新宿に乱れ咲く、大人のファンタジーワールド!! 理想の淑女と悪女が入り乱れるピンク映画傑作選
#映画 #パンドラ映画館
物語は小さければ小さいほどいい。多くの人は忘れてしまうかもしれないけど、ささやかなエピソードが妙に心に残ってしまう。そんな逆説的な面白さを持った作品が、ピンク映画には少なくない。ピンク映画ならではの優れものの新作をラインアップしたのが、テアトル新宿で開催される「OP PICTURES+フェス2018」だ。成人映画専門館に入ることにハードルの高さを感じてしまうライトユーザー向けに、幅広くピンク映画の魅力を知ってもらおうと2015年から始まった特集上映で、この夏で4回目となる。
人気セクシー女優の川上奈々美が主演した、竹洞哲也監督の『つないだ手をはなして』は、本当にちっぽけな物語だ。大学生の大智(細川佳央)は母親に紹介するつもりでいた恋人に浮気されてしまう。実家に戻るのは気まずいので、叔母がひとりやっている民宿にしばらくお邪魔することに。民宿で引きこもり同然の生活を送っていた大智を心配して訪ねてきたのは、サークルの後輩・千夏(川上奈々美)だった。大智のことを慕う千夏だが、失恋の痛手が癒えない大智はぞんざいに扱ってしまう。「先輩のためなら、なんでもします」という千夏に愛のないSEXを強要するなど、やりたい放題だった。
千夏が大智に対して従順で、何をされても笑顔でいるのには理由があった。サークルに入った頃の千夏は、ぼっち状態だった。淋しそうにしていた千夏に、優しく声を掛けたのが大智だったのだ。千夏を散歩に連れ出した大智は「今度、海を見に行こう」と約束し、手をつないでくれた。大智はそんなことをすっかり忘れていたが、千夏にとっては大切な思い出だった。季節はずれの民宿で、2人は束の間の同棲生活を送ることになる。
失意の男のもとに、かわいい女性が現われ、欲望のすべてを受け入れてくれる。男にとって都合のよすぎる妄想系の物語である。だが、そんな非現実的な物語に、リアリティーのあるちょっとしたエピソードが隠し味的に盛り込まれている。民宿で暮らしながら大智はアルバイトに出掛けるようになるが、寝癖で髪がツンツンなことに千夏は気づく。濡れタオルを電子レンジでチンし、大智の頭の上に熱くなったタオルを載せる千夏。「これで、すぐに寝癖が直るんです」とにっこり笑う。このときの川上奈々美の笑顔が無性に愛おしく感じられる。
大智と千夏は、フェデリコ・フェリーニ監督の名作『道』(54)の主人公ザンパノとジェリソミーナのようだ。粗野な旅芸人のザンパノは純真なジェルソミーナに支えられながらも、それを当たり前のように振る舞う。やがてジェリソミーナを足手まといに感じ、ザンパノはあっさりと彼女を捨ててしまう。ひとりぼっちで旅を続けるザンパノは、やがて自分が失ったものの大切さに気づくことになる。
就職活動のために、大智は東京の大学に戻った。結局、千夏とはきちんと付き合うことなく、民宿から追い出してしまった。面接に向かう朝、鏡を見た大智は寝癖がひどいことに気づき、電子レンジでチンした濡れタオルを頭に載せる。頭がほんわかと温かくなるのと同時に、大智は千夏のことを思い出す。そのとき、彼女が自分に与えてくれたものは無償の愛だったことをようやく知ることになる。男はみんな大バカものだ。過ぎ去っていった記憶の中でしか、大切なことを学べない。
昨年末に惜しまれながら女優業を引退した涼川絢音が主演した、山内大輔監督の『ひまわりDays』もジェリソミーナ感の強い“理想の女性像”を描いた作品となっている。主人公のカズオ(櫻井拓也)は仕事も恋人も同時に失い、人生のどん底にあった。だが、捨てる神あれば拾う神もあり。たまたま入ったスナック「ひまわり」で、ひまわりのような大きな笑顔を見せる女の子・ミカヨ(涼川絢音)と出逢うことになる。
いつも明るいミカヨだが、知的障害を持ち、幼い頃に親に捨てられて養護施設で育ったという複雑な生い立ちを背負っていた。だが、同じ施設で育ったスナックのママ(黒木歩)とその夫・ゴロウ(川瀬陽太)に見守られ、今はとても幸せそう。スナックに通ううちに、カズオはすっかりミカヨになつかれてしまう。そんなある日、ミカヨを捨てた父親がまだ生きていることが分かる。
ミカヨの父親は病院に入院しており、余命わずかだった。ひとり娘のミカヨに会いたがっているという。虫のいい話だが、ママもゴロウも仕事を抜けられないため、カズオが付き添うことになる。ミカヨは自分を捨てた父親に向かって、カズオのことを「私のお婿さんになる人」と紹介する。ミカヨの気持ちはうれしい。だが、今の自分に彼女の人生を支えながら生きていくことができるのか。ミカヨと一夜を共にするカズオだったが、次第に足は「ひまわり」から遠のいてしまう。
川瀬陽太の熱演が映画ファンの間で話題を呼んだ『犯る男』(15)など、エッジの利いたシリアスな作品の多い山内監督だが、『ひまわりDays』は一転してハートウォーミングな世界となっている。涼川絢音は天使のように微笑み、黒木歩と川瀬陽太は困っている人を見ると放っておけない超が付くほどのお人好しキャラを演じている。「こんなスナックがあればいいな」と思わせる大人のファンタジー空間となっている。
男が夢見るファンタジーの世界にリアリティーをもたらしているのが、ミカヨが作る手料理だ。手の込んだごちそうではなく、インスタ映えしそうにない地味なコンニャクの煮物なのだが、カズオはこの煮物の味付けがとても舌になじむ。カズオはこの女と一緒に暮らしたいと思う。たかがコンニャク、されどコンニャクである。
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