ゴミだらけでも大丈夫!? 富士山の世界遺産登録をめぐる諸問題
#海外 #環境 #カルチャー
古来より崇拝の対象となり、文学・美術のモチーフとしても親しまれ続ける、日本の象徴・富士山。登山者数は年間20万人以上、海外での知名度も抜群で、「将来、世界遺産に登録したいと思う場所」第1位にも挙げられる(朝日新聞2006年10月7日付)。日本が世界遺産条約を批准し、暫定リストの作成を始めたのは92年のこと。当然その直後から登録運動が展開されており、海外からの旅行者など、事情を知らない者の目には、なぜ未登録なのか不思議に映るだろう。
世界遺産登録に臨んで、富士山ほど紆余曲折を経験した案件はない。92年から03年まで、富士山は、「自然遺産」としての登録を目指し続けた。運動は盛り上がりを見せ、登録も近いと思われたが、ゴミやし尿で汚し尽くされた山肌やリゾート開発の進んだ裾野の環境・景観問題等により、03年、国の候補地検討会は推薦を見送り、事実上、自然遺産としての登録の道は断たれた。これを受け、05年、
静岡・山梨両県および富士山関係市町村により、「富士山世界文化遺産登録推進両県合同会議」が発足。また同年、中曽根康弘元首相らが発起人となり、「富士山を世界遺産にする国民会議(富士山会議)」も設立され、自然遺産から文化遺産へくら替えしての、新たな運動の開始に至ったのである。
解説を加えると、世界遺産には、自然遺産・文化遺産・複合遺産(前二者を兼ね備えたもの)という、3つのカテゴリーが存在し、日本においては管轄省庁も異なる(主に自然遺産は環境省・林野庁、文化遺産は文化庁)。文化遺産の定義は、「優れて普遍的な価値を有する、歴史・芸術・研究上重要な建造物や遺跡など」。つまり富士山は、その文化的側面に活路を見いだしたわけだ。制度上の観点からも、文化遺産は、自然遺産に比べて独自性をアピールしやすく、実際、登録件数も圧倒的に多い(文化遺産660件、自然遺産166件、複合遺産25件)。
山梨県企画部世界遺産推進課は、取材に対し、富士山を文化遺産として登録する意義について、「日本の象徴・富士山に、世界文化遺産という冠をかけ、素晴らしい自然環境や、富士山にまつわる伝統・文化を後世に継承していくことには、大きな意義があります。富士山と共に暮らしてきた地域住民・県民・日本国民に、郷土や祖国への誇りや自信、愛着をもたらし、地域活性化の原動力にもなると考えています」と述べ、地元関係者や行政の取り組み、各種ボランティアの協力により、ゴミの量も減少している、と説明する。
しかし、課題も多い。富士五湖を含めた登録であるため、富士河口湖町の観光業者から、釣り船や貸しボート、建築物への規制が強化されるのでは、と懸念する声が上がっているのもそのひとつだ。これに対し同課は、「富士山周辺の山梨県側は、すでに自然公園法により環境保全の仕組みが整えられていますから、新たな規制を設けたり、現行の規制を強化する必要はありません」とコメントし、住民説明会も行っているが、不安は完全に解消されたわけではない。前出の古田氏も、「富士山の世界遺産登録実現を願っていますが、地元の理解や同意を得られるかが大きな課題です。また、開発されすぎて真正性や完全性が損なわれている、という見方もあり、予断を許さない状況です」と分析している。
昨年1月、ようやく暫定リスト掲載までこぎ着け、2010年の登録を目指す富士山。苦難の道はまだまだ続きそうだ。
(松島拡/「サイゾー」3月号より)
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