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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 底辺だからこそわかるアイドルの魅力
“生涯ドルヲタ”ライターの「アイドル深夜徘徊」vol.13

底辺だからこそ見える世界がきっとある――ドラマ『婚外恋愛に似たもの』第6話

dTV『婚外恋愛に似たもの』公式サイトより

 私が学生の頃はまだ、「スクールカースト」などという言葉はなかった。ただ、クラスの中でのヒエラルキーのようなものは純然と存在していて、「サッカー部で勉強もできるイケメン」などという信じられないような男子を頂点に、コミュ力の高い者、勉強のできる者などの順番が自然とできていた。もちろん、当時からヲタクで、ごく少数の趣味の合う人とだけ話をしていた私などは、限りなく底辺に近いところにいたと思う。

 dTVで配信されている、栗山千明主演のドラマ『婚外恋愛に似たもの』。第6話では、その「底辺」にいるドルヲタが登場した。

 アイドルユニット「スノーホワイツ」(通称・スノホワ)のメンバーがラジオ番組に出演することとなり、5人分の観覧を引き当てた真美(安達祐実)であったが、娘の撫子(矢崎由紗)が行けなくなったため、代わりとして、いつも読んでいるというスノホワメンバーを題材にしたBL作品の作家を誘う。

 当日、待ち合わせ場所に現れたのは、スノーホワイツのグッズ売り場で、日がな一日写真を眺め、その体型などから『スター・ウォーズ』に出てくる「ジャバ・ザ・ハット」に似ていると噂されていた女性・片岡真弓(富山えり子)だった。

 真弓は、本も出したことがあるプロの作家だった。しかし、出版社から仕事がもらえなくなり、ネットでBL小説を書く生活をしていた。真弓は自分のことを、「デブでブスでバカで、何の取り柄もない底辺の女」という。そんなどん底の中で、スノホワのマッシュ(聖貴)に出会った。彼女もまた、アイドルに救われたひとりなのだ。

 かつて、グッズ売り場でいろいろとトラブルはあったものの、同じホワラー同士、かつ年代も近いことから、わだかまりはなく、美佐代(栗山)、雅(平井理央)、昌子(江口のりこ)とも打ち解ける。

 5人揃って観覧に向かおうとするが、真弓は緊張を隠せない。それもそのはず、お金のなかった真弓は、スノホワを生で見るのが初めてだったのだ。

 この緊張する感覚はよく分かる。私が初めてアイドルのイベントに行ったのは、今から30年ほど前。白田あゆみという女の子を見に行ったのだ。その時は、どんな服を着ていけばいいか、どんなカバンを持っていけばいいかと、ずいぶん悩んだものだ。それから、数限りないアイドル現場に行くことになるが、初めて会う女の子の場合は、今でも緊張する。

 テレビやネットで知ってはいても、実際にどんな子なのか、握手などの反応はどうか、何を話そうかと本当にドキドキする。ある意味、このドキドキが楽しみでもある。私が、一人のアイドルを応援するのではなく、いろんな現場に行きたくなるのは、そのあたりの心情が働いているからかもしれない。

 初めて生のスノホワを見た真弓は、感激のあまり放心状態となる。そして観覧後、今の気持ちを書き留めておこうとペンを走らせるのだ。

「君は光の当たる道を歩き続けて。そうしたら君を道標にして、私も前に進んでいける」

 真弓のメモにはそんなことが書き綴られていた。

「光の当たる道」。そう、人の人生はさまざまだ。多くの人の前に立って、進んでいく人もいれば、影になったところで努力している人もいる。アイドルの眩しさは、まさに光だ。海から見る灯台のように、希望という光を照らし続けている。そんな思いが凝縮された言葉であった。

 ラジオの観覧を終え、歓談している5人の元へ、ひとりの女性がやってくる。なんと、その女性は、かつて真弓が出した小説のファンであった。「この本に出会って、人生救われた」という女性に、真弓は逆に励まされた気持ちになる。

  スノホワに救われた真弓。その真弓の書いた小説に救われた女性。世の中は、それぞれの励ましの連鎖でできている。誰かを励ます人の後ろには、またその人を励ます人がいるものだ。アイドルとファンの関係もまた、その連鎖のひとつかもしれない。

 今回は、真弓が書いたBLのシーンを、実際に再現したところも興味深かった。現在も、アニメのキャラクターやアイドルを題材にした、マンガや小説は作られているが、それがアイドルファンの楽しみ方の大きな柱になっていた時代があった。まだ「コミケ」が今ほど大規模でなかった頃、アイドルのミニコミ誌を集めた「アミケ(アイドルミニコミ誌マーケット)」というイベントが開催されていたのである。そこでは、女性アイドルをモデルにした似顔絵やマンガ、評論などを集めた同人誌が売り買いされ、私も通ったものである。

 それらを作っている人に共通していたのは、対象としているキャラクターに対する愛が強いことだ。一概には言えないかもしれないが、これは、真弓が自分を「底辺」と思っていることと関係しているように思う。

 ひとりの人が持ち合わせている愛情には限りがある。それをどれだけの人に分け与えるかで、それぞれに対する強さは変わってくる。恋人でもいい、子どもでもいい、友達だっていい、恋愛に限らず「大切だ」と思えば、そこには愛情が介在する。部屋に引きこもり、ただひたすらにBL小説を書く真弓は、全ての愛情をスノホワに注いでいるといえる。底辺であることがいいとは言わないが、底辺からでなければ見えない景色もきっとある。もし今、自分の置かれている状況に苦しんでいる人がいるなら、そこからの景色をしっかりと見ていてほしいと思う。きっとその眺めは、これから行きていく中での、貴重な経験になることだろう。

 今回のラスト、5人の元へ、「スノーホワイツ解散」の報が届く。果たして、本当に解散してしまうのか? スノホワでつながっていた5人の関係は? 佳境に入ってきたドラマの行方に注目だ。

(文=プレヤード)

■ドラマ『婚外恋愛に似たもの』
dTVにて毎週金曜日配信

最終更新:2018/12/18 16:05
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