出版不況なんてどこ吹く風? 新書バブルに便乗する有名人
#本 #出版
節操のなさは、さすがエリカ様の彼氏?
2003年に発売された『バカの壁』(養老孟司/新潮新書)が、400万部を超える記録的なベストセラーとなったのをきっかけに、朝日出版や幻冬舎、ソフトバンクなど、新書業界に新規参入する出版社が後を絶たない。昨年は上位30冊の内、11冊が新書で占められ、まさに新書バブルといえる状況となっている。出版不況が叫ばれる昨今では、ベストセラーの多い新書に、出版社が期待をかけるのは、無理もない話。
肝心の中身は……? ツッコミどころが満載!?
そもそもは学術書や実用書など、アカデミックな色彩がの強かった新書だが、今ではエッセイや趣味本などが多数出版され、ここ数年で新書業界は大きく様変わりしている。このブームに乗り遅れまいと、文化人やタレントが続々と新書を出版。中には、「いつの間に作家になったの?」とツッコミたくなるような人もちらほら。
自称ハイパーメディアクリエイターの高城剛は、ちゃっかり新書ブームに乗った文化人のひとり。昨年から今年にかけて、『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社新書)、『「ひきこもり国家」日本』の2冊を出版。総務省情報通信審議会や、沖縄への観光誘致など、政府主導のプロジェクトにかかわり、われわれの血税を懐に納めておきながら、『ひきこもり国家』の中では「日本という国は、詰まるところ世界的な格差社会の〝負け国〟になる」と、上段からバッサリ切り捨てている。この節操のなさがなければ沢尻エリカの彼氏はつとまらないということか。また、日本が国家破産する可能性を語り、「0・1%の超金持ちと99・9%の下層民という格差が決定」など勝ち組ぶりが鼻につく発言が多い。
放送作家のテリー伊藤は、養老孟司との対談集『日本人の正体』を出版。本の中で、「日本人は自己評価が低い」、世のオバサンを見習って「自分を全肯定する」ことを推奨している。内容うんぬんよりも、いち早く『バカの壁』出版直後の養老孟司と対談を組んで人気便乗しているあたりが、いかにもテリー伊藤的。
作詞家や作家などマルチに活躍する秋元康は、『おじさん通信簿』で世のおじさんたちに「強気で口説けば恐いものなどない」「他愛もない見栄がクラブでの会話上手に」など、秋元康本人でなければ通用しなさそうなアドバイス。
ワイドショーにも登場する、精神科医で帝塚山学院大学教授の香山リカは、今年だけでも3冊の新書を出版。その中の『なぜ日本人は劣化したか』では、「仲間や敵の心情までを想像しなければ謎が解けないRPG(ロールプレイングゲーム)」の人気衰退は、相手の気持ちに立てない人の増加が関係している」、と書かれている。ゲーム好きを公言している香山リカらしいが、やや強引では? ほかにも、本の中では、「新聞離れ」や「モラルの低下」などが〝劣化〟している証拠としてあげられ、取り憑かれたかのように「劣化」を連呼。あとがきにも「私が完全に『劣化』してしまう前にこの本が書けて良かった」と綴っている。単行本も含め、この1年間で10冊の本を出版する多忙ぶり。これだけ書きまくればどんな人でも劣化しますって。
芸人・タレント本が売れるワケ
アナウンサー梶原しげるの『口のきき方』(新潮新書)が、10万部を超え、島田紳助の『ご飯を大盛りにするオバチャンの店は必ず繁盛する』(幻冬舎)や、南海キャンディーズ・山里亮太の『天才になりたい』、高田純次の『適当論』(ソフトバンク新書)など、新書とはあまり縁のなかった芸人やタレントの本がヒットしたことについて、新書編集者はこう語る。
「すべてとは言いませんが、タレントや有名人の新書はほとんどが聞き書きなので、書き下ろしの書籍に比べると時間がかからないというメリットがあります。2〜3度取材すれば書けてしまうこともあり、芸能人を口説きやすいんです」
さらに、表紙のデザインや本文のレイアウトがあらかじめ決まっている新書は、デザイン料などのコストも低く抑えられる。タレントのネームバリューが、本の宣伝にもなるので、リスクが少なく、それでいて当たれば大きい。出版社にとっては、やはり魅力的な商品のようだ。しかし、都内の大型書店に勤める店員は、新書業界の現状をこう語る。
「確かに新書はよく売れるのですが、近頃は供給過多に陥っています。極端に売れるものと、まったく売れないものの差が激しく、今年に入ってからは、やや下火気味になっていると思います。このブームがいつまでも続くとは、考えにくいですね」
このように、現場では新書の置かれた現状を危惧する声も聞こえてくる。新書バブルがはじけるか、このまま売れ続けるのか、出版社にとってはこれからが正念場だ。
(寺田スグル/「サイゾー」12月号より)
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