一流選手を金で買う大企業 虚飾のスポーツブランド戦争(前編)
#スポーツ #企業
今夏の北京五輪を前に、スポーツ界に激震が走っている。日本水泳連盟はミズノ、デサント、アシックスと2012年までのサプライヤー契約を交わし、その体制で北京五輪に臨むつもりでいた。しかし競泳日本代表の現場などから「世界新記録を多数出し、着用テストで日本代表選手が0・5秒もタイムを短縮できた英スピード社の新作水着“レーザーレーサー”を着用できないのはいかがなものか」という声が上がり、契約を見直す動きが活発化しているのだ。「スピード社の水着着用が可能となっても違約金は発生しない」とのことだが、いずれにせよ、ミズノにとっては商売あがったり、である。逆にミズノらとの契約があるからスピードを着用しないとなれば、それはそれで「談合を優先して、戦う前から勝負を捨てるのか」という批判を日本水連は浴びかねない。
上質のエンタテインメントに大金が動くのは当然で、それを拝金主義と批判するほどカマトトぶる人間もそうはいないだろう。だがそもそも、スポーツ界においてメーカーが、これほど力を持ち、契約の網を張り巡らせるに至ったのはなぜだろうか?
それまで古典的だった商品の告知手段が変化したのは、電送写真の発達によって地球の裏側で起きている出来事を即座に鮮明な写真で知ることができるようになったときからと言われている。スポーツの現場を写す新聞報道を利用した大量広告宣伝の始まりである。契機となったのは、1956年のメルボルン五輪だ。
アディダス創始者の息子、ホルスト・ダスラーが自社シューズ「メルボルン」をアスリートたちに無料提供すると、それらを履いた選手たちがレースをフィニッシュした瞬間の写真には、スリーストライプのロゴが写し出されていた。トップアスリートへの憧れを刺激し、一般の人々に商品を買わせる“プル・マーケティング戦略(広告や宣伝を効果的に活用することにより、消費者に働きかける戦略)”がスポーツ界でも本格化したのである。
メーカー同士の争いは、機能性からイメージ戦略へ
「もともとは、アディダスのブランディングは競技性を強調するものだった」と、長年、電通でスポーツイベントをプロデュースしてきた広瀬一郎氏(現・スポーツ総合研究所株式会社所長)は言う。いかにスポーツ用品メーカーが鮮烈な写真や映像を大量にばらまく手法を採っていたとはいえ、根本には、機能面を重視した商品開発があり、職人が自負する高い品質を保証したうえでの広告合戦だった。
しかしこの傾向を一変させたのが「ファッション性を強調した」(広瀬氏)ナイキである。広瀬氏はNBAバスケットボールの事例を取り上げてこう語った。
「90年代初頭のことですが、スポーツメーカーによる、バスケ選手のシャキール・オニールをめぐる争奪戦がありました。彼は“ナイキにオレのカッコイイ広告を作ってほしいな”と言ったんです。でも結局、シャキール・オニールの傲慢な態度にナイキ側から手を引いたみたいです」
ただ、競技性を追求したスポーツ用品の次の展開が、“カッコイイ”イメージであることをいち早く見抜いたナイキは、勝負の軸をファッションに変えてしまう。
そこから、イメージ戦略のための莫大な契約料が飛び交い、選手の囲い込みや引き抜き合戦が激化していく。近年のサッカー界に限っても、ナイキが中田英寿なら、アディダスは中村俊輔。ナイキがブラジル代表と韓国代表なら、アディダスはアルゼンチン代表と日本代表などと、常に同じレベルで張り合ってきた。もう、この状況はチキン・ランと言ってよいのかもしれない。今年、ナイキは、アディダスと契約していたJリーグの横浜F・マリノスを8年間30億円の契約金で奪い取った。アディダスはアディダスで、中村俊輔と生涯契約を結んだ。引退後でさえ、年間5000万円もの額が中村の懐に入ってくるのだ。“仁義なき戦い”は行き着くところまで来てしまったのかもしれない。
(後藤勝/後編へ続く)
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