方法が問題視されていた時代があったが、現在の中国メディアは、それ以上の過激さに達しているのだ。
たとえば、去年6月、ある体操女子の若手有力選手が、試合中に平行棒から落下して重傷を負い、寝たきり状態になってしまう、という痛ましい事故があった。すると、事故当日のニュースで、病院に記者が押し寄せ、ベッドに横たわる彼女に「今の気持ちは?」と突撃取材を敢行してしまうのだ。もう二度と競技ができないどころか、今後の日常生活さえままならなくなるかもしれない容態の彼女にコメントを求め、病院まで押しかけるという、きわめて無謀な取材方法をとっている。しかも、その映像が、全国放送のスポーツニュースで堂々と放映されてしまう有りさまだ。
また、少し前には、五輪女子サッカー代表チームの内紛が、メディアの格好のネタとなった。フランス人監督とチーム代表者との間でいざこざがあり、メディアが連日、互いの発言を面白おかしく書き立てたのだ。その後、フランス人監督に関して、「練習に遅刻した」「選手と口をきこうとしない」など、どこが発信源とも知れない怪しい情報・風説が見出しに躍り始めると、サッカーファンの激しい非難が監督に集中した。そのような醜聞が数多く記事となった結果、チーム作りの最も大切な時期に、代表監督が解雇される、という最悪の事態を招いた。
また有力選手たちは、競技場を出ても、宿舎や練習場でつかまれば質問攻めにあう。彼ら個人の携帯電話にも、ひっきりなしに記者からの電話がかかってくる。中国のスポーツメディアでは、選手個人の携帯電話番号を数多く保有している記者が有能であると評価されているため、各記者とも選手のコメント取りに躍起になっている。選手にしてみれば、四六時中監視されているようだし、なにげない、ちょっとした発言や行動が大きな話題となってしまうだけに、さぞかし気苦労も絶えないだろう。
「こういった取材方法が、どうして可能かといえば、中国ではメディアの権勢が強いから、という理由があります。特に国家が後ろ盾になっている中国中央テレビや新華社などの国営メディアの影響力は絶大で、取材を申し込まれたら、簡単には断れないんです」(前出・地元記者)
(朝倉浩之・文/後編へ続く/「サイゾー」8月号より)
「オリンピック 危険なウラ話」
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