“墓場まで持って行く”はずの政治家の話
#政治 #事件
(推薦人・有馬晴美氏談)
私は多くの議員や記者たちと意見交換したり、全国を回って選挙の取材をしたり、地元の有力議員に話を聞いたりするんだけど、ひとりでは情報収集に限界があります。そんな時、「本」が情報を補完してくれるんです。特に政治関連の本だと、当事者の生の証言がつづられた物はとても貴重。そういう意味で今年、僕がいちばん感銘を受けた政治関連の書籍は『反転ー闇社会の守護神と呼ばれて』(幻冬舎)。
本書は、古参の議員から「有馬チャン、評論家ならばこれは絶対に読むべきだよ」って勧められたもの。著者の田中森一氏は元検事で、退職後、弁護士に転職。本書は田中氏の弁護活動の一部始終を収めたものですが、政治の世界では「墓場まで持って行く話」というのがあります。その話が『反転』には克明に書かれているんです。たとえば平和相互銀行(1986年・不正融資事件)では、竹下登元首相をはじめ周辺の関係者を実名で暴露。また安倍晋太郎元外相と暴力団関係者との接点を指摘するなど、大物政治家の内幕を回想しています。そして90年代に入って地方では公共事業が増加するのですが、その象徴が長野オリンピックだった。もちろん彼の弁護活動で社会的に評価できないものもありますが、ここまで告白するとはスゴイと思いますね。80年代当時、僕はまだ30歳かそこらで、政界の舞台裏で、一体何が起こっているかを把握できなかった。でも本書によってバブル期の混沌や闇が紐解けて、現在までに至るニューリーダーの素顔や、政財界のカラクリが理解できたんです。
それと、個人的な思いですが、僕は長崎の佐世保市出身で、著者の田中氏は平戸の出身。同郷の彼が、貧困や夜学通いという苦境を乗り越えて、バブルの紳士たちと交遊していった生きざまや人生観が垣間見えて、自分の生き方を問い直しましたね。
(構成・三品 純、写真・田附愛美/「サイゾー」12月号より)
ありま・はるみ
1958年生まれ。政治評論家。リクルート勤務、国会議員秘書などを経て、政治評論家に。ポスト小泉をめぐる「麻垣康三」という言葉の発案者でもある。近著に『永田町Newパワーランキング100』(薫風社)がある。
『反転ー闇社会の守護神と呼ばれて』
田中森一/幻冬舎/1785円 07年6月発売
1943年、長崎県平戸の漁村に生まれ、苦学した後、大学在学中、司法試験に合格──。検事となり大阪・東京地検特捜部で活躍するも「平和相互銀行不正融資事件」や「三菱重工CB事件」などの事件をめぐって、上層部と対立し、辞職。弁護士に転向した著者の半生と、安倍晋太郎、竹下登、許永中ら、時代を象徴するキーマンたちとの交流を描いたノンフィクション。
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