メディア規制強化の布石! 『僕はパパを~』事件の狙い
#事件 #マスコミ #ジャーナリズム
最高裁側の主張にマスコミが猛反発した
司法当局がいま、猛烈なメディア規制に乗り出している。フリージャーナリスト・草薙厚子氏が書いた『僕はパパを殺すことに決めた』が、その格好の餌食となり、草薙氏に供述調書を見せたとされる鑑定医の崎浜盛三医師が逮捕されたことは記憶に新しい。
ネタ元にも口封じ?
「われわれ記者は、常日頃から刑事や検察官、そして鑑定医から〝殺し〟の情報を集めている。こちらが食い込んだネタ元なら、調書だって見せてくれる。それを犯罪だといわれたらネタ元は委縮してしまうし、事件の真相をすっぱ抜くことはできなくなってしまう」(全国紙・社会部デスク)
2006年6月、奈良県の医師宅が放火され、妻子3人が亡くなり、高校1年の長男が逮捕されたこの事件は、全国に衝撃を与えた。
「長男について、奈良家裁から精神鑑定を頼まれた崎浜医師は昨年8月、親しい京都大学教授の紹介を受けて草薙氏と出会った。10月には自宅やホテルで調書を見せたり、鑑定書のコピーも渡している。自宅の合鍵を草薙氏に渡していたという話まで飛び出し、スキャンダラスな展開になりつつもある。これではまるで、72年に沖縄返還協定の密約をすっぱ抜いた毎日新聞の西山太吉記者の手柄をおとしめるため、情報源の外務省女性職員と“情を通じて”情報を入手したことを起訴状に盛り込み、『報道の自由の侵害』という論点をかき消した東京地検と同じ手口ではないか」と、前出のデスクは憤る。
ここで押さえておきたいことがある。奈良地検は9月14日、崎浜医師と草薙氏を任意で事情聴取するとともに、2人の自宅を捜索。28日には仲介者の京都大教授を聴取し、研究室を捜索した。そして医師逮捕が10月14日。
実は、一連の捜査は、メディアに対する警告だったと囁かれているのだ。
裁判員制度導入をにらんだ最高裁の思惑
その兆候が現れたのは、9月27日。福井市で「マスコミ倫理懇談会全国大会」なる催し物が開かれたが、会場は議論が紛糾していた。09年に裁判員制度がスタートするのを控え、「裁判員に予断を与える報道はやめるべきかどうか」という報道規制問題が浮上していたのだ。席上、講師に招かれた最高裁刑事局の平木正洋参事官は、冤罪事件の象徴とされる「松本サリン事件」を取り上げ、こう口火を切っていた。
「メディアは捜査機関の情報を、真実であるかのように伝えるべきでない」
平木氏は、事件報道について「容疑者を真犯人であるかのように読者に刷り込んでいる。『無罪推定の原則』は無意味になっている」と言い切り、裁判員制度がスタートしたら次の6項目を報道すべきではないと列挙した。
①容疑者の供述調書の内容 ②容疑者の弁明を否認して犯人視する指摘 ③容疑を裏付ける証拠 ④前科、前歴 ⑤容疑者の生い立ちや人間関係 ⑥容疑者を犯人視する有識者のコメント
「つまりは容疑者が捕まったら一切報じるな、と要求しているわけだ。これでは事件報道はできなくなってしまう。出席したメディア側から『捜査の密室性をチェックする犯罪報道の意味をわかっていない』などと反発を呼び、議論は平行線になった。もちろんこうした抵抗は想定済み。そこで、並行して草薙氏の事件に着手し、関係者の逮捕で司法当局は事件報道を委縮させる手に出たんだよ」(出席者)
最高裁はすでに今年1月、新聞協会との会合の席で、上記の6項目を法的に規制しているイギリスの法廷侮辱罪をちらつかせ、法制化がイヤなら早急に自主規制しろと要求していたのである。イギリス当局はすでに、容疑者を犯人視する報道をした大衆紙を起訴し、巨額の罰金まで科している。「犯罪報道は犯罪だ」という思いも寄らない発想を直輸入しようとする日本の司法当局。そんな脅しを、メディア側は唯々諾々と受け入れるつもりなのか。
最近、鹿児島や富山などで、無罪判決が相次いだ。法廷で明らかになったのは、当局による違法な取り調べとでっち上げのプロセスだった。判決前から、そのことを問題視していたのはメディアだ。でたらめな捜査が横行する状況を、メディアは黙って見ているわけにはいかないだろう。
(由利太郎/「サイゾー」12月号より)
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