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戦争が与える心の闇をえぐり出した人間ドラマ『告発のとき』

tommilee.jpg(c) 2006 Elah Finance V.O.F.

 今週公開の必見映画は『告発のとき』(6月28日公開)。『クラッシュ』でアカデミー賞作品賞を受賞したポール・ハギスの監督最新作だ。

 脚本家としてTVシリーズを中心に活躍してきたハギスは、長編映画の脚本デビュー作『ミリオンダラー・ベイビー』で第77回アカデミー賞脚色賞にノミネートされ、同作は作品賞・脚本賞を受賞。続けて監督デビュー作となった『クラッシュ』が第78回アカデミー賞作品賞受賞。『ミリオン~』に続いてクリント・イーストウッド監督と組んだ『硫黄島からの手紙』でも第79回アカデミー賞脚本賞にノミネートと、3年連続でアカデミー賞ノミネートないしは受賞というクオリティ保証はバッチリの監督・脚本家だ。


 しかし、最新監督・脚本作となる『告発のとき』は、今年の第80回アカデミー賞で作品賞や脚本賞にノミネートされることはなかった。唯一、主演のトミー・リー・ジョーンズが主演男優賞にノミネートされ、4年連続でハギスの携わった作品がアカデミー賞に絡んだ記録は継続されたわけなのだが。

 では、『告発のとき』は、それまでのハギス関連作品と比べてクオリティが低いのかといえば、決してそんなことはない。同作の物語は、イラク戦争に従軍していた息子が帰国後に失踪し、トミー・リー演じる父親ハンクがその足跡を追うところから始まる。しかし、息子の同僚兵士たちに聞き込みなどを続けるうちに、ハンクは思わぬ真相にたどり着く。この映画は、イラク戦争に従軍した兵士たちの心の闇と、それによって引き起こされる悲劇をえぐり出し、米国が正義の名の下に行っていたイラク戦争が、他ならぬ自国民である米軍兵士たちを闇に陥らせたという負の側面を浮き彫りにしているのだ。それゆえにアカデミー賞のようなアメリカの国民的イベントでは賞賛されにくかったのかも知れない。アカデミー会員は、基本的にコンサバな老人が多いのである。

 とはいえ、本作は決して米国の政策批判映画ではない。また、『告発のとき』という邦題からは、サスペンスフルな要素も想像させるが、この映画はそうした枠組みを超えた、父と息子の人間ドラマとして出色なのだ。常に息子に厳しくあり、模範的な父親であったはずと自覚していたハンクだが、事件の真相を知ったときに訪れる苦悶と悔恨を、決して多くを語ることはなく表現するトミー・リーの演技は絶品。缶コーヒー『BOSS』で見せるコミカルな一面しか知らない人には、是非トミー・リーの名優ぶりを確認してもらいたい。出番は少ないが母親役のスーザン・サランドンや、ハンクを助ける地元警察官を演じるシャーリーズ・セロンも、それぞれオスカー受賞者らしい落ち着きと重みのある演技で魅せてくれる。

 また、映画の原題(In the Valley of Elah)にもなっている“エラの谷”や“逆さの国旗”など、本編中に挟まれるちょっとした挿話がキャラクターの心情を代弁。台詞で全てを説明せず、かつそれ以上に人物の心情を雄弁に語らせるあたり、ハギスの脚本家としての腕前にうならされる。(eiga.com編集部)

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最終更新:2008/06/27 20:11
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