企業の子育て支援策に「効果は皆無」 むしろ悪影響?
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最近、企業で一大ブームとなっているのが、社員の子育て支援だ。最も目立っているのが社内託児所の開設で、例えば総合商社の三井物産は、東京・大手町の一等地にある本社に、「かるがもファミリー保育園」を今年4月に開設。金融業界でも、みずほフィナンシャルグループや新生銀行など名だたる大企業が社内託児所を作っている。ほかにも、社員に子どもが生まれるたびに数十万円規模の祝い金を支給する企業は近年増えており、子育て支援策は、大流行中ともいえるのだ。
企業によるこういった子育て支援策は、進展する少子化対策の一環として「前向きな話題」だと大手マスコミも積極的に取り上げている。だが、少子化問題に詳しい研究者は、「こういった対策は、少子化対策としてはほとんど意味がない。費用対効果を考えると、会社にとってはむしろ有害とすら言える」と批判する。
とりわけ、社内託児所の効果は最も疑問だと見られている。例えば、東京駅前に本社を持つ日本郵船が開設した社内託児所は、開設から数年たっても社員の利用が進んでいないという。それというのも、最もラッシュが激しい時間帯に都心に向かう電車に小さな子どもを乗せて通勤するというのがどだい無理な話であり、社内からは「私たちだって毎日死にそうなのに、幼い子どもを乗せたら本当に死んでしまう! ハイヤー通勤の役員はそんなことも知らないから、無駄な託児所を作ってしまったんでしょう」と批判の声もあったとのこと。前述の三井物産の託児所も、報道によると開設時の利用者が3人だったというから、その利用度の低さは共通した問題といえる。
「社内託児所が機能するのは、アメリカに多く見られるような、車で通勤する郊外型のオフィスで、都心に作っても、利用が進まずに無駄になるだけ。そもそも、社内託児所を作ったり出産祝い金を増額したりして、『よし、それなら一丁子どもをつくるか』などと考える人は少ない。最近の企業の子育て支援は、単なるイメージアップの道具になってしまっており、こんな制度で『出産する社員を増やせる』などというのは、ほとんどウソですね」(少子化問題研究者)
その上でこの研究者は、真に必要とされる企業の子育て支援策について、「育児休暇の延長や勤務時間の短縮制度など、時間面での対策に尽きる」と指摘する。こうして子育てのための時間を安定的に確保することが、出生率の向上にも肝要であり、実際、一部の企業ではすでに導入が積極化している。しかしある人事コンサルタントは、「仮にあったとしても、有給の対象にならなかったり、制限が多すぎて取りづらかったりするなど、十分な水準とは到底言えない」と指摘する。
企業が時間面での子育て支援に本腰を入れないのは、バブル崩壊後に進めたリストラや業務効率化の影響が大きい。休暇を取ったり短時間の勤務をした場合、その社員が抜けた穴に代替要員の配置が必要だが、リストラで余剰人員がない中では、そうもいかず、代わりに同じ職場の同僚がその穴埋めをしているのが現状。そのため組織内には、休暇などを「取りづらい」空気が蔓延しているのだ。
「企業は、合理化という観点から人員を拡充することなく、子育て支援をするために負うべき負担を社員にしわ寄せしている。子育て支援の陰には、多くの無駄や社員の苦労が潜んでいるのが現状だ」(人事コンサルタント)
「子育てに優しい」などという嘘が社員を疲弊させている事実に、企業はいつ向き合うのだろうか?
(千代田文矢/「サイゾー」6月号より)
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