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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.501

原作者急逝、清水富美加の出家とトラブル続出!! お蔵入り寸前だった千原ジュニア主演作『ごっこ』

千原ジュニア主演映画『ごっこ』。ニートな引きこもり男・城宮はヨヨ子(平尾菜々花)と出逢い、運命が動き始める。

 男と女の関係はいつか破局するときが訪れる。結婚して夫婦になっても、離婚に至るリスクは常に伴うことになる。それならば、大好きな女の子とひとつの家族になれば、一生別れる心配がない。2016年10月20日に急死した漫画家・小路啓之さんの代表作『ごっこ』(集英社)が、千原ジュニア主演作として映画化された。40歳にしてニートの引きこもりだったダメ人間が、DVに遭っている幼女を連れ出し、親子ごっこを始める。稚拙極まりない親子ごっこだが、父親を演じることでダメ人間は否応なく成長を遂げざるをえない。千原ジュニアと娘役・平尾菜々花の家族ごっこは、我々観客の胸の奥の熱いものを喚起させる。

 千原ジュニア主演作『ごっこ』は、お蔵入り寸前となっていた映画だ。映画が完成する直前に、原作者の小路さんは心筋梗塞で突然死。また、17年2月にはメインキャストだった清水富美加が出家して千眼美子と改名し、一時芸能活動を休止するなど、次々とアクシデントが続いた。だが、それらのトラブルは、映画がお蔵入りしかけた直接的な原因ではなかった。

 多部未華子主演作『君に届け』(10)などのヒット作で知られる熊澤尚人監督が、原作コミックに出逢ったのは15年8月。生きるのがへたくそな主人公とネグレクトに遭いながらもタフに生きる幼女という2人のキャラクターに魅了された熊澤監督は、わずか2カ月後の同年10月下旬に撮影をスタート。16年1月初旬の撮影も含め、わずか計14日間で撮り上げている。高い熱量で撮り終えた本作だったが、その時点で製作費が底を突いてしまい、映画の仕上げや劇場とのブッキングが遅れてしまったというのが真相だ。

 公開が遅れたことにより、『ごっこ』はさらに思わぬ事態に陥った。児童虐待、幼児の連れ去り、年金の不正受給、血縁のない疑似家族による居場所づくり……という多くの社会的テーマが盛り込まれている『ごっこ』だが、それらの要素は6月に公開されて国内興収だけで40億円を越える大ヒットとなった是枝裕和監督のオリジナル脚本作『万引き家族』と丸被りしている。撮影は『ごっこ』のほうが早かったが、17年に主要パートが撮影された『万引き家族』が先に完成し、カンヌ映画祭パルムドール受賞という輝かしい栄誉を博している。話題性も含め、後塵を拝する形となってしまった。では、『ごっこ』は不運つづきの日陰の存在なのだろうか。

少年期に引きこもりを体験している千原ジュニアだけに、衝動的に生きる城宮役は感じるものがあったようだ。物語後半にはぶちキレる場面も。

 物語の始まりは、とても些細だ。おもちゃのBB弾がきっかけで、『ごっこ』の主人公たちの運命は動き始める。城宮(千原ジュニア)は生活能力のまるでないダメ男。アパートの自室に引きこもり、もう40歳になる。ある日、近所の悪ガキどもがBB弾で城宮の部屋の窓ガラスを一斉射撃した。怒った城宮が長年閉め切っていた窓ガラスを開けると、城宮の目にお向かいの二階にいた幼女(平尾菜々花)の姿が目に入る。幼女は虐待されているらしく、傷だらけだった。後先のことを考えずに衝動的に幼女を連れ出す城宮だったが、幼女から「パパやん!」と呼ばれ、このとき決意する。この子は欲望の対象じゃない、この子の父親になろうと。

 幼女を「ヨヨ子」と呼ぶようになった城宮だが、自分の生活費も満足に稼げないため、寂れた帽子屋を営む父親(秋野太作)の実家にヨヨ子を連れて転がり込む。父親は事情を訊くことなく、ひとり息子である城宮に別れを告げる。近所には老人ホームに入居すると伝え、年金は城宮が受け取れるよう銀行振込みにして人知れず自殺を遂げる。不正受給で手に入れたお金で、家族ごっこを始める城宮とヨヨ子だった。

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