ここでもアメリカ追従か! 新入管政策の危険な事情
#海外 #経済
海外から入国する外国人の指紋や顔写真を採取する新入国管理政策が導入されてから、5カ月がたとうとしている。読者にとっても「外国人が相手だから、自分には関係ないね」と言っていられない現実を報告しよう。
新政策は、2004年、米国で対テロ名目で導入された入国管理政策「US-VISIT」に倣い、入国審査時に採取した個人識別情報を、テロリストや指名手配者、退去強制経験者の摘発に活用するもので、推定で年間700万人以上の来日外国人が対象になる。
制度の導入に当たっては、第一に、人権の面から疑問視する声が上がった。外国人を対象とする管理強化は外国人差別を招くのではないか、指紋を採取するのはプライバシー侵害に当たるのではないか、とする声だ。アムネスティ・インターナショナル日本などの人権NGOは、先行する「US-VISIT」の問題点を米国人自身に指摘してもらうキャンペーンを行った。
NGOの招聘で来日した米自由人権協会の弁護士・バリー・スタインハード氏は、テロと無関係な人物の入国拒否が起きていると例を挙げ、「米国は自分の国ですらできないことを、他国に押し付けている」と警告した。実際、「US-VISIT」は、政府自身が政策評価を行う政府説明責任局から、「コスト、利益、リスクの面で正当化できない」との評価を受けている。
指紋により生体情報を採取(提供:共同通信)
しかし、入国の際に個人識別情報を採取する流れは世界的に広がっていて、英国では昨年11月からビザ申請者に、EU全体でも、域外からの渡航者に指紋提出を義務づけると発表している。つまり今後は、日本人も国外に出れば、指紋を採取される時代となる可能性が高い。そうした情報は互いの政府当局が参照し合うので、実質的には自国の当局が個人識別情報を把握する監視社会化が進んでいることになる。
また第二に、セキュリティ利権と呼ぶべき、利権の新たな動きが登場していることも注目に値する。
過去、日本の省庁のコンピュータシステムは、ベンダー(製造供給元)と呼ばれる国内IT企業による、レガシーシステムという閉鎖系ネットワークシステムを採用してきた。国内ベンダーは、ごく最近まで40年前の「政府関連システムは国産機を利用する」という閣議決定を根拠に、省庁のコンピュータシステムを独占的に受注できたのだ。たとえば入管システムは84年以来、長らく日立製作所が独占的に受注を続けてきた。近年、こうしたシステムの高コスト体質に気づいた政府は、システム運用が他企業でも代替可能なオープンシステムへの改革を進めている。
そうした中、一昨年、新入管政策をめぐる国会での審議中、議論に登場したのが、アクセンチュアという外資系コンサルティング企業だ。同社は「US-VISIT」の運営実績を持ち、日本でも入管システムの刷新可能性調査など、各省庁の数々の情報システムを受注。05年9月には、わずか10万円で、法務省の指紋・顔写真データを用いる実証実験・施工運用を落札したことが物議を醸した。かつて省庁のシステム入札で、富士通などが採算を度外視して、1円で落札をしてまで実績をつくり、以後の受注を有利にしようとしたのと同じことが、外資系企業によって繰り返されたのだ。また、重要な個人情報の扱いを、外資系企業に委ねることの是非も、話題となった。
入管業務は平成21年度にシステムのオープン化を図る予定で、今年2月、それをにらんでの業務・システム最適化案件の入札が実施され、アクセンチュアはシステム設計の根幹に関わる「要件定義」という業務を落札している。
省庁のIT予算が、外資系企業の参入で節約されること自体は喜ばしい。しかし妥当性を欠く低価格入札を許していると、気がついたら国家の重要システムが外資系民間企業に占拠されているといった状態になりかねない。
新入管政策は、人権の面だけではなく、セキュリティ利権の動向という面からも検証が欠かせない。多くの日本人にとって、当面、縁のなさそうな対テロ政策であっても、そこでいったい何が起きているのか、しっかりと“監視”したほうがよさそうだ。
(岡崎智)
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