ついにポルノ解禁 専門家が語る北朝鮮の現代エロ事情(前編)
#政治 #アダルト #海外
古今東西、「性的表現物」は社会の秩序を乱しかねないものとして、厳しく規制されてきた。だが、その規制のレベルは時代や国によって、まちまち。それでは、国際的にも“最も自由のない国”と思われている北朝鮮の場合はどうだろうか? 実は、ここ数年でエポックメイキングな出来事があったという。政府公認のポルノ小説が出版されたというのだ。果たして、その裏にあるものとは?
北朝鮮で、ポルノ小説が解禁されていた!? という仰天情報が飛び出した。同国では独裁体制のもと、厳しく国民生活が統制されているはず。ならば、性的表現に関する規制もなおさら厳しそうだが、この変化は何を意味するのか? 北朝鮮情勢に関しては国内随一の専門家である鈴木琢磨氏(毎日新聞編集委員)に話を聞いた。
「僕が2003年に入手した北朝鮮初の公認ポルノ小説は、『黄真伊(ファン・ジニ)』(02年発行)という伝記です。北朝鮮では濡れ場が描かれる一口話を集めたものを『肉談集』と呼び、地下社会で流通していました。でもそれは、ちょっとした一口話の域を出なかった。『黄真伊』は本格的な長編小説の形式を取っている。われわれから見ればモノ足りませんが、レッキとしたポルノ小説。しかも、政府公認なんです」
同作の舞台は16世紀の朝鮮王朝時代。高麗の古都・開城(ケソン)出身のキーセン(芸妓)が重要な役回りを演じる。キーセンとは、宮廷に仕えていた女性のこと。華やかな衣装をまとい、宮廷内で酒宴の接待などに従事する。作品名でもある「黄真伊」は、大変な美人といわれたキーセンの名前だ。
作者である北朝鮮の作家・洪錫中(ホン・ソクジュン)は、『林巨正(リン・コクチョン)』という大河歴史小説を書いた、韓国人なら誰でも知っている作家・洪命熹(ホン・ミョンヒ)の孫に当たる人物。
「『あの洪命熹の孫が、ポルノ小説を書いたのか』ということで、『黄真伊』出版直後から韓国の文壇では大変な話題になりました。韓国の文芸評論家は、『エロティシズムが初めて北で解禁された画期的な小説だ』などと大変な衝撃を受けています。『黄真伊』は500ページ以上ある長編でして、よくできた小説です。裕福な人民であれば自分で買うこともできるし、図書館に入ったものや誰かが手に入れたものを、大勢で回し読みしているのでしょうね。書き写しているかもしれません」
では、くだんのポルノ小説の中身は、どこまで過激な内容なのだろうか。パラパラめくってみると、目に入るカラーの挿絵に驚く。小説にカラーの挿絵が入るなど、日本でも珍しい。
「キーセンである黄真伊が、学者の徐敬徳(ソ・ギョンドク)のもとを訪ねるシーンがあります。女は色仕掛けを使って、真面目な学者のおっさんを『ちょっとどう?』と誘惑する。おっさんは我慢できなくて、たまらんわけですわ(笑)。挿絵には、おっさんの近くで、おっぱいをちらっと見せている女の絵が描かれています。女はおっさんの手を取って自分のおっぱいを触らせる。おっさんは、たまらずもみ始める。裸の画像や映像が解禁されていない北朝鮮においては、こういう描写でさえ画期的。しかも挿絵はカラー。北朝鮮の人たちは、これだけで十分興奮できるでしょう」
それしきのポルノ小説で、何が満足なのかという意見もあるとは思うが、日本にだって、つい数十年前まではエロ本やAVなどろくになかった。しかも、活字においても厳しい規制が敷かれていた。
作家・伊藤整がイギリス文学『チャタレイ夫人の恋人』を邦訳したために「猥褻物頒布罪」に問われたのは50年のこと。やがて、若者は「平凡パンチ」(64年創刊)に載るセクシーグラビアに狂奔し、永井荷風の発禁官能小説『四畳半襖の下張』が雑誌に再録されれば(72年)、「猥褻文書販売罪」で大騒ぎになったわけだ。北朝鮮と日本の“ポルノ格差”は、せいぜい数十年から半世紀程度の差でしかないともいえる。
(荒井香織/後編へ続く)
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