笹公人(歌人)×ASUKA(歌手) “宇宙”を詠む
#音楽 #映画
角川春樹氏に見出され、映画『神様のパズル』の主題歌を歌う新人アーティストASUKAは、「魂の一行詩」を創作する俳人でもあるという。そんな彼女と、本誌好評連載だった『念力画報』の歌人・笹公人が、映画同様、「宇宙」をテーマに短歌、一行詩を創作。そこから導き出された“古典芸能の新世界”とは――。
テーマ『宇宙』
ASUKA
○銀漢の果てに未だ見ぬ海がある
○十六夜の夜空を駆けるもののこえ(旧字体)
○サボテンの花や寂しき星にい(旧字体)る笹公人
○ランニングシャツの親父が中華鍋死ぬほど叩く宇宙通信
○金星の王女我が家を訪れてYMOを好んで聴けり宇宙俳句
○銀河寒しお前の前世村人A
ASUKA(以下、A) 私は2年前まで企業の受付をしていたんですが、その頃は俳句なんて学校で習ったくらいで、正直なところ興味がなかったんです。でも、淡々とした日々に嫌気が差していたとき、角川春樹さんの句集『檻』(角川春樹事務所)に出会って、ものすごいインパクトを感じ、「言葉の世界に足を踏み入れたい」という衝動がわき上がってきました。当時、角川さんは尾道大学で客員教授をしていたんですが、私はすぐに有休を取って、聴講生として通うことにしたんです。
笹 公人(以下、笹) ということは、俳人としての角川春樹さんしか知らなかったんですか?
A そうなんです(苦笑)。映画プロデューサーとしての顔は知らなかったんです。その後、「映画も見たほうがいいですか?」と角川さんに聞いたんですが、「別に見なくていいよ」と言われまして。今は、とりあえず監督をされた映画は見ましたが。
笹 『時をかける少女』や「尾道三部作」を知らずに尾道に行ったというのはスゴイ。確かに、角川さんは映画だけではなく、俳人としても有名ですよね。俳壇で高い評価を得ながらも、保守的になるどころか、「魂の一行詩宣言」で現在の俳壇を否定されました。角川さん健在といった感じで僕はうれしかったですね。
A 「魂の一行詩」は、良い俳句はすぐれた一行詩でもあるという考え方がベースなんです。たとえ季語がなくても一行詩として成立する、ということですね。
笹 季語がないと川柳にされちゃう傾向があるけど、季語がなくても良い俳句というものはたくさんあると思う。「魂の一行詩」はそのへんの矛盾を取り払いましたね。俳句も短歌もイマジネーションが大切だと思うのですが、僕の場合、その根本に「念力」があると考えています(笑)。「一念岩をも通す」という感じでイメージを明確にするということは念力の分野じゃないかな、と。それで、「ランニングシャツの~」の歌では、身近にある道具でも、たとえば中華鍋でも、念さえ強ければ宇宙通信の道具になるんじゃないか、というメッセージをこめて詠みました。
A イマジネーションということであれば、私は「銀漢の果てに~」でしょうか。「銀漢」は銀河のことなんですが、その先に、いまだ自分たちが知らない、到達していない、まだ見ぬ海があるんじゃないのかと思って詠みました。その海が、場所なのか、心の中にある世界なのか、それは読む人たちに自由に感じ取ってもらいたい。私自身は、銀河の先に、海のような広い世界があるのではないかと単純に思ったんですね。
笹 それは壮大な話ですね。銀河を流れていった先にはもうひとつ別の宇宙があるんじゃないか、という風にも読める。そういえば「もうひとつの宇宙」といえば、ASUKAさんが主題歌を歌う映画『神様のパズル』もそんなお話でしたね。
A そうですね。ある大学で、ものすごい天才少女とニセの男子大学生が、ひょんなことから「宇宙は人間に作れるのか?」という命題に挑むことになるんです。少女は天才であるがゆえに大きな孤独にさいなまれています。片や、男子大学生は物理の知識がまったくありません。でも、お互いが持っていないものを補いつつ、物語が展開していきます。
笹 主題歌も大御所が絡んでいて豪華ですね。
A 作詞を手がけているのは松本隆さん。原作をもとに作られているので、松本さんの紡いでくれた言葉と映画の世界が、絶妙につながっているんです。映画を見たときに、耳で聞いても楽しんでいただけると思いますよ。
(丸山大次郎/「サイゾー」6月号より)
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ささ・きみひと
1975年7月8日、東京都生まれ。17歳の頃、寺山修司の短歌を読んだことがきっかけで作歌を始める。
99年、未来短歌会に入会、岡井隆氏に師事。04年、未来年間賞を受賞。
あすか
1982年9月13日、東京都生まれ。短大卒業後、一般企業に就職するも、23歳の時、角川春樹氏と出会い、歌手としての道を歩み始める。
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