桂小五郎もびっくり!? 歴史“捏造”旅館にご用心(後編)
#歴史
もうすぐ紅葉の季節。11月ともなれば、京都は全国から紅葉目当てに集まる観光客でごった返す。ついでに歴史にゆかりのある老舗旅館に一泊して、古都の雰囲気を堪能するというのも悪くない。
京都の木屋町通り沿い、鴨川に面する料亭旅館「幾松」は、テレビ番組などでもたびたび取り上げられる有名な“老舗”だ。幕末の志士・桂小五郎ゆかりの由緒ある建物で、京都大学出身のジャーナリスト・鳥越俊太郎をはじめ、女優の菊川怜、プロボクサーの井岡弘樹などもたびたび訪れるという。
ところが、この旅館に今、“歴史捏造疑惑”が浮上しているというのだ。
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幾松“擁護派”が驚きの発言!
まず、京都検定のテキスト本である『京都・観光文化検定試験公式テキストブック』をつくっている淡交社・編集部の方にお話を伺ってみた。
「桂小五郎と幾松の逸話については諸説ありますが、どれも確たる証拠はありません。だから、一般的に主流であるという程度の認識で、『桂小五郎こと木戸孝允の妻となった松子が住んだ料亭幾松』と載せています。『幾松』さんについては私もいろいろ噂は聞きますよ。商売敵の料亭が『あれはウソだ!』と言っていたこともある。実際、あんまり突っ込まれると先方も困るんじゃないでしょうか」
驚いたことに、事実かどうかわからないようなことを検定の問題として取り上げているというのだ。ちなみに、この本の著者である武庫川女子大学の森谷尅久教授にもコンタクトをとってみたのだが、「ノーコメント」の一言だった。あまり触れられたくないようだ。
次に、幕末維新研究の第一人者であり、京都にある「霊山歴史館」学芸課長を務める木村幸比古氏に取材してみると、
「長州藩の控え屋敷があの一帯のどこかにあったのは確かです。しかし、桂小五郎と幾松が厳密にどこで会っていたのかについては、証拠は存在しません。三本木周辺なんでしょうが、すべては想像の域を超えていない。“○○ゆかりの地”なんて、ほとんど言ったもん勝ちの世界なんですよ」
とのこと。木村氏は、ジャーナリストの鳥越俊太郎氏などといっしょに何度か「幾松」から招待を受けたり、館内で講演を行ったこともある。一見、「幾松」の擁護派かと思いきや、歴史家としての意見はあくまで中立的なようだ。しかし同氏は一方で、このような見方も示している。
「確たる証拠がないからと言って、すべての逸話や伝承を否定してしまうと、歴史はロマンのない無味乾燥なものになってしまう。『幾松』さんの件については肯定も否定もしませんが、そういう話があってもいいんじゃないかとは思いますね」
証拠は“ある”??
さて、これらの意見に対して、「幾松」側はどう思っているのだろうか。直接旅館に電話をしてみると、広報担当である久保専務が取材に応じてくれた。
「世間ではいろいろ言っているようですが、証拠ならあります。幾松本人が写った写真があるのです。これを見れば、この写真がうちの館内で撮影されていることがはっきりわかります」
なんと! そのような写真が存在するとは……。だったら、最初からそれを出しておけば抗議も起きなかったのでは? というより、その写真、歴史的大発見じゃないですか? とにかく我々編集部としても真実が知りたいので、その写真を見せてくれるようにお願いしてみた。すると、
「いや、それはちょっと……」
と、歯切れの悪い回答。むむ……なにか都合の悪いことでもあるのだろうか? 結局、話をはぐらかされてしまい、写真を見せてもらうことはできなかった。なんとも腑に落ちない対応だ。
話を総合してみると、「幾松」の主張を裏付けるような証拠は、今のところ見つかっていないようだ。にもかかわらず、旅行情報サイトやテレビ番組などが、旅館側の言い分をよく調べもせずに流布してしまったせいで、あたかも史実のように世間で認知されてしまっている、というのが実情らしい。それであれほど有名になってしまうのだから、木村氏の言うように、まさに“言ったもん勝ち”の世界である。
それにしても心配なのは、万が一「幾松」の主張が否定されるような新たな証拠が発見されたときのことだ。各メディアが、手の平を返したように「歴史捏造!」「詐欺旅館!」と騒ぎ立てる姿が目に浮かぶようである。
(編集部)
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