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日刊サイゾー トップ > インタビュー  > 内藤監督が未成年の犯罪を撮る理由
映画『ミスミソウ』公開記念インタビュー

トラウマ映画“先生を流産させる会”の内藤瑛亮監督が未成年者の暴力や犯罪を撮り続ける理由とは?

押切蓮介原作のトラウマ漫画の映画化『ミスミソウ』。家族を奪われた春花(山田杏奈)はクラスメイトたちへの復讐を実行に移す。

 愛知県で起きた実在の事件を題材にした自主映画『先生を流産させる会』(12)でセンセーショナルな長編デビューを飾った内藤瑛亮監督。その後も山田悠介の同名小説を原作にした『パズル』(14)や古屋兎丸の原作コミックを実写映画化した『ライチ☆光クラブ』(16)とR指定の問題作・話題作を次々と手掛けている。未成年者による犯罪や集団内における暴力をテーマにしたものがほとんどだ。トラウマ漫画として知られる押切蓮介の人気コミックを映画化した『ミスミソウ』も、内藤監督ならではの狂気の世界となっている。

 4月7日から劇場公開が始まった『ミスミソウ』の主人公は、東京から山村の中学校へと転校してきた野咲春花(山田杏奈)。クラスメイトたちはみんな小さいときからずっと一緒だった幼なじみ同士で、よそ者の春花はいじめの標的となってしまう。学校での味方は、やはり転校生だった相場(清水尋也)だけ。クラスの女王的存在である妙子(大谷凜香)の取り巻きたちによる春花へのいじめは日に日にエスカレートし、ついには春花の留守中に春花の家族がいる家に火が放たれてしまう──。10代の少年少女たちの揺れ動く心理、暴発する情念を見事に描き切った内藤監督にトラウマ映画を撮り続ける理由、そして教員時代の体験について語ってもらった。

──『先生を流産させる会』以降、内藤監督は商業シーンでも自分のカラーを守りつつ、順調に映画監督としてのキャリアを重ねているように映りますが、本人的にはどうですか?

内藤瑛亮(以下、内藤) そうでもないです。自分がやりたい題材とオファーされたものが大きく乖離していたり、なかなか自分のやりたいようにできずに断念することが多いんです。『ライチ』の前後に幾つかそこそこの規模の大きな企画がオファーされたんですが、どうしても自分としては納得できずに企画から離れたり、お断りすることが続いて。それで『先生を流産させる会』の頃に戻って、『許された子どもたち』という作品を自主製作で撮ることに決めて、その準備を進めていたところ、『ミスミソウ』の監督を頼まれたんです。でもクランクインの1カ月前というタイミングでした(笑)。普通なら1カ月の準備で監督するのは到底無理なんですが、自分がやりたいと思える企画だし、自分なら面白い映画にできるという確信があって受けたんです。

──規模の大きな企画を断った理由を、もう少しお聞きできますか。

内藤 原作つきの企画だったんですが、映画を面白くするためのアイデアを僕から提案したところ、「いや、原作ファンはそこまで考えていません。監督、そんなに頑張らなくてもいいです。テキトーでいいですよ」みたいに言われたんです。監督としては100点、120点の映画をいつも目指しているわけで、それでも100点には届かないんですが、最初から「60点でいいよ」と言われているような気がして。それでは、ちょっと頑張れないなぁと。

──仮にオファーを受けても、途中でトラブルになっていたでしょうね。今回の『ミスミソウ』は準備期間がなかったことが逆に幸いして、内藤監督のやりたいことができたような印象を受けます。

内藤 それはあるかもしれません。映画製作って企画開発の期間がすごく長くて、その間にいろんな人の意見が入ってきて、監督としてはその調整に気を使うことになりがちですけど、今回は『ミスミソウ』という原作コミックを面白い映画にするためにはどうすればいいかに、ストレートに向き合えたように思います。その分、撮影現場は混乱続きでしたけど(苦笑)。

──図らずも、自主映画っぽい現場だった?

内藤 結果的にそうなっちゃいましたね。キャストとのリハーサルなどはしっかりやったんですが、クランクイン前に美術スタッフと打ち合わせをする時間がなくて、現場を仕切るラインプロデューサーに一括して僕からの要望を伝えていたんです。なので行き違いは何度かあって、例えば撮影前日になって小道具のMDプレイヤーが用意されていないことがわかったこともありました。都内から離れたロケ先だったんですが、宿泊先のホテルの従業員の方が地元の知り合いに電話を掛けまくってくれて、奇跡的にMDプレイヤーが見つかったんです。

──人間の残酷さを徹底して描く内藤作品ですが、実はそういったいろんな人たちに支えられて完成しているんですね。撮影までの準備期間1カ月という無茶なスケジュールながら完成した『ミスミソウ』ですが、原作が持つ力がやはり大きかった?

内藤 大きかったですね。『パズル』が公開された頃、Twitter上で「もし『ミスミソウ』を映画化するなら、内藤がいいんじゃないか」という声が上がっていたので、僕も気になって押切さんの『ミスミソウ』を読んだんです。純粋に面白かったし、自分に期待されていることもよくわかりました。撮りたいなと思っていたら、すでに他の監督で準備が進んでいたんです。「あ~、俺じゃないんだ」と諦めていたんですが、巡り巡って撮影の1カ月前になって僕のところに回ってきました(笑)。主演の山田杏奈さんはキャスティングされる前から原作を読んでいたそうですし、僕と同世代でも「やりたかった」と言っている他の監督もいましたし、長く愛されている作品なんだなと実感しました。

クランクアップを迎えた内藤監督(中央)、主演の山田杏奈、相場役の清水尋也。卒業証書には原作者からの手描きのイラストが添えられていた。

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