武器が目覚めさせる、人間の秘めたる暴力衝動!! 村上虹郎主演作『銃』vs池松壮亮主演作『斬、』
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研ぎ澄まされた日本刀の美しさに魅了される人は少なくない。また、洗練された機能美に満ちた拳銃にも人を惹き付ける不思議な力が宿っている。村上虹郎主演作『銃』(公開中)と池松壮亮主演作『斬、』(11月24日公開)は、どちらも人を殺傷する能力を持つ武器に引き寄せられる若者を主人公にした注目作だ。人間の中に潜む暴力衝動と、その内なる衝動を具現化する媒体との関係性を描き出している。
村上虹郎、広瀬アリス、リリー・フランキーらが出演した『銃』は、芥川賞作家・中村文則の作家デビュー作を、武正晴監督がモノクロ映像とカラー映像を巧みに使い分けることで、拳銃を初めて手にした若者の揺れる感情を臨場感たっぷりに映し出してみせた。武監督はブレイク作『百円の恋』(14)で自堕落女(安藤サクラ)がボクシングを身に付けることで鮮やかに変身していく過程を描いたが、本作でも村上虹郎は拳銃を手に入れたことで大きな変身を遂げる。
主人公のトオル(村上虹郎)は大学の授業を受けるだけの毎日に退屈していたが、ある夜から世界が一変する。雨が降る晩、トオルは河原で1人の男性の死体を見つけ、近くに拳銃が落ちていることに気づく。雨に濡れた拳銃は外灯に照らされて鈍い光を放ち、手に心地よい重さを感じさせた。トオルは警察に通報することなく、拳銃をアパートに持ち帰り、じっと眺めたり、手入れをすることが楽しくて仕方なくなる。
「実弾入りの銃を俺は持っている」という意識が、トオルの性格を変えていく。温厚な人物が車のハンドルを握った途端にスピードを出すことに取り憑かれるように、トオルの内面もどんどん変わっていく。友人に誘われた合コンでもいつになく強気で、お持ち帰りされたトースト女(日南響子)とのSEXに興じる。まるで拳銃と同化したかのように、旺盛な性欲を吐き出すトオルだった。
同じ大学に通うユウコ(広瀬アリス)は、トオルの内面的変化に気づいて心配するが、拳銃を隠していることを誰にも話せないトオルの中で暴力衝動は日に日に溜まっていく。トオルを職務質問した刑事(リリー・フランキー)は「あなたは人を撃ちたくなる」と予言し、その言葉どおりとなる。トオルの撃つべきターゲットが決まった。アパートの隣室で、いつも息子を虐待しているDV女(新垣里沙)だ。拳銃のトリガーを引く標的を見つけたことで、トオルはかつてない興奮と緊張感を味わうことになる。
池松壮亮と蒼井優が共演した『斬、』は、インディーズ映画の雄・塚本晋也監督が初めて手掛けた時代劇だ。江戸時代末期の農村が舞台。浪人の杢之進(池松壮亮)は磨き上げた剣の腕を世に役立てたいと考えている。農家の娘・ゆう(蒼井優)たちの畑仕事を手伝いながら、ゆうの弟・市助(前田隆成)を相手に木刀での稽古に汗を流していた。ある日、物静かな侍・澤村(塚本晋也)が神社の境内で別の侍を一撃で斬り倒す現場を、3人は目撃する。澤村の見事な剣筋に魅了された杢之進と市助は、澤村から動乱の京都でひと旗挙げようと誘われ、それに応じる。出発を直前に控え、血気盛んな市助は流れ者の源田(中村達也)を頭とする浪人集団と諍いを起こし、取り返しのつかない事態を招いてしまう。
村上虹郎演じるトオルは拳銃を手にしたことで実弾を発射したくて堪らなくなるのに対し、池松壮亮演じる杢之進はかなり剣の修業を積んでおり、無益な殺生は避けたいと考えている。一度でも自分の中の暴力衝動を解き放ってしまうと、元の自分には戻れなくなってしまうことを自覚しているからだ。杢之進は自分の中に淀んだ衝動が溜まってくと、こまめにオナニーすることで自分をコントロールしようとする。理性と性欲と暴力衝動とがバランスを取り合う形で、物語は進んでいく。
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