「医者じゃなきゃ彫れないなんて、バカげている」“イレズミ訴訟”の行方と、業界団体設立の動きを追う
イレズミを入れるのに、医師免許は必要か──。昨年9月、大阪地裁が下したひとつの有罪判決が、大きな波紋を呼んでいる。
医師免許がないのに客3人にタトゥーを施したとして医師法違反で罰金15万円(求刑罰金30万円)の有罪判決を受けたのは、大阪でタトゥースタジオを営む彫り師・増田太輝被告。2015年8月に略式起訴され、翌9月に下された略式命令を拒否して被告側から正式裁判を求めた異例の訴訟だったが、無罪を訴えた増田氏の主張はいったん、裁判所に退けられた形だ。
この判決に対し、増田氏と弁護団は即日控訴。引き続き、憲法が保障する職業選択や表現の自由に反するとして、無罪を訴え続けていくことになった。
この判決を「バカげている」と断じるのは、弁護団に名を連ねる弁護士・吉田泉氏。この判決に端を発し、法改正を求める彫り師の業界団体「日本タトゥーイスト協会(仮)」の設立にも動きだした。
「医者じゃなきゃダメという判決は、もうイレズミはなくなってもいいということ。あの裁判官は、たぶんイレズミが嫌いなんでしょう。偏見があるんです。それをなくしていかなきゃいけない」(吉田氏/以下同)
イレズミを入れる行為が「医業に該当する」と厚生労働省から通達が出たのは、平成13年のこと(医政医発第105号)。それから10年あまりの無風状態を経て、ここ数年、いわゆる“反社”と関わりのない彫り師の摘発が相次いでいる。業界内に困惑が広がる中、刑法学者の高山佳奈子京都大学教授、刑法・医事法のスペシャリストである辰井聡子立教大学教授といった専門家からも、当局による不可解な法の運用を批判する声が相次いでいる。
吉田氏が言うように、彫り師に医師免許が必要なら、事実上、この国から彫り師という職業が消滅することになる。協会の設立に向けた説明会には、東京・大阪ともそれぞれ50人超の危機感を抱いた彫り師が集まった。
「彫り師のための新しい法整備というか、『医師法(での摘発)はないだろう、ちょっと改善してくれ』という意見を国会議員に持っていくにしても、個々が言っても取り上げてくれる可能性は低いので、『こういう団体でちゃんとやっています』という形を作るのは大事だと思っています。単純にライセンス化を求めるという話ではなく、彫り師の方々で『こうあればいいんじゃないか』という議論をしてほしい。その議論を国会なりに伝えていくのが、僕たちの役目です」
また協会では、「安全管理措置の徹底」「事前の十分な説明と顧客の意思の尊重」といった基本原則を掲げる。
「そもそも『安全管理の徹底をしましょう』というのは、心ある彫り師さんたちは、すでにみんなやっていること。消毒や殺菌、針の使い回しをしないなど、歯医者さん以上の衛生を保っている。『そういう基本の手順を“見える化”しましょう、いまやっていることを、ちゃんと明らかにしてアピールしましょう』ということです。海外からのお客さんも多いので、世界レベルの衛生を保たないと、やっていけない業界ですから」
吉田氏は“ダンス規制”(16年6月にダンス営業規制を緩和する改正風俗営業法が施行された)の運動にも関わっていたが、現状ではイレズミ問題に対する国会議員のリアクションも芳しくないようだ。
「法律で、『踊ってはいけない』という。(イレズミ規制に)それと同じバカバカしさは、みんな感じていると思うんですよね。ただ、イレズミのイメージというのは、ダンスと比べるとよくないのかもしれない。同じバカげている法律の規制であっても、ダンスのときはあれだけ国会議員が集まって『ダンス議連』ができて、国会で議員が踊ってアピールするということもありましたが、あの盛り上がりが今のところイレズミに欠けているのは確かです。そこに危機感はあります」
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