桂小五郎もびっくり!? 歴史“捏造”旅館にご用心(前編)
#歴史
もうすぐ紅葉の季節。11月ともなれば、京都は全国から紅葉目当てに集まる観光客でごった返す。ついでに歴史にゆかりのある老舗旅館に一泊して、古都の雰囲気を堪能するというのも悪くない。
京都の木屋町通り沿い、鴨川に面する料亭旅館「幾松」は、テレビ番組などでもたびたび取り上げられる有名な“老舗”だ。幕末の志士・桂小五郎ゆかりの由緒ある建物で、京都大学出身のジャーナリスト・鳥越俊太郎をはじめ、女優の菊川怜、プロボクサーの井岡弘樹などもたびたび訪れるという。
ところが、この旅館に今、“歴史捏造疑惑”が浮上しているというのだ。
文化庁・京都商工会議所もグル?
「幾松」を運営している母体は、もともとは京都ではなく大阪で違う商売を営んでいた。それが昭和32年頃に今の土地に移り住み、その後、料亭旅館として運営を始めたのが今の「幾松」だ。だから旅館自体の歴史はさほど古くない。むしろ100年以上続く旧家が軒を並べる京都にあっては、“老舗”というのも微妙なくらいだ。問題となっているのは、現在「幾松」がある建物そのもの。
「幾松」によると、この建物は幕末時代、長州藩の控え屋敷として使われており、あの討幕の志士・桂小五郎(木戸孝允)と妻の幾松が愛を育んだ場所なのだという。館内には、新撰組に斬り込まれた際にできた刀傷や、桂が脱出のために使った抜け穴なども当時のまま残されているというのだから、幕末ファンにはたまらない。以下は、「幾松」HPからの引用。
「幾松」は、幕末の頃、倒幕運動に大きな役割を果たした木戸孝允(桂小五郎)と、幾松(のちの松子夫人)の寓居跡でございます。1810年に建てられた屋敷の2棟は国の有形登録文化財に指定されております。
なんと、文化庁より登録有形文化財(引用部の「有形登録文化財」は多分誤り)にも指定されているのだ。さらに、京都商工会議所主催の京都検定(京都・観光文化検定試験)公式テキストブックにも登場している。
ところが、これがすべて根も葉もないでっち上げだという主張が一部から上がってきているのだ。
刀傷や抜け穴なんてどこにもなかった
「幾松」が大阪から越してくる前、昭和32年頃までこの建物を利用していた人々は、皆口をそろえて「そんな刀傷や抜け穴は当時存在しなかった」と証言している。それどころか、「当時のまま残っているのは襖の金具くらいで、あとはすっかり改装されている。柱に醤油でも塗ったんじゃないか?」とのこと。これはいったいどういうことだろうか? 地元の歴史研究家に話を聞いてみた。
「桂小五郎と幾松が逢瀬を重ねていたのは、現在の旅館『幾松』のある場所ではありません。三本木の吉田屋という料亭です。吉田屋のあった場所は、今では駐車場になってしまっていますが、以前はここに“吉田屋跡”の駒札が立っていました。そこに、
桂小五郎が勤皇の志士と密会中新撰組に襲われ、幾松(後の松子夫人)の機転でドンデン返しの裏階段を通って地下道に降り鴨の河原へ遁れて事なきをえたと云われている。
と京都市の署名ではっきり書いてあったのです。この駒札は今も京都市観光協会に保存されています。旅館側は、駒札が撤去されたのをいいことに、自分たちの商売に利用しているのです。そもそも、彼らの言うような『長州藩の控え屋敷』なるものが存在したという証拠はどこにもない」
確かに、旅館側と真っ向からぶつかる主張だ。しかし、「幾松」は登録有形文化財にも指定されている。国もグルということ?
「あれは『幾松ゆかりの地』としてではなく、『鴨川河畔に位置する近代の建造物』として建物自体が登録されているだけですよ。文化庁がそうはっきりコメントしています。だいいち、あのへんの建物なら、申請さえすればどこでも認可されます」(同上)
むむ……だんだん怪しくなってきた。実はこの問題に関しては、地元の近隣住民や郷土史家を中心に、以前から調査が続けられている。その一人で、ブログなどで旅館側の主張を厳しく否定しているNさんは、
「以前は、一休.comやぐるなびなどの紹介文で、“築200年”だとか“登録有形文化財に登録されている幾松の部屋”などと、事実無根の売り文句を使っていました。現在はさすがにマズイと思ったのか、そういった文言は消されているようです。各紹介サイトに問い合わせると、『幾松さんから提供された情報を元に書いている』と言うだけで、事実関係については調べていないようでした。しかし、これだけコロコロと主張が変わるなんて、明らかにおかしい。突っ込まれたくない事情があるのでしょう」
と指摘。当時のキャッシュを見ることはもうできないが、事実だとすればなぜ変更する必要があったのか、気になるところだ。
ところで、この一連の疑惑に対して、旅館側はいったいどう思っているのだろうか。また、「京都検定」を運営している京都商工会議所や、テレビをはじめとする各メディアは、なぜ旅館側の主張をそのまま採用しているのか。その裏側を探ってみた。(後編に続く)
【後編はこちら】 桂小五郎もびっくり!? 歴史“捏造”旅館にご用心(後編)
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