国会議員を捕り逃し続ける 東京地検特捜部の傲慢と怠慢【後編】
#政治 #座談会
政官財界に睨みを利かせる、国内最強の捜査機関「東京地検特捜部」。農林利権問題から、防衛省疑惑まで、今年も重大ニュースは、この組織の動きを軸に生まれ、そして、消えていった。そんな彼らが手がけた事件の裏側を、現場に張り付いてきた記者たちが赤裸々に語った。
[出席者]
A……全国紙社会部デスク
B……司法クラブ記者
C……週刊誌事件記者
議員を逮捕したい特捜部長の野望と焦り
C それにしても、こんな自殺続きの捜査ってありかい?
A 10年以上前、当時の大蔵省汚職を調べていたとき、新井将敬衆院議員をはじめ、大蔵官僚や銀行首脳が月に1人くらいの頻度で自殺したけど、あれ以来じゃないかな。
B 若年齢化した特捜検事たちは、最初から決めつけた取り調べをしたがりますからね。そうした強引な対応が、被疑者を追い詰めているのかもしれません。今回の守屋逮捕に至る内偵捜査では、検事側があらかじめ守屋の口利き疑惑をいくつか用意し、関係者の取り調べで無理やり供述を迫ったケースもあったようです。
A 特捜部長の焦りもある。松岡が自殺した直後、八木は歴代の部長経験者に「悔しい」とこぼしていた。特捜部長にとって、「任期中に政治家を1人は逮捕する」はノルマだからね。
C でも、検事総長の但木敬一は政界ベッタリだから、八木を取り巻く捜査環境は悪すぎる。
B 但木さんは、そのすぐ下のポストにいる最高検次長検事の笠間治雄が元特捜部長だからと信頼し、事件の判断を委ねているといいますから、きっと1人くらい逮捕しますよ(笑)
A 要は現場の調べ次第、ということだね。
企業捜査の鍵をにぎる 新生・監視委員会
A 企業犯罪に目を向けてみようか。06年にはライブドア、村上ファンドという2つの新興企業が摘発された。
B 07年はそういった「ハゲタカ」ではなく、証券取引等監視委員会による仕手筋の摘発が相次ぎました。旧南野建設株で暗躍した西田晴夫、大盛工業株事件の大場武生。
C 西田は、あらゆる株価操縦事件で登場してきた、関西仕手筋のドン。一方の大場は、政界疑獄にも通じる人物だった。
B そうです。大場は株価を上げるため、大盛グループ内でIP携帯電話事業をもくろみ、発表しているんですが、真剣に事業化を目指した時期があり、許認可を握る大物郵政族に口利きを依頼した疑いがありました。
A そして、その議員に1000万円以上のワイロが渡ったとささやかれたね。でも大場逮捕でおしまい。政界ルートに突き進むには特捜部内の政界捜査チーム「直告班」に移さないといけないんだけど、防衛省の捜査で、それどころじゃなくなった。
C それよりも注目すべきなのは、7月に行われた監視委の委員長交代だよ。新任の佐渡賢一は特捜部出身で、政界と暴力団との癒着を暴いた東京佐川急便事件をえぐり出し、自民党を分裂に導いた人物。委員長着任3カ月目にして西田たち仕手筋2人を逮捕したスゴ腕だよ。
B 西田も大場も暴力団に通じていて、アングラ資金を運用することで知られた仕手筋。大場のバックには、山口組内のトップ組織が持つ豊富な資金の運用を任された大物が控えているといいます。
A 監視委が検察や警察と組んで、証券市場に流れるアングラマネーの掃討を狙っているのは間違いないね。佐渡は監視委の捜査態勢改革も目指していて、特捜検事や警視庁の組織暴力担当刑事までも引き込んだ、大がかりな捜査チームづくりを考えているようだ。
C それは当然だよ。介護報酬不正請求事件を起こしたコムスンを傘下に置くグッドウィルにはインサイダー疑惑がくすぶっているのに、手づかずのまま。冷凍うどんの加ト吉は巨額の資金流出と粉飾決算が表面化したのに、地元の香川県警単独の捜査になってしまった。監視委の力を使わないと、全容解明なんてできやしないよ。
B 電通も登場するサイバーエージェント関連株の疑惑は、監視委による告発目前までいったのに頓挫しましたしね。ウエディング事業を展開するテイクアンドギヴ・ニーズは、関係者が特捜部に呼ばれたため、 週刊誌上で「インサイダーか?」と一時大騒ぎになりましたが、すっかり沙汰やみになりました。
A 時効の壁もあるせいなんだが、それにしても監視委が積み残した事件は数多い。来年は、佐渡監視委の手腕に期待大だね。総選挙が終わったあと、一波乱、二波乱ありそうだ。
(「サイゾー」1月号より)
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