せめてネットくらいでは輝きたい! さえない日常が“匂わせ”に火をつける
#本 #インタビュー #石徹白未亜
2017年の新語・流行語大賞にも選ばれた「インスタ映え」。インスタに限らず、SNSで家族、恋人、友人に恵まれて幸せ/仕事が充実している/リッチな生活をしている……といった知人の匂わせ投稿に血圧が上がったことが一度もない人など少ないはずだ。“匂わせ”とは何なのか? なぜ人は匂わせてしまうのか? 『自分のすごさを匂わせてくる人』(サンマーク出版)著者であり心理学博士の榎本博明氏に聞いた。
■匂わせは悪いことばかりではない! ~人間関係を円滑にする匂わせ~
――“匂わせ”というとSNSの自慢投稿を想像してしまいますが、『自分のすごさを匂わせてくる人』では、匂わせを悪いことだけでとらえていないのが新鮮でした。
榎本博明氏(以下、榎本) 匂わせは悪いことばかりではありません。匂わせは“自分の印象をどういう風に相手に伝えるか”ですよね。「印象操作」と言ってしまうと悪い印象がありますが、匂わせとは自分がどういう印象を持たれたいかという情報の与え方なのです。
――セルフプロデュースは多かれ少なかれ全員がしていますもんね。
榎本 また、匂わせにより相手とのミスマッチを防げます。私自身も仕事の依頼を受けることがありますが、「こういうことが好きだ(できる)、逆にあれは嫌いだ(できない)」と匂わせていないと、仕事はうまく進みません。
例えば、私はバラエティ番組には出たくないのですが、匂わせておけば、そういった依頼は来なくなります。ミスマッチのまま進んでしまった方がお互い時間も無駄にしてしまいますし、気まずくなってしまいますから。
プライベートでも一緒で、価値観やどういう付き合いをしていきたいかとか、相手に望むものなどを匂わせておけば、あとからのミスマッチを防げます。
――スタンスを明確に表明するとちょっと角が立つようなことに匂わせをうまく使うのは、日本的な知恵とも言えますね。
■せめてネットでは輝きたい!~さえない日常が匂わせに火をつける~
――でも、匂わせは短所もありますよね。
榎本 はい。ついやりすぎてしまう。承認欲求が高まりすぎて、相手の反応について想像力を働かせられず、やりすぎて反発を食らってしまう。
――SNSが承認欲求を加速させているのではと思うこともあります。
榎本 そうですね。SNSで、人の目を無茶苦茶意識するようになってしまった。
学生たちに心理学の講義で、承認欲求の話をすると反響が高いです。「SNSをしていたころは辛くて、やめたらありのままの自分でいられた」と言った学生もいました。それも友達には言いづらいようで、私に言うんですね。
――もともと日本人は人の目を気にする傾向が強いですが、SNSでますますそうなってしまったところはあるでしょうね。
榎本 SNSが流行る前は、職場や学校では人の目を気にして自分を抑えていても、職場や学校を出て、一人になれば自由になれた。でも今は歩いていても電車に乗っていてもスマホからSNSの通知が来ます。起きている間、ずっと人の目を気にしないといけない。
人の目を意識しだせば「認められたい」「馬鹿にされたくない」「仲間外れにされたくない」という思いが出てきます。それでついつい匂わせをやりすぎてしまう。
■24時間、365日輝いていなくてはいけないという風潮
榎本 スマホが匂わせを加速させているところもありますね。パソコンの時代でも、むかついたり目立ちたいという思いから何か匂わせたいと思った人はいたでしょう。でもパソコンの前に座るまでの時間に「やっぱりやめとこう」と冷静になった人は多かったと思います。しかし今はスマホがあるから、衝動的にすぐ書き込めてしまう。
――「承認欲求」「衝動」が、「自分がすることが人からどう思われるかという想像力」を上回ってしまうんですね。匂わせやすい人はどのような特徴があるのでしょうか。
榎本 承認欲求が強く、かつ満たされていない人です。現状が満たされていないから承認欲求が強くなってしまうのですが。
あと、最近の風潮も匂わせを加速させていますよね。政府も「全ての女性が輝く社会づくり」とか言っているじゃないですか。芸能人やスポーツ選手、政治家ならともかく、一般の人がいつも輝け、輝けと言われてもですよね。
――他人の匂わせを見ると、闘争心に火がついてしまうというのもありますよね。
榎本 でも、仕事でも、プライべートでも輝けるものがないという場合、じゃあ、何で輝けるか……? となると、ネットの世界で虚勢を張ることになってしまう。ネットで、現実離れした自分を匂わせてしまう。満たされない承認欲求が匂わせに走らせているのです。
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