トヨタ本著者が語る トヨタ批判本に共通する問題点
#企業
【推薦人】 井上久男(著者)
──最近、『トヨタの正体』、『トヨタの闇』など、トヨタの経営実態や就労体制を厳しく批判する本が相次いで出版されています。
井上 現在のトヨタが、拡大と隆盛の一方でさまざまな問題を抱えているのは事実です。予想以上に事業が拡大したからこそ、長時間労働の問題が出てくるし、人材不足で期間工も増える。しかし、誤解を恐れずに言えば、そもそも企業とは、さまざまな矛盾を抱えた存在です。それをひとつずつ解決していかなければ、企業として長生きはできません。産業記者としてあまたの企業取材を行った私が見ても、トヨタの経営陣は自身が抱える問題を認識し、解決への努力をしており、その点ではひたむきな企業だともいえます。
──トヨタの批判本には、「同社のひたむきな姿勢を評価する視点がない」というわけでしょうか?
井上 トヨタに不満のある人が読めば胸がスカッとするが、そこから学び取ることは少ない。『トヨタの闇』については、ほかの批判本に比べて取材量が多く評価できますが、『トヨタの正体』の前編などは、綿密な取材がなされたとは思えません。労災や過労死で亡くなった従業員がいるのは事実だし、それはとても気の毒なことです。「トヨタの体質が生んだ悲劇だ」と言われれば確かにそうかもしれませんが、トヨタの生産現場では「班長制」が復活し、管理スパンを少人数にすることで、社内コミュニケーションをよくして、現場のさまざまな課題を早期発見しようという動きもあります。トヨタを批判する本には、問題をどう解決すべきかという視点が欠けているものが多いと思います。
──批判本の多くでは、過酷なコストカットを要求するといった「下請けいじめ」も、大きなテーマとなっています。
井上 では、なぜ下請け会社はトヨタと付き合うのでしょうか? 簡単に言うと、儲かるからです。たとえばトヨタは10%のコストカットを成し遂げた下請け会社に対し、5%分の利益を還元するなどして報いています。また、本当に従業員や下請け会社をいじめていたら、互いの関係は長続きしないし、「謀反」も起きると思いませんか? 大企業憎しの感情が優先しすぎているのではないかと思いますね。
──『トヨタの正体』では、多額の広告費によってマスコミのトヨタ批判が封じ込められている、との指摘も出ています。
井上 確かにそうした面はあると思います。ただそれは、トヨタではなく広告代理店が意図してやっている部分がある。ある雑誌でトヨタ批判が相次いだときに、それまで誌面に入っていたトヨタの広告が消えました。編集者に「トヨタに止められたのか?」と訊いたら、「トヨタではなく、代理店が配慮して止めた」と答えました。巨額の広告費を出しているトヨタを、代理店が慮ることが多いのです。
──なるほど。では、数多くのトヨタ批判本に共通する問題点とは何でしょうか?
井上 「働くことの意味や喜びを、よくわかっていない」という印象を受けます。従業員を褒めて、楽をさせて、給料をたくさん与えることが、必ずしも優しさではありません。本にも書きましたが、一見、厳しいように見えても、その人が持つ能力を最大限に引き出すことこそが本当の優しさです。トヨタは、その点にかなり力を入れている企業だと思います。以上のことは(批判本の著者との)価値観の違いだとも言えますが、密着取材をしないと見えてこない部分かもしれませんね。
『トヨタ愚直なる人づくり』
社内ネットワークからマネジメント教育、人事制度まで、元朝日新聞経済部記者(元豊田支局員)が、渡辺捷昭社長をはじめ、トヨタ関係者50人以上に徹底取材。トヨタの“本当の強さ”を明らかにする。社内ネットワークからマネジメント教育、人事制度まで、元朝日新聞経済部記者(元豊田支局員)が、渡辺捷昭社長をはじめ、トヨタ関係者50人以上に徹底取材。トヨタの“本当の強さ”を明らかにする。井上久男 著/07年9月発行/ダイヤモンド社/1680円(税込)
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